39 / 57
第四章
サリオンからの評価
しおりを挟む
「お前も分かってんだろ? この先は危険が伴う。もしもの時に守ってやれないことだってある」
ウィニーの諭すような言葉を受けて、ルチアは観念したように肩を落とした。
普段の彼女からは想像できないような消え入りそうな声を出している。
「……ジンタは思ったよりも成長しなかったっす。もう少し粘りを見せたなら……」
「それで十分だ。ジンタはアルカベルクに残ってもらう、いいな?」
ウィニーに視線を向けられると、内川は弱々しく頷いた。
その様子を見るのは苦しかった。
作戦会議が必要なのは理解しているものの、この状況に居心地の悪さを覚えた。
「サリオン、カイトは芽が伸びつつあるって言ったんだっけか?」
「はい、そうです」
「ルチアにジンタのことを話させちまった。お前からカイトのことを聞きたい」
今度はサリオンが自分への評価を話す順番になり、にわかに緊張感が高まる。
彼が自分のことをどう見ているか、まだまだ分からないことが多かった。
ウィニーに話を振られて、サリオンは話す内容を考えているようだった。
少しの間をおいて、彼は表情を変えずに淡々と話し始める。
「アインの町への配達と古城の見回りに同行した際、周囲への警戒を怠らない慎重な行動に注目しました。それ以外では臨機応変なところが評価に値します」
「それで、カイトはこの先についてきても大丈夫だと思うか?」
「未熟なところはありますが、ウィニーひいてはエリーの力になってくれるはず。ミレーナやルチアとも打ち解けており、協調性の面からも問題ないでしょう」
「分かった。話してくれてありがとな」
ウィニーの感謝にサリオンは笑みを浮かべて応えた。
サリオンの評価が高かったのはうれしいのだが、内川が落胆していることで素直に喜べない。
それから、今後についての話があったが、上の空になってしまい、内容はあまり覚えられなかった。
翌朝、クラウスの宿屋で目を覚ました。
相部屋ではなく個室が用意されたので、気兼ねなく熟睡することができた。
窓の外にはアルカベルクの町が見えて、ガスパール王国の王都を離れたことを実感する。
用意された寝間着から外出用の衣服に着替えて、顔を洗うために水場へと向かう。
この町は湧き水が豊富で、宿屋の中にも湧き水が配水されている。
昨夜、クラウスが設備の説明をしてくれたので、だいたいのことは把握できていた。
水場へ行くとミレーナが顔を洗っているところだった。
彼女は寝間着姿で寝癖が直りきっていない。
水色の髪の毛が無造作に跳ね放題になっている。
ぼんやりとして無防備な様子に新鮮さを覚えた。
「おはよう」
「……うん」
ミレーナにあいさつをすると、横目でちらりと見て返事を返してくれた。
彼女はここでの用事が済んだようで、そそくさと離れていった。
朝が苦手なようで眠たそうだった。
ミレーナと同じように顔を洗い、用意された部屋に戻った。
今後に向けて荷物を確かめてみたが、ブラウンベアーの時に見つけた魔石ほど使えそうはものは見当たらなかった。
サリオンの話では値が張るようなので、魔石を再入手するのは難しそうだ。
整理を終えて荷物を床に置いたところで、コンコンと扉をノックする音が聞こえた。
俺は振り返って、間髪を入れずに反応を返す。
「はい、どうぞ」
「失礼するわね」
ダニエラが扉を開けて中に入ってきた。
その手には木製のトレーが乗っている。
彼女が朝食を用意してくれたように見えた。
「ウィニコットさんたちが立てこんでいるみたいで、部屋で食べてもらってもいいかしら?」
「大丈夫ですけど、何かあったんですか?」
「さあ、わたしは部外者だから。詳しいことは教えてもらえないわ。クラウスが巻きこまないようにしてくれるから、必要以上に知ろうとはしないの」
「分かりました。朝食ありがとうございます」
ダニエラはトレーをテーブルに乗せて、部屋を出ていった。
皿の上にはスクランブルエッグや焼いたウインナー、それに色とりどりの野菜が盛りつけてある。
主食にはパンが用意されていて、至れり尽くせりなメニューだった。
ウィニーの状況が気になるため、すぐに食べ始めることにした。
食事を終えて空いた皿が乗ったトレーを手にしつつ、ロビーへと向かった。
そこには昨日と同じかたちで、ウィニーたちが向かい合って話しているところだった。
どこか張りつめた空気を感じるが、加わらないわけにもいかない。
輪に加わるように近づいて、ウィニーへと声をかける。
「おはよう」
「おっ、カイトか」
ウィニーからはいつもの明朗快活な感じが見られず、どことなく表情が固かった。
何か起きているのは間違いないみたいだ。
「……何かあったの?」
