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第四章
壁に囲まれた町
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こうして騒乱の最中にあると何が正しくて、何が間違っているのか判断が難しいと思う。
日本で生活する中で、二つの勢力が命がけで争う場面に立ち会うことなど考えられない。
どちらが正しいか、どちらがより強いのか――確実な正義などないように思えてくる。
俺はため息を吐いて、仲間たちの顔を思い浮かべた。
ウィニーやクラウスと話したことで彼らの信念を知ることができたが、真実を知りえない民衆は簒奪者――という名の敵対勢力――の言い分を鵜吞みにしているのではないか。
エリー親子が王位を追われたことにもっともらしい理由をつけているのなら、本来の王権を行使するのは難しいはずだ。
こんなことなら、もう少し歴史を学んでおけばよかった。
俺が説明できるような現代の知識ではウィニーやエリーを手助けすることはできそうにない。
できる範囲で協力することが最善の選択だろう。
転移魔法陣で飛ばされた六人がいれた心強いかもしれないが、依然として彼らの行方は分からないままだ。
出発してしばらくは青々とした草が伸びていたが、どこかのタイミングを境にして、少しずつ道脇の緑の数が減っていた。
一面に短い草は生えいるものの、途中までのように大きな木は生えていない。
間隔を空けて背の低い木が窺える程度だ。
おそらく、土地がやせているのか、水が少ないのだと思った。
アルカベルクを離れてしばらく経つと、今までにはないことが起きた。
馬に乘った兵士が巡回しているようで、馬車の方を横目で眺めながら通過した。
こういった状況を見越して、ウィニーとエリーは身を潜めているのだろう。
俺自身も気を引き締めなければならないと思った。
アルカベルクを出たのは朝の時間だったが、やがて夕暮れが近づいていた。
まさか今日は野宿なのか、ミレーナと二人きりでは緊張して眠れないのではと思いかけたところで、前方に高い壁が広がる光景が目に映った。
来る者を寄せつけないような圧倒的な存在感。
この世界の技術水準からして、ここまでのものを短期間で建てられるとは考えにくい。
昔からあるのならば、そこまでマルネ王国は緊張した情勢にあったのか。
分からないことだらけだが、地理に明るいウィニーに教えてもらおうと思った。
馬車は移動を続けて、その壁の方に向かった。
「もしかして、壁の中が目的地?」
「そうらしいけれど、細かいことまでは聞かなかった」
ミレーナは前の馬車に続いているだけのようだ。
おそらく、ウィニーが情報の共有を必要最低限にとどめているのだろう。
馬車に乗ったまま壁の近くにたどり着くと、その迫力に圧倒されそうだった。
壁の間に通用門があり、先を行くクラウスの馬車が中に入った。
こちらの馬車も続いて入り、その後に門が閉まった。
「すごい! こんなふうになってるのか」
壁の中には一つの町がすっぽりと収まるように広がる。
今いる場所の方が高台にあり、全体を見渡すことができた。
壁の外は農地に向かないように見えたが、内側では水が十分にあるようで畑がいくつも見える。
町の中で二台の馬車を預けて、ウィニーたちと町の中心に歩いてきた。
この後の予定や町を訪れた目的をたずねようと思ったが、遠足中の小学生のような振る舞いのように思えてしまい、何でもかんでも聞こうとするのはやめておいた。
やがて全員で町の中の一軒家に足を運んだ。
他の民家よりも一回り大きく、有力者の家であることが想像できた。
ウィニーを皮切りに中へと入る。
俺が玄関をくぐったところで、ウィニーが中年の男性と向かい合っていた。
「ふむ、ずいぶんと大所帯でやってきたね」
「町長、面倒は取らせねえ。一泊させてもらえたらそれで十分だ」
「君たちの目的は何となく想像がつく。だが、ここは中立都市アストラルだ。現王に密告するつもりはない」
「はっ、『現王』か」
ウィニーは怪訝そうに言った。
しかし、男性はそれを流して俺を含めたウィニー以外の面々に顔を向けた。
「私は町長のローマンだ。君たちを歓迎しよう」
ローマンは整った身なりで中肉中背の体格だった。
偉ぶるような態度はないが、威厳を感じられる人物だ。
全員で彼と向かい合っていると、部下と見られる男性が耳打ちした。
「分かった。それがいいだろう」
玄関直結の広間で話していたが、ローマンに案内されて客間のようなところに移動した。
巨大な木の幹を加工した丸テーブルを囲むように、それぞれに椅子に座った。
「単刀直入に話をしよう。この土地は代々の王家からマルネ国内での独立を許可されて、中立を保ってきた。しかし、新たに王位を主張する者が現れて、新たな王になってから困ったことが始まった」
この場にいる全員がローマンに話に聞き入っている。
特にエリーは正体が分からないように変装しているが、身を乗り出すような勢いだった。
「現王はアストラルに収穫した作物の何割かを納めるように迫っている。最初は断っていたのだが、兵を仕向けるようになり、今では断れない状況なのだ」
「――そんなこと、許せない!」
