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第五章
霧に包まれた町
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作戦は成功に終わり、捕縛された兵士二人は収容するために連れていかれた。
その後はウィニーとローマンの家に引き返した。
今は話し合いのために大きな丸テーブルを囲んで、全員が椅子に腰かけている。
アストラルの町にとって一難去ったと言えるはずだが、町長であるローマンは渋い顔をしていた。
「本当に我々に嫌疑がかかることはないのだね?」
その声からも難色を示していることが窺えた。
ローマンの懸念を払拭するようにウィニーが言葉を返す。
「もちろんだ。そもそも、おれとエリシア王女がここにいることがおかしいと思わないか?」
「まさか、フリッツ様に反旗を……。止めはしないが、危険な賭けであることを承知の上で決行するのかね?」
「ああ、重々承知だ。十分な戦力も揃ったしな。数では勝てなくても質では勝る。おれたちへの心配は不要ってもんだ」
ウィニーは自信に満ちた姿勢を崩さずに話している。
彼がそんな様子なので、徐々にローマンは理解を示すような態度になった。
「兵士の失踪が明るみになる前に決着がつけば、アストラルが疑われることはない。逆に君たちがフリッツ様の勢力を討ち損じたとしても、我々に責任はないと言い逃れすればいい……ということだね」
「濡れ衣を着せるのは気が進まないか?」
ウィニーが投げかけるとローマンは首を横に振った。
「徴収に頭を抱えていたところを君たちに助けてもらった以上、恩人を売るような真似は抵抗があるものさ。この件はウィニコット殿の意向に沿うかたちで動かせて頂くとしよう」
責任者としての言葉にウィニーは笑顔で応じた。
気負いのない笑みは見る者を安心させるような自信に満ちていた。
「まあ、心配いらない。おれたちが勝つんだからな」
「王立兵団の兵長として、剣聖と呼ばれた男は器が違うのだね。我々も君たちを信じて、恩人を売るような真似はしないと誓おう。後ろから刺されることはない。安心してくれたまえ」
「フリッツは領民に厳しすぎるからな。ほどほどにしらばっくれることを勧めるぜ」
ウィニーの言葉が締めになり、 話がまとまったようだ。
最終的にローマンを説得できたのはさすがだと思った。
話し合いが始まった時に比べれば、場の空気がずいぶんと和らいでいた。
慣れない環境に気疲れを感じる一方で、二人のやりとりは興味深かった。
重要なことを左右するほど重圧を感じるはずだが、ウィニーの揺るがない姿勢は尊敬に値する。
「昼食にはまだ早いけれども、よかったら一緒に食べていくかね?」
「いや、兵士を捕縛した以上、アストラルに長居すべきじゃない。よかったら、移動中に食べられるものを用意してもらえるか?」
「もちろんだとも。君たちの分を用意するだけなら、町の者で協力すれば大して時間はかからないはずだ。その間に出発の準備をしてはどうだろう」
「そうだな、そうさせてもらうとするか」
ウィニーが提案に応じて、馬車が出せるように準備が始まった。
手の空いた町の人が手伝ってくれたこともあり、あっという間に積みこみを終えることができた。
やがて人数分のサンドイッチが運ばれてきて、それを受け取ってから出発した。
ちなみに馬車の乗員の割り振りはアストラルに来た時と同じである。
馬車A:エリーとウィニー クラウス、ルチア、サリオン
馬車B:ミレーナ 海斗
次の目的地は霧に包まれた町ということだけ、ウィニーから聞いている。
急いでいたこともあり、現地で詳しいことを教えてもらう予定だ。
ミレーナなら町について詳しいことを知っているかもしれない。
「次の町はどんなところか知ってる?」
「私も行ったことがない。旅人や行商人が訪れることはあまりないところということしか知らない」
「そうなんだ。きっと、何か目的だあるってことかな」
あまり会話が続かず、テンポよく言葉が返ってくる気配はない。
それでも、最初の頃と比べればミレーナとの距離は縮まりつつある。
話しかけた時、わずかながら表情が変化するようになっているのだ。
しつこく声をかけるわけにもいかず、今度は周りの景色に目を向ける。
山賊と遭遇した山を越えてから、似たような風景が続いている気がする。
どこまでも広がる草原と放牧された牛たち。
アストラルは畑が中心のようなので、この辺りは家畜をほとんど見かけないものの、ここまでの道中は変化に乏しく感じる時もあった。
暇を持て余した結果、アストラルでもらったサンドイッチを食べることにした。
素朴な見た目のフランスパンに、野菜やハムなどの具材が挟まっている。
やはり野菜の生産に力を入れているようで、新鮮なレタスなどが目を引いた。
俺はサンドイッチを手にして、おもむろに口に運んでみた。
口触りのいい食感と食材のみずみずしさが舌先を通じて伝わってくる。
ハムに塩味がついているようで、味のバランスが取れている感じがした。
サンドイッチを食べ終えてしばらくすると、前方に幅の広い川と立ちこめる霧が広がっていた。
イメージしていたよりも霧が濃く、それに覆われるようなかたちで町がある。
視界が遮られるほどではないと思うが、こんなところで生活するのは不便そうだ。
あとがき
本作を読んで頂き、ありがとうございます。
おかげさまでファンタジーカップ、HOTランキングでじわじわと順位を上げています。
今回のエピソードでは霧に包まれた町、ミスティアへ着いた一行です。
視界が悪いと行動しづらそうですが、彼らは目的地に向かって移動を続けます。
その後はウィニーとローマンの家に引き返した。
今は話し合いのために大きな丸テーブルを囲んで、全員が椅子に腰かけている。
アストラルの町にとって一難去ったと言えるはずだが、町長であるローマンは渋い顔をしていた。
「本当に我々に嫌疑がかかることはないのだね?」
その声からも難色を示していることが窺えた。
ローマンの懸念を払拭するようにウィニーが言葉を返す。
「もちろんだ。そもそも、おれとエリシア王女がここにいることがおかしいと思わないか?」
「まさか、フリッツ様に反旗を……。止めはしないが、危険な賭けであることを承知の上で決行するのかね?」
「ああ、重々承知だ。十分な戦力も揃ったしな。数では勝てなくても質では勝る。おれたちへの心配は不要ってもんだ」
ウィニーは自信に満ちた姿勢を崩さずに話している。
彼がそんな様子なので、徐々にローマンは理解を示すような態度になった。
「兵士の失踪が明るみになる前に決着がつけば、アストラルが疑われることはない。逆に君たちがフリッツ様の勢力を討ち損じたとしても、我々に責任はないと言い逃れすればいい……ということだね」
「濡れ衣を着せるのは気が進まないか?」
ウィニーが投げかけるとローマンは首を横に振った。
「徴収に頭を抱えていたところを君たちに助けてもらった以上、恩人を売るような真似は抵抗があるものさ。この件はウィニコット殿の意向に沿うかたちで動かせて頂くとしよう」
責任者としての言葉にウィニーは笑顔で応じた。
気負いのない笑みは見る者を安心させるような自信に満ちていた。
「まあ、心配いらない。おれたちが勝つんだからな」
「王立兵団の兵長として、剣聖と呼ばれた男は器が違うのだね。我々も君たちを信じて、恩人を売るような真似はしないと誓おう。後ろから刺されることはない。安心してくれたまえ」
「フリッツは領民に厳しすぎるからな。ほどほどにしらばっくれることを勧めるぜ」
ウィニーの言葉が締めになり、 話がまとまったようだ。
最終的にローマンを説得できたのはさすがだと思った。
話し合いが始まった時に比べれば、場の空気がずいぶんと和らいでいた。
慣れない環境に気疲れを感じる一方で、二人のやりとりは興味深かった。
重要なことを左右するほど重圧を感じるはずだが、ウィニーの揺るがない姿勢は尊敬に値する。
「昼食にはまだ早いけれども、よかったら一緒に食べていくかね?」
「いや、兵士を捕縛した以上、アストラルに長居すべきじゃない。よかったら、移動中に食べられるものを用意してもらえるか?」
「もちろんだとも。君たちの分を用意するだけなら、町の者で協力すれば大して時間はかからないはずだ。その間に出発の準備をしてはどうだろう」
「そうだな、そうさせてもらうとするか」
ウィニーが提案に応じて、馬車が出せるように準備が始まった。
手の空いた町の人が手伝ってくれたこともあり、あっという間に積みこみを終えることができた。
やがて人数分のサンドイッチが運ばれてきて、それを受け取ってから出発した。
ちなみに馬車の乗員の割り振りはアストラルに来た時と同じである。
馬車A:エリーとウィニー クラウス、ルチア、サリオン
馬車B:ミレーナ 海斗
次の目的地は霧に包まれた町ということだけ、ウィニーから聞いている。
急いでいたこともあり、現地で詳しいことを教えてもらう予定だ。
ミレーナなら町について詳しいことを知っているかもしれない。
「次の町はどんなところか知ってる?」
「私も行ったことがない。旅人や行商人が訪れることはあまりないところということしか知らない」
「そうなんだ。きっと、何か目的だあるってことかな」
あまり会話が続かず、テンポよく言葉が返ってくる気配はない。
それでも、最初の頃と比べればミレーナとの距離は縮まりつつある。
話しかけた時、わずかながら表情が変化するようになっているのだ。
しつこく声をかけるわけにもいかず、今度は周りの景色に目を向ける。
山賊と遭遇した山を越えてから、似たような風景が続いている気がする。
どこまでも広がる草原と放牧された牛たち。
アストラルは畑が中心のようなので、この辺りは家畜をほとんど見かけないものの、ここまでの道中は変化に乏しく感じる時もあった。
暇を持て余した結果、アストラルでもらったサンドイッチを食べることにした。
素朴な見た目のフランスパンに、野菜やハムなどの具材が挟まっている。
やはり野菜の生産に力を入れているようで、新鮮なレタスなどが目を引いた。
俺はサンドイッチを手にして、おもむろに口に運んでみた。
口触りのいい食感と食材のみずみずしさが舌先を通じて伝わってくる。
ハムに塩味がついているようで、味のバランスが取れている感じがした。
サンドイッチを食べ終えてしばらくすると、前方に幅の広い川と立ちこめる霧が広がっていた。
イメージしていたよりも霧が濃く、それに覆われるようなかたちで町がある。
視界が遮られるほどではないと思うが、こんなところで生活するのは不便そうだ。
あとがき
本作を読んで頂き、ありがとうございます。
おかげさまでファンタジーカップ、HOTランキングでじわじわと順位を上げています。
今回のエピソードでは霧に包まれた町、ミスティアへ着いた一行です。
視界が悪いと行動しづらそうですが、彼らは目的地に向かって移動を続けます。
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