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新たな始まり
海鮮料理を味わう
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馬車乗り場に到着すると、すでにエスカが待っていた。
今回は討伐依頼ではないので、私服姿で武器は携帯していないようだ。
「おはようございます!」
「おはよう。知り合いのフランが一緒にガルフールに行きたいみたいなんだ」
「ごきげんよう、わたくしはBランク冒険者のフランですわ。お見知りおきを」
「はじめまして、冒険者のエスカです。Bランクなんてすごいですね!」
「ふふっ、鍛錬に励めば誰でもなれますわよ」
アデルに会うという目的のためなのか、フランが意外と控えめだった。
「皆さま、馬車の準備ができております。よろしけば、どうぞ」
俺たちが話していると御者が声をかけに来た。
ロゼル方面に行った時と同じ人だった。
「それじゃあ、そろそろ乗ろうか」
俺とエスカ、フランは順番に客車に乗りこんだ。
「それでは、ガルフールに向けて出発いたします」
馬車がゆっくりと動き出して、バラムの町を出発した。
予定通りなら、今日の夕方には目的地に到着する。
数日前に何度か雨が降ったが、今日は晴天だった。
ガルフール方面に行く機会は少なく、通り過ぎる景色が目新しく感じられた。
フランが個性的なので、エスカとの相性を心配していたが、同じ世代の冒険者ということもあってか、楽しげに世間話をしている。
馬車は和やかな雰囲気のまま、海辺の町へと向かった。
途中で何度か休憩を取りながら、夕方にはガルフールに到着した。
この世界で初めて目にする海は、潮風の匂いがどこか懐かしい感覚を抱かせた。
日は傾いているが、まだ十分に明るさを感じる。
海岸には白い砂浜と遊歩道の脇に生えるヤシの木、通りにはオレンジ色の屋根と淡い黄色の外壁という明るい色調の建物が見える。
この町に土地勘がなく、移動中に御者から宿や食事ができる場所を聞いておいた。
「みんな、お腹が空かないか? まずは夕食にしようと思う」
「賛成です! フランもいいですよね」
「そうね、わたくしもよろしくてよ」
エスカはともかく、フランが協力的で安心した。
俺たちは馬車を下りたところから、御者が教えてくれた食堂へ向かった。
「……これが食堂?」
想像していたよりも上等な店構えで驚いた。
魔力灯でライトアップされて、いい雰囲気を醸し出している。
「もしかして、お財布の心配でもしているのかしら」
「いや、大丈夫。エスカもいいかな」
支払いに困ることはないと思うが、もしもの時はアデルマネーもある。
「遠征の報酬を頂いたばかりなので、ご心配なく」
というわけで、三人で入店した。
「ようこそ、ブラスリーへ」
淡い色のシャツにエプロンをかけた店員が出迎えてくれた。
「えっと、三人です」
「どうぞ、こちらの席へ」
案内された席にはテーブルクロスがかけられている。
外観だけでなく、店内も洗練された空間のように感じられた。
俺たちがそれぞれ席につくと、先ほどの店員が注文を取りに来た。
「食前酒はどうなさいますか?」
メニューがないのだが、とりあえず生というわけにもいかない。
焼肉店とはいえ飲食店を経営する者として、無難に注文を済ませたかった。
「シャンパンはありますの?」
「ございます。人数分お持ちすればよろしいですか」
「そうですわね、それでお願いしますわ」
「かしこまりました」
気遣いのつもりだったのか分からないが、フランがさらりと注文を済ませた。
「あら、シャンパンはお好きではないのかしら」
「いやいや、そんなことは」
「わたしもいいですよ」
同じく庶民派のエスカもこういう店は不慣れみたいで、表情が固くなっていた。
それから、シャンパンで乾杯した後、本日のおすすめコースを三人分注文した。
メニューなしで頼むのは至難の業だったので、とても助かった。
突然ではあるが、ブラスリーさんのコース料理を紹介していこう。
前菜:生ガキとムール貝に新鮮なレモンを添えて
スープ:ロブスターのビスク風
主菜:スズキの焦がしバターソース
デザート:季節のフルーツのタルト
生ガキは腹痛を起こしそうな不安もあったが、もしもの時は回復魔法が使える冒険者を探すことにして食べた。
ビスク風は文句のつけようがない味で、主菜のスズキは臭みが全くなくて驚いた。
タルトにはジャバラという柑橘が使われており、独特の風味で癖になる味だった。
肝心の料金は、シャンパンと合わせて一人当たり銀貨五枚。
店の雰囲気と料理の味を考えれば妥当な金額だった。
「ありがとうございました。またのお越しを」
店員に見送られて店を出ると、外は暗くなっていた。
夜になって風が涼しくなり、潮風が心地よく感じた。
シャンパンを飲んだので、その影響もあるかもしれない。
いい気分で歩き始めたところで、ふいに右腕に重みを感じた。
「マルクさーん」
エスカが腕にしがみついていた。
「エスカくん、酔ってるんじゃない?」
「そんなことありませーん」
これは酔っ払いの発言だ。
振りほどくわけにもいかず、彼女の豊満な胸が当たり始めたところで新たな衝撃が届いた。
「わたくしのエスカ、愛してますわー!」
「何が起きたんだ?」
今度はエスカの背中にフランがくっついた。
二人を引っ張るようなかたちで、ゆっくりと歩き始めた。
「まったく、もう……」
「ガルフール、最高ー!」
「エスカは柔らかいですわ、気持ちいい」
