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第四章
束の間の休息
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「まさか、エリシア様がいらっしゃるとは」
「私のことはどうだっていい。すぐにそれを止めないと」
ローマンはエリーの意見に頷いて見せたが、複雑な表情を浮かべている。
詳しい事情を知らない俺には、それが何を意味するのか分からなかった。
「明日の朝に兵士が徴収に来ます。ウィニコット殿と仲間の方々ならば、返り討ちにすることは容易でしょう。しかし、そうなればエリシア様の存在が露見する可能性もありますぞ」
「そいつは構わない。兵士は捕縛して壁の中に捕えておけばいい。行方不明になれば不審がられるが、まさか中立地帯のアストラルで捕まったとは誰も思わねえよ」
「何かあれば、君たちの仕業だったということにしておけと……そういうことか」
「そういうこった」
ウィニーとローマンが話を進めているが、そこに加わるようにクラウスが身を乗り出した。
彼は相手に敬意を示しながらも、はっきりした声で投げかける。
「兵が戻らないとなれば、不審に思われるのは間違いありません。ただ、王都からの距離を考慮するならば、最寄りの分団から赴いている可能性が高い。その時には我々はすでにアストラルを離れている。ウィニコットの方針で問題ありません」
「クラウス、ありがとな。町長には全容は話せねえが、おれたちはやることがある。兵士を押さえてやるから、くれぐれも密告話で頼むぜ」
「もちろんだとも。兵士の取り立てには辟易している。エリシア様を危険な目に遭わせることなどできるわけがない」
「よく言った。こっちも約束は守るからな」
ウィニーとローマンを中心にした話し合いはまとまり、俺たちはローマンの家を後にした。
中にいる間に日没が近づき、壁に囲まれた町は薄暗くなっている。
完全に暗くなる前に街灯代わりと思われるかがり火に火がつけられた。
「そういえば、今日の宿のことをすっかり忘れちまった。ちょっと、ローマンに確認してくる」
ウィニーはそそくさと家の中に戻り、少しして小走りで戻ってきた。
彼は皆を集めて、今夜の宿について話し始めた。
この町は旅人が訪れることはほとんどないため、一般的な宿屋はないそうだ。
そのため、街を訪れた行商人が寝泊まりする宿を使うらしい。
宿の部屋数が十分に足りないようで、ウィニーとエリー、それにクラウスはローマン所有の来客用の民家に泊まることになった。
俺はミレーナやサリオンたちと指定された宿に向かった。
アストラルは区画が整理されており、ガスパールの王都に比べると道が分かりやすいため、迷うことなく目的に着いた。
外観は一般的な民家で掃除が行き届いているようだ。
ガスパールやマルネで見かける、一般的な木組みの家で二階建てである。
俺たちが中に入ろうとすると玄関のカギは空いており、室内はいつでも使えるように整頓されている状態だった。
ホームステイに来たような感じで、ワクワクするような気持ちになる。
まずは部屋割りを決めるべく、リビングに荷物を置いて、話し合いを始めた。
当然というべきなのか最初にエリーの部屋が決まり、それに連動してウィニーの部屋も決まった。
いつもは控えめなミレーナが自己主張して、睡眠の重要さを説いたかと思えば、残された中でベストな部屋を確保していた。
新参者の俺はそこまで我を通すことはできず、順番に決まっているのを眺めることに終始した。
最終的に意見がまとまり、宿の部屋割りが決まった。
個室として一人一部屋ずつ確保できるのはよかった。
俺は二階の一番奥の部屋を選んだ。
一時解散となり、荷物を運んで移動する。
明日には次の作戦となるわけだが、束の間の休息になる。
慣れないことばかりで、気疲れしていることに気づいた。
ベッドの上に腰かけて休憩した後、今夜の食事はどうなるかを確かめるために階段を下りてダイニングに向かった。
すると、地元の女性が食事を料理しているところだった。
彼女はこちらの存在に気づくと笑顔で声をかけてきた。
「アストラルへようこそ。もう少ししたらできるから、よかったら食べてちょうだいね」
「ありがとうございます。お腹が空いたのでよかった」
ルチアやサリオン、それにミレーナの姿が見えない。
部屋で休んでいるか、外に出てているかのどちらかだと思う。
学生の課外行動ならばともかく、皆それぞれの時間がある。
ここではそんな制約がないため、必要以上に歩調を合わせる必要はない。
俺はダイニングの椅子に腰かけて、食事が完成するのを待つことにした。
やがてテーブルの上に料理が並べられて、一人で食べ始めた。
提供されたのはチキンステーキや野菜のたっぷり入ったスープだった。
他の仲間が不在なのを気遣ってか、料理を作ってくれた女性が同席してくれた。
彼女の話では地元で採れた野菜がふんだんに使われているそうで、これまでに味わったどんな食事よりも美味しく感じられた。
旅の疲れを忘れさせてくれるような、町の人の温かさに感謝した。
食事を終えてから部屋に戻り、明日に備えて早めに眠ることにした。
あとがき
お読み頂き、ありがとうございます。
おかげさまでファンタジーカップ、HOTランキングが順調に上がっています。
今回はミレーナの意外な一面が登場しました。
優れた魔法使いであり、頭脳派ということもあるため、睡眠を大事にしているようです。