「それなんだが……。隠す意味がないから話すが、ジンタが朝になったらいなくなっていた」
「えっ、ホントに!?」
最近、ぎくしゃくしていたとしても、唯一無二の友だった。
彼がいなくなったなんて、何が起きたのだろう。
戸惑いが浮かぶばかりで、返す言葉が見つからなかった。
ウィニーの諭すような言葉を受けて、ルチアは観念したように肩を落とした。
普段の彼女からは想像できないような消え入りそうな声を出している。
「……ジンタは思ったよりも成長しなかったっす。もう少し粘りを見せたなら……」
「それで十分だ。ジンタはアルカベルクに残ってもらう、いいな?」
ウィニーに視線を向けられると、内川は弱々しく頷いた。
その様子を見るのは苦しかった。
作戦会議が必要なのは理解しているものの、この状況に居心地の悪さを覚えた。
「サリオン、カイトは芽が伸びつつあるって言ったんだっけか?」
「はい、そうです」
「ルチアにジンタのことを話させちまった。お前からカイトのことを聞きたい」
今度はサリオンが自分への評価を話す順番になり、にわかに緊張感が高まる。
彼が自分のことをどう見ているか、まだまだ分からないことが多かった。
ウィニーに話を振られて、サリオンは話す内容を考えているようだった。
少しの間をおいて、彼は表情を変えずに淡々と話し始める。
「アインの町への配達と古城の見回りに同行した際、周囲への警戒を怠らない慎重な行動に注目しました。それ以外では臨機応変なところが評価に値します」
「それで、カイトはこの先についてきても大丈夫だと思うか?」
「未熟なところはありますが、ウィニーひいてはエリーの力になってくれるはず。ミレーナやルチアとも打ち解けており、協調性の面からも問題ないでしょう」
「分かった。話してくれてありがとな」
ウィニーの感謝にサリオンは笑みを浮かべて応えた。
サリオンの評価が高かったのはうれしいのだが、内川が落胆していることで素直に喜べない。
それから、今後についての話があったが、上の空になってしまい、内容はあまり覚えられなかった。
翌朝、クラウスの宿屋で目を覚ました。
相部屋ではなく個室が用意されたので、気兼ねなく熟睡することができた。
窓の外にはアルカベルクの町が見えて、ガスパール王国の王都を離れたことを実感する。
用意された寝間着から外出用の衣服に着替えて、顔を洗うために水場へと向かう。
この町は湧き水が豊富で、宿屋の中にも湧き水が配水されている。
昨夜、クラウスが設備の説明をしてくれたので、だいたいのことは把握できていた。
水場へ行くとミレーナが顔を洗っているところだった。
彼女は寝間着姿で寝癖が直りきっていない。
水色の髪の毛が無造作に跳ね放題になっている。
ぼんやりとして無防備な様子に新鮮さを覚えた。
「おはよう」
「……うん」
ミレーナにあいさつをすると、横目でちらりと見て返事を返してくれた。
彼女はここでの用事が済んだようで、そそくさと離れていった。
朝が苦手なようで眠たそうだった。
ミレーナと同じように顔を洗い、用意された部屋に戻った。
今後に向けて荷物を確かめてみたが、ブラウンベアーの時に見つけた魔石ほど使えそうはものは見当たらなかった。
サリオンの話では値が張るようなので、魔石を再入手するのは難しそうだ。
整理を終えて荷物を床に置いたところで、コンコンと扉をノックする音が聞こえた。
俺は振り返って、間髪を入れずに反応を返す。
「はい、どうぞ」
「失礼するわね」
ダニエラが扉を開けて中に入ってきた。
その手には木製のトレーが乗っている。
彼女が朝食を用意してくれたように見えた。
「ウィニコットさんたちが立てこんでいるみたいで、部屋で食べてもらってもいいかしら?」
「大丈夫ですけど、何かあったんですか?」
「さあ、わたしは部外者だから。詳しいことは教えてもらえないわ。クラウスが巻きこまないようにしてくれるから、必要以上に知ろうとはしないの」
「分かりました。朝食ありがとうございます」
ダニエラはトレーをテーブルに乗せて、部屋を出ていった。
皿の上にはスクランブルエッグや焼いたウインナー、それに色とりどりの野菜が盛りつけてある。
主食にはパンが用意されていて、至れり尽くせりなメニューだった。
ウィニーの状況が気になるため、すぐに食べ始めることにした。
食事を終えて空いた皿が乗ったトレーを手にしつつ、ロビーへと向かった。
そこには昨日と同じかたちで、ウィニーたちが向かい合って話しているところだった。
どこか張りつめた空気を感じるが、加わらないわけにもいかない。
輪に加わるように近づいて、ウィニーへと声をかける。
「おはよう」
「おっ、カイトか」
ウィニーからはいつもの明朗快活な感じが見られず、どことなく表情が固かった。