エリーがテーブルをバンッと叩いて、大きな声を出した。
ローマンは驚いたようだが、我に返ったところで彼女に話しかけた。
日本で生活する中で、二つの勢力が命がけで争う場面に立ち会うことなど考えられない。
どちらが正しいか、どちらがより強いのか――確実な正義などないように思えてくる。
俺はため息を吐いて、仲間たちの顔を思い浮かべた。
ウィニーやクラウスと話したことで彼らの信念を知ることができたが、真実を知りえない民衆は簒奪者――という名の敵対勢力――の言い分を鵜吞みにしているのではないか。
エリー親子が王位を追われたことにもっともらしい理由をつけているのなら、本来の王権を行使するのは難しいはずだ。
こんなことなら、もう少し歴史を学んでおけばよかった。
俺が説明できるような現代の知識ではウィニーやエリーを手助けすることはできそうにない。
できる範囲で協力することが最善の選択だろう。
転移魔法陣で飛ばされた六人がいれた心強いかもしれないが、依然として彼らの行方は分からないままだ。
出発してしばらくは青々とした草が伸びていたが、どこかのタイミングを境にして、少しずつ道脇の緑の数が減っていた。
一面に短い草は生えいるものの、途中までのように大きな木は生えていない。
間隔を空けて背の低い木が窺える程度だ。
おそらく、土地がやせているのか、水が少ないのだと思った。
アルカベルクを離れてしばらく経つと、今までにはないことが起きた。
馬に乘った兵士が巡回しているようで、馬車の方を横目で眺めながら通過した。
こういった状況を見越して、ウィニーとエリーは身を潜めているのだろう。
俺自身も気を引き締めなければならないと思った。
アルカベルクを出たのは朝の時間だったが、やがて夕暮れが近づいていた。
まさか今日は野宿なのか、ミレーナと二人きりでは緊張して眠れないのではと思いかけたところで、前方に高い壁が広がる光景が目に映った。
来る者を寄せつけないような圧倒的な存在感。
この世界の技術水準からして、ここまでのものを短期間で建てられるとは考えにくい。
昔からあるのならば、そこまでマルネ王国は緊張した情勢にあったのか。
分からないことだらけだが、地理に明るいウィニーに教えてもらおうと思った。
馬車は移動を続けて、その壁の方に向かった。
「もしかして、壁の中が目的地?」
「そうらしいけれど、細かいことまでは聞かなかった」
ミレーナは前の馬車に続いているだけのようだ。
おそらく、ウィニーが情報の共有を必要最低限にとどめているのだろう。
馬車に乗ったまま壁の近くにたどり着くと、その迫力に圧倒されそうだった。
壁の間に通用門があり、先を行くクラウスの馬車が中に入った。
こちらの馬車も続いて入り、その後に門が閉まった。
「すごい! こんなふうになってるのか」
壁の中には一つの町がすっぽりと収まるように広がる。
今いる場所の方が高台にあり、全体を見渡すことができた。
壁の外は農地に向かないように見えたが、内側では水が十分にあるようで畑がいくつも見える。
町の中で二台の馬車を預けて、ウィニーたちと町の中心に歩いてきた。
この後の予定や町を訪れた目的をたずねようと思ったが、遠足中の小学生のような振る舞いのように思えてしまい、何でもかんでも聞こうとするのはやめておいた。
やがて全員で町の中の一軒家に足を運んだ。
他の民家よりも一回り大きく、有力者の家であることが想像できた。
ウィニーを皮切りに中へと入る。
俺が玄関をくぐったところで、ウィニーが中年の男性と向かい合っていた。
「ふむ、ずいぶんと大所帯でやってきたね」
「町長、面倒は取らせねえ。一泊させてもらえたらそれで十分だ」
「君たちの目的は何となく想像がつく。だが、ここは中立都市アストラルだ。現王に密告するつもりはない」
「はっ、『現王』か」
ウィニーは怪訝そうに言った。
しかし、男性はそれを流して俺を含めたウィニー以外の面々に顔を向けた。
「私は町長のローマンだ。君たちを歓迎しよう」
ローマンは整った身なりで中肉中背の体格だった。
偉ぶるような態度はないが、威厳を感じられる人物だ。
全員で彼と向かい合っていると、部下と見られる男性が耳打ちした。
「分かった。それがいいだろう」
玄関直結の広間で話していたが、ローマンに案内されて客間のようなところに移動した。
巨大な木の幹を加工した丸テーブルを囲むように、それぞれに椅子に座った。
「単刀直入に話をしよう。この土地は代々の王家からマルネ国内での独立を許可されて、中立を保ってきた。しかし、新たに王位を主張する者が現れて、新たな王になってから困ったことが始まった」
この場にいる全員がローマンに話に聞き入っている。
特にエリーは正体が分からないように変装しているが、身を乗り出すような勢いだった。
「現王はアストラルに収穫した作物の何割かを納めるように迫っている。最初は断っていたのだが、兵を仕向けるようになり、今では断れない状況なのだ」
「――そんなこと、許せない!」
エリーがテーブルをバンッと叩いて、大きな声を出した。
ローマンは驚いたようだが、我に返ったところで彼女に話しかけた。
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