ガルフールは観光地なので、この時間でも通行人が多い。
彼らの痛い視線を浴びながら、今宵の宿に向かった。
今回は討伐依頼ではないので、私服姿で武器は携帯していないようだ。
「おはようございます!」
「おはよう。知り合いのフランが一緒にガルフールに行きたいみたいなんだ」
「ごきげんよう、わたくしはBランク冒険者のフランですわ。お見知りおきを」
「はじめまして、冒険者のエスカです。Bランクなんてすごいですね!」
「ふふっ、鍛錬に励めば誰でもなれますわよ」
アデルに会うという目的のためなのか、フランが意外と控えめだった。
「皆さま、馬車の準備ができております。よろしけば、どうぞ」
俺たちが話していると御者が声をかけに来た。
ロゼル方面に行った時と同じ人だった。
「それじゃあ、そろそろ乗ろうか」
俺とエスカ、フランは順番に客車に乗りこんだ。
「それでは、ガルフールに向けて出発いたします」
馬車がゆっくりと動き出して、バラムの町を出発した。
予定通りなら、今日の夕方には目的地に到着する。
数日前に何度か雨が降ったが、今日は晴天だった。
ガルフール方面に行く機会は少なく、通り過ぎる景色が目新しく感じられた。
フランが個性的なので、エスカとの相性を心配していたが、同じ世代の冒険者ということもあってか、楽しげに世間話をしている。
馬車は和やかな雰囲気のまま、海辺の町へと向かった。
途中で何度か休憩を取りながら、夕方にはガルフールに到着した。
この世界で初めて目にする海は、潮風の匂いがどこか懐かしい感覚を抱かせた。
日は傾いているが、まだ十分に明るさを感じる。
海岸には白い砂浜と遊歩道の脇に生えるヤシの木、通りにはオレンジ色の屋根と淡い黄色の外壁という明るい色調の建物が見える。
この町に土地勘がなく、移動中に御者から宿や食事ができる場所を聞いておいた。
「みんな、お腹が空かないか? まずは夕食にしようと思う」
「賛成です! フランもいいですよね」
「そうね、わたくしもよろしくてよ」
エスカはともかく、フランが協力的で安心した。
俺たちは馬車を下りたところから、御者が教えてくれた食堂へ向かった。
「……これが食堂?」
想像していたよりも上等な店構えで驚いた。
魔力灯でライトアップされて、いい雰囲気を醸し出している。
「もしかして、お財布の心配でもしているのかしら」
「いや、大丈夫。エスカもいいかな」
支払いに困ることはないと思うが、もしもの時はアデルマネーもある。
「遠征の報酬を頂いたばかりなので、ご心配なく」
というわけで、三人で入店した。
「ようこそ、ブラスリーへ」
淡い色のシャツにエプロンをかけた店員が出迎えてくれた。
「えっと、三人です」
「どうぞ、こちらの席へ」
案内された席にはテーブルクロスがかけられている。
外観だけでなく、店内も洗練された空間のように感じられた。
俺たちがそれぞれ席につくと、先ほどの店員が注文を取りに来た。
「食前酒はどうなさいますか?」
メニューがないのだが、とりあえず生というわけにもいかない。
焼肉店とはいえ飲食店を経営する者として、無難に注文を済ませたかった。
「シャンパンはありますの?」
「ございます。人数分お持ちすればよろしいですか」
「そうですわね、それでお願いしますわ」
「かしこまりました」
気遣いのつもりだったのか分からないが、フランがさらりと注文を済ませた。
「あら、シャンパンはお好きではないのかしら」
「いやいや、そんなことは」
「わたしもいいですよ」
同じく庶民派のエスカもこういう店は不慣れみたいで、表情が固くなっていた。
それから、シャンパンで乾杯した後、本日のおすすめコースを三人分注文した。
メニューなしで頼むのは至難の業だったので、とても助かった。
突然ではあるが、ブラスリーさんのコース料理を紹介していこう。
前菜:生ガキとムール貝に新鮮なレモンを添えて
スープ:ロブスターのビスク風
主菜:スズキの焦がしバターソース
デザート:季節のフルーツのタルト
生ガキは腹痛を起こしそうな不安もあったが、もしもの時は回復魔法が使える冒険者を探すことにして食べた。
ビスク風は文句のつけようがない味で、主菜のスズキは臭みが全くなくて驚いた。
タルトにはジャバラという柑橘が使われており、独特の風味で癖になる味だった。
肝心の料金は、シャンパンと合わせて一人当たり銀貨五枚。
店の雰囲気と料理の味を考えれば妥当な金額だった。
「ありがとうございました。またのお越しを」
店員に見送られて店を出ると、外は暗くなっていた。
夜になって風が涼しくなり、潮風が心地よく感じた。
シャンパンを飲んだので、その影響もあるかもしれない。
いい気分で歩き始めたところで、ふいに右腕に重みを感じた。
「マルクさーん」
エスカが腕にしがみついていた。
「エスカくん、酔ってるんじゃない?」
「そんなことありませーん」
これは酔っ払いの発言だ。
振りほどくわけにもいかず、彼女の豊満な胸が当たり始めたところで新たな衝撃が届いた。
「わたくしのエスカ、愛してますわー!」
「何が起きたんだ?」
今度はエスカの背中にフランがくっついた。
二人を引っ張るようなかたちで、ゆっくりと歩き始めた。
「まったく、もう……」
「ガルフール、最高ー!」
「エスカは柔らかいですわ、気持ちいい」
ガルフールは観光地なので、この時間でも通行人が多い。
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