何か起きているのは間違いないみたいだ。
「……何かあったの?」
「それなんだが……。隠す意味がないから話すが、ジンタが朝になったらいなくなっていた」
「えっ、ホントに!?」
最近、ぎくしゃくしていたとしても、唯一無二の友だった。
彼がいなくなったなんて、何が起きたのだろう。
戸惑いが浮かぶばかりで、返す言葉が見つからなかった。
2
お気に入りに追加
70
あなたにおすすめの小説
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
家族全員異世界へ転移したが、その世界で父(魔王)母(勇者)だった…らしい~妹は聖女クラスの魔力持ち!?俺はどうなんですかね?遠い目~
厘/りん
ファンタジー
ある休日、家族でお昼ご飯を食べていたらいきなり異世界へ転移した。俺(長男)カケルは日本と全く違う異世界に動揺していたが、父と母の様子がおかしかった。なぜか、やけに落ち着いている。問い詰めると、もともと父は異世界人だった(らしい)。信じられない!
☆第4回次世代ファンタジーカップ
142位でした。ありがとう御座いました。
★Nolaノベルさん•なろうさんに編集して掲載中。
聖女の孫だけど冒険者になるよ!
春野こもも
ファンタジー
森の奥で元聖女の祖母と暮らすセシルは幼い頃から剣と魔法を教え込まれる。それに加えて彼女は精霊の力を使いこなすことができた。
12才にった彼女は生き別れた祖父を探すために旅立つ。そして冒険者となりその能力を生かしてギルドの依頼を難なくこなしていく。
ある依頼でセシルの前に現れた黒髪の青年は非常に高い戦闘力を持っていた。なんと彼は勇者とともに召喚された異世界人だった。そして2人はチームを組むことになる。
基本冒険ファンタジーですが終盤恋愛要素が入ってきます。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
エラーから始まる異世界生活
KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。
本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。
高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。
冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。
その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。
某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。
実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。
勇者として活躍するのかしないのか?
能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。
多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。
初めての作品にお付き合い下さい。
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
おっさんは異世界で焼肉屋する?ー焼肉GOD
ちょせ
ファンタジー
その店の名前は焼肉屋ゴッド
世界を極めた男、カンザキが始めたのは何と焼肉屋
カンザキの経営する焼肉屋はまだ開店したばかり
その中で色々な人と出会い、喜んで。
ダンジョンで獲れるモンスターを中心にお肉を提供中!
何故か王女姉妹がカンザキを取り合ったり
うさ耳娘にパパと呼ばれてみたりとドタバタした毎日を送ります
ちょっとタイトル変更など
何者でもない僕は異世界で冒険者をはじめる
月風レイ
ファンタジー
あらゆることを人より器用にこなす事ができても、何の長所にもなくただ日々を過ごす自分。
周りの友人は世界を羽ばたくスターになるのにも関わらず、自分はただのサラリーマン。
そんな平凡で退屈な日々に、革命が起こる。
それは突如現れた一枚の手紙だった。
その手紙の内容には、『異世界に行きますか?』と書かれていた。
どうせ、誰かの悪ふざけだろうと思い、適当に異世界にでもいけたら良いもんだよと、考えたところ。
突如、異世界の大草原に召喚される。
元の世界にも戻れ、無限の魔力と絶対不死身な体を手に入れた冒険が今始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる