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第五章
エピローグ
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俺としては大事なことを打ち明けたつもりだったのだが、サリオンがこれまでと変わらない様子で意見を述べる。
「それにしても、近隣に王の試練なるものに適した土地など思い当たらない。かなり遠くへ魔法陣で飛ばされたと見るべきでしょう」
「何となく想像はついたけど、やっぱりそうなんだ。王様や大臣は秘密を明かしたくないだろうから、詳しいことは教えてくれないかも」
内川のことだけでなく、転移した六人の消息を追うことも困難だと感じる。
神妙なサリオンの表情からもそれが分かる。
「ただ、異なる王家とはいえエリー……エリシア様なら、何か知っているかもしれません。それにヴィルヘルム陛下も協力してくれるはず」
「そうか、その手があったんだ。それなら期待できるかも」
「お二人は旅団の働きに感謝されているそうです。エリシア様はカイトの活躍をご存知ですから、頼みを無下にすることはないと思います」
サリオンの前向きな言葉に気持ちが上向くように感じた。
出会いはいまいちだったが、こうして力になってくれることを頼もしく思う。
それから翌日のこと。
ウィニーという強力なコネのおかげで、ヴィルヘルム王に謁見する機会を得ることができた。
解放されたばかりの時とは違い、身なりの整った王様の前で話すのは緊張した。
それでも、俺だけにしか伝えられないことなので、知る限りのことを全て話した。
王様は説明を聞いた後、ウィニーと数人の兵士を調査に行かせることを約束してくれた。
サリオンの言った通り王家ならではの情報網があるようで、王様は試練の地について知っているようだった。
重要機密ということで詳しくは教えてもらえなかったものの、六人がその場所に残っていれば見つけることは可能という答えを聞くことができた。
謁見の日からさらに時間が経った。
ウィニーが加わった調査団はかなり遠くまで行ったようで、彼らが戻って頃には月日が経過していた。
――結論から言えば、六人を見つけることはできなかった。
しかし、周辺でイチハ族風の若者を見たという目撃情報があり、生き残っている可能性はあると聞かされた。
今回の調査団はウィニーを筆頭に精鋭で編成されていて、裏を返せば自分のように未熟な者は試練の地の方へは行けないということになる。
元の世界に戻れる兆候がない状況で、クラスメイトの存在は希望そのものだった。
いつしか俺は強くなって、彼らを探しに行けることを目標にするようになった。
旅団での依頼をこなしつつ、時間のある時にはウィニーの伝手で腕利きの兵士に武器の扱い方を教えてもらうことが増えた。
俺が強くなるまでに六人が生きているか分からない。
いつか、クラスメイトや親友の内川と再会できる日まで、自分にできることを続けていこうと決めたのだ。
マルネ王国近郊の森。ゴブリンが出たという報告を受けて、サリオンと一緒に来ている。
モンスターをぶった切れる度胸を身につけたいところだが、なかなか克服できないまま現在に至る。
ゴブリンを攻撃することさえも恐怖でしかなく、俺は別の方法を選ぶことにした。
「サリオン、一体かかってる」
「どれどれ……見事なものですね」
ゴブリンの好物でおびき寄せて、罠にかかると絶命するという仕組みだ。
初めて見た時はゴブリンの遺骸をまともに見れなかったものの、少しずつ慣れ始めている。
もっとも、積極的に見たいものではないのだが。
「悪いんだけど、耳を切るのやってくれる?」
「まだダメですか? 私は構いませんが、そろそろできるようになってもいい」
サリオンは小言を口にしつつ、討伐成功を意味するゴブリンの耳をナイフで切り取った。
克服するとしたらこの作業からだなと思いつつ、彼が手慣れた様子でカットするところは心臓に悪い。
残った頭部や胴体はミレーナ特製の粉を振りかければ溶けるため、遺骸の処理をせずに済むのは気が楽だった。
サリオンが作業を終えたところで罠の解体を行う。
ゴブリン以外に野生動物がかかることはないのが、事故防止のためにやらなければいけないことだった。
討伐が済んでからは依頼人に完了を報告するために王都へ戻る。
ゴブリンを見つけた人は近くに畑があるため、討伐依頼を出していた。
そのため、俺たちが解決したことを伝えるとホッとしたような顔を見せた。
依頼人から報酬を受け取った後、二人で王都内の拠点へと移動した。
「おかえりっす」
「ただいま、今日はみんないるんだね」
拠点として使っている洋館に旅団の面々が勢揃いしている。
エリーはエリシア様と呼ばれるようになって――王女としての地位が復活してから――足を運ぶ機会がなかったので珍しいことだった。
久しぶりに人数が揃ったことで、いつもよりにぎやかになっている。
俺は改めてみんなの顔を眺めた。
ウィニーはいつでも太陽のように大きな存在で、エリーは王位が戻ってからきつい性格が少しマシになった。
サリオンは世話係としてお節介を焼きがちで、ルチアは肉料理ばかり食べさせようとする。
ミレーナと知り合って少し経つが、相変わらず控えめな口数で感情表現は乏しい。
とても個性的な人たちばかりで、みんなことを家族のように思っている。
勇者召喚されて、この世界に放り出された時は不安ばかりだった。
それでも彼らがいてくれるのなら、この世界で生きていくことができるだろう。
あとがき
ここまで読んで頂き、ありがとうございました。
一部未回収の伏線もありますが、これにて完結です。
