26 / 57
第三章
サリオンと合流する
しおりを挟む
すぐに動き出す気持ちになれず、近くにあった椅子に腰かける。
こんなふうに喪失感を抱いたのはいつぶりぐらいだろう。
親戚のおじさんが亡くなった時、飼っていたペットが死んでしまった時。
リゼットと話した時間はわずかなものだったはずなのに、胸の中にぽっかりと穴が空いたような感覚がしていた。
そのまま打ちひしがれた想いでいると、人の気配が近づくことに気がついた。
頬にうっすらと涙が伝っているのに気づいて、慌てて手の甲で拭う。
この状況でやってくるとすればサリオンの可能性が高く、目が潤んでいるのを見せたくないと思った――ただの強がりかもしれないが――。
ふと視界の端に何かを捉えたことに気づいた。
距離が狭まるにつれて存在感が大きくなり、それがミレーナの魔道具による光だと分かった。
やがて姿を見せたのはサリオンだった。
「ふぅ、無事のようですね」
「……うん」
彼の呼びかけに応じたものの、まだ気持ちの整理がついていない。
リゼットのことを話そうとは思えなかった。
「こんなところに一人でいたら、恐ろしくもなりますね。見回りも終わりましたし、帰りましょう」
「そうだね、帰ろう」
俺は重たくなった腰を持ち上げて、二人で部屋を後にした。
サリオンが歩いた道を引き返していると、リゼットの鏡があった場所は地下の一角だったことが分かった。
通路の先にある一階への階段を上がってから城の外へと歩いていった。
城内から外に出ると空気が新鮮に感じられた。
鼻から息を吸いこみ、口から吐いてを繰り返す。
特に地下の部屋は埃っぽかったので、いくらか吸ってしまった気がする。
こうして広い空間に出てしまうとリゼットと話したことが夢の中の出来事のように感じられる。
まだまだ知らないことばかりなので、彼女の情報を集めるにしても時間が必要になりそうだ。
他にも知らなければならないこともあるため、順番に調べていけばいいだろう。
二人で城の前を離れて、誰もいない古城の敷地を後にした。
見回りが終わったので、これで帰るだけだ。
街の中心に近づくと、にぎやかな街の気配が感じられた。
「古城の見回りは報酬もいいですし、今日は天気もいい。私は馬毛亭で一杯やって帰ります。君は好きにしていいですよ」
「こんな時間から飲むんだね」
「ふふっ、いい天気です」
足元の石畳をさわやかな陽光が照らしている。
これから昼になろうかという時間帯だ。
「君の故郷ではなじみがないことですか? 明るい時間から飲んでいる