エリーは重要人物なので、ウィニーが守りやすいようにするのは自然なことだと思います。
「私のことはどうだっていい。すぐにそれを止めないと」
ローマンはエリーの意見に頷いて見せたが、複雑な表情を浮かべている。
詳しい事情を知らない俺には、それが何を意味するのか分からなかった。
「明日の朝に兵士が徴収に来ます。ウィニコット殿と仲間の方々ならば、返り討ちにすることは容易でしょう。しかし、そうなればエリシア様の存在が露見する可能性もありますぞ」
「そいつは構わない。兵士は捕縛して壁の中に捕えておけばいい。行方不明になれば不審がられるが、まさか中立地帯のアストラルで捕まったとは誰も思わねえよ」
「何かあれば、君たちの仕業だったということにしておけと……そういうことか」
「そういうこった」
ウィニーとローマンが話を進めているが、そこに加わるようにクラウスが身を乗り出した。
彼は相手に敬意を示しながらも、はっきりした声で投げかける。
「兵が戻らないとなれば、不審に思われるのは間違いありません。ただ、王都からの距離を考慮するならば、最寄りの分団から赴いている可能性が高い。その時には我々はすでにアストラルを離れている。ウィニコットの方針で問題ありません」
「クラウス、ありがとな。町長には全容は話せねえが、おれたちはやることがある。兵士を押さえてやるから、くれぐれも密告話で頼むぜ」
「もちろんだとも。兵士の取り立てには辟易している。エリシア様を危険な目に遭わせることなどできるわけがない」
「よく言った。こっちも約束は守るからな」
ウィニーとローマンを中心にした話し合いはまとまり、俺たちはローマンの家を後にした。
中にいる間に日没が近づき、壁に囲まれた町は薄暗くなっている。
完全に暗くなる前に街灯代わりと思われるかがり火に火がつけられた。
「そういえば、今日の宿のことをすっかり忘れちまった。ちょっと、ローマンに確認してくる」
ウィニーはそそくさと家の中に戻り、少しして小走りで戻ってきた。
彼は皆を集めて、今夜の宿について話し始めた。
この町は旅人が訪れることはほとんどないため、一般的な宿屋はないそうだ。
そのため、街を訪れた行商人が寝泊まりする宿を使うらしい。
宿の部屋数が十分に足りないようで、ウィニーとエリー、それにクラウスはローマン所有の来客用の民家に泊まることになった。
俺はミレーナやサリオンたちと指定された宿に向かった。
アストラルは区画が整理されており、ガスパールの王都に比べると道が分かりやすいため、迷うことなく目的に着いた。
外観は一般的な民家で掃除が行き届いているようだ。
ガスパールやマルネで見かける、一般的な木組みの家で二階建てである。
俺たちが中に入ろうとすると玄関のカギは空いており、室内はいつでも使えるように整頓されている状態だった。
ホームステイに来たような感じで、ワクワクするような気持ちになる。
まずは部屋割りを決めるべく、リビングに荷物を置いて、話し合いを始めた。
当然というべきなのか最初にエリーの部屋が決まり、それに連動してウィニーの部屋も決まった。
いつもは控えめなミレーナが自己主張して、睡眠の重要さを説いたかと思えば、残された中でベストな部屋を確保していた。
新参者の俺はそこまで我を通すことはできず、順番に決まっているのを眺めることに終始した。
最終的に意見がまとまり、宿の部屋割りが決まった。
個室として一人一部屋ずつ確保できるのはよかった。
俺は二階の一番奥の部屋を選んだ。
一時解散となり、荷物を運んで移動する。
明日には次の作戦となるわけだが、束の間の休息になる。
慣れないことばかりで、気疲れしていることに気づいた。
ベッドの上に腰かけて休憩した後、今夜の食事はどうなるかを確かめるために階段を下りてダイニングに向かった。
すると、地元の女性が食事を料理しているところだった。
彼女はこちらの存在に気づくと笑顔で声をかけてきた。
「アストラルへようこそ。もう少ししたらできるから、よかったら食べてちょうだいね」
「ありがとうございます。お腹が空いたのでよかった」
ルチアやサリオン、それにミレーナの姿が見えない。
部屋で休んでいるか、外に出てているかのどちらかだと思う。
学生の課外行動ならばともかく、皆それぞれの時間がある。
ここではそんな制約がないため、必要以上に歩調を合わせる必要はない。
俺はダイニングの椅子に腰かけて、食事が完成するのを待つことにした。
やがてテーブルの上に料理が並べられて、一人で食べ始めた。
提供されたのはチキンステーキや野菜のたっぷり入ったスープだった。
他の仲間が不在なのを気遣ってか、料理を作ってくれた女性が同席してくれた。
彼女の話では地元で採れた野菜がふんだんに使われているそうで、これまでに味わったどんな食事よりも美味しく感じられた。
旅の疲れを忘れさせてくれるような、町の人の温かさに感謝した。
食事を終えてから部屋に戻り、明日に備えて早めに眠ることにした。
あとがき
お読み頂き、ありがとうございます。
おかげさまでファンタジーカップ、HOTランキングが順調に上がっています。
今回はミレーナの意外な一面が登場しました。
優れた魔法使いであり、頭脳派ということもあるため、睡眠を大事にしているようです。
エリーは重要人物なので、ウィニーが守りやすいようにするのは自然なことだと思います。
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