「それにしても、近隣に王の試練なるものに適した土地など思い当たらない。かなり遠くへ魔法陣で飛ばされたと見るべきでしょう」
「何となく想像はついたけど、やっぱりそうなんだ。王様や大臣は秘密を明かしたくないだろうから、詳しいことは教えてくれないかも」
内川のことだけでなく、転移した六人の消息を追うことも困難だと感じる。
神妙なサリオンの表情からもそれが分かる。
「ただ、異なる王家とはいえエリー……エリシア様なら、何か知っているかもしれません。それにヴィルヘルム陛下も協力してくれるはず」
「そうか、その手があったんだ。それなら期待できるかも」
「お二人は旅団の働きに感謝されているそうです。エリシア様はカイトの活躍をご存知ですから、頼みを無下にすることはないと思います」
サリオンの前向きな言葉に気持ちが上向くように感じた。
出会いはいまいちだったが、こうして力になってくれることを頼もしく思う。
それから翌日のこと。
ウィニーという強力なコネのおかげで、ヴィルヘルム王に謁見する機会を得ることができた。
解放されたばかりの時とは違い、身なりの整った王様の前で話すのは緊張した。
それでも、俺だけにしか伝えられないことなので、知る限りのことを全て話した。
王様は説明を聞いた後、ウィニーと数人の兵士を調査に行かせることを約束してくれた。
サリオンの言った通り王家ならではの情報網があるようで、王様は試練の地について知っているようだった。
重要機密ということで詳しくは教えてもらえなかったものの、六人がその場所に残っていれば見つけることは可能という答えを聞くことができた。
謁見の日からさらに時間が経った。
ウィニーが加わった調査団はかなり遠くまで行ったようで、彼らが戻って頃には月日が経過していた。
――結論から言えば、六人を見つけることはできなかった。
しかし、周辺でイチハ族風の若者を見たという目撃情報があり、生き残っている可能性はあると聞かされた。
今回の調査団はウィニーを筆頭に精鋭で編成されていて、裏を返せば自分のように未熟な者は試練の地の方へは行けないということになる。
元の世界に戻れる兆候がない状況で、クラスメイトの存在は希望そのものだった。
いつしか俺は強くなって、彼らを探しに行けることを目標にするようになった。
旅団での依頼をこなしつつ、時間のある時にはウィニーの伝手で腕利きの兵士に武器の扱い方を教えてもらうことが増えた。
俺が強くなるまでに六人が生きているか分からない。
いつか、クラスメイトや親友の内川と再会できる日まで、自分にできることを続けていこうと決めたのだ。
マルネ王国近郊の森。ゴブリンが出たという報告を受けて、サリオンと一緒に来ている。
モンスターをぶった切れる度胸を身につけたいところだが、なかなか克服できないまま現在に至る。
ゴブリンを攻撃することさえも恐怖でしかなく、俺は別の方法を選ぶことにした。
「サリオン、一体かかってる」
「どれどれ……見事なものですね」
ゴブリンの好物でおびき寄せて、罠にかかると絶命するという仕組みだ。
初めて見た時はゴブリンの遺骸をまともに見れなかったものの、少しずつ慣れ始めている。
もっとも、積極的に見たいものではないのだが。
「悪いんだけど、耳を切るのやってくれる?」
「まだダメですか? 私は構いませんが、そろそろできるようになってもいい」
サリオンは小言を口にしつつ、討伐成功を意味するゴブリンの耳をナイフで切り取った。
克服するとしたらこの作業からだなと思いつつ、彼が手慣れた様子でカットするところは心臓に悪い。
残った頭部や胴体はミレーナ特製の粉を振りかければ溶けるため、遺骸の処理をせずに済むのは気が楽だった。
サリオンが作業を終えたところで罠の解体を行う。
ゴブリン以外に野生動物がかかることはないのが、事故防止のためにやらなければいけないことだった。
討伐が済んでからは依頼人に完了を報告するために王都へ戻る。
ゴブリンを見つけた人は近くに畑があるため、討伐依頼を出していた。
そのため、俺たちが解決したことを伝えるとホッとしたような顔を見せた。
依頼人から報酬を受け取った後、二人で王都内の拠点へと移動した。
「おかえりっす」
「ただいま、今日はみんないるんだね」
拠点として使っている洋館に旅団の面々が勢揃いしている。
エリーはエリシア様と呼ばれるようになって――王女としての地位が復活してから――足を運ぶ機会がなかったので珍しいことだった。
久しぶりに人数が揃ったことで、いつもよりにぎやかになっている。
俺は改めてみんなの顔を眺めた。
ウィニーはいつでも太陽のように大きな存在で、エリーは王位が戻ってからきつい性格が少しマシになった。
サリオンは世話係としてお節介を焼きがちで、ルチアは肉料理ばかり食べさせようとする。
ミレーナと知り合って少し経つが、相変わらず控えめな口数で感情表現は乏しい。
とても個性的な人たちばかりで、みんなことを家族のように思っている。
勇者召喚されて、この世界に放り出された時は不安ばかりだった。
それでも彼らがいてくれるのなら、この世界で生きていくことができるだろう。
あとがき
ここまで読んで頂き、ありがとうございました。
一部未回収の伏線もありますが、これにて完結です。
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※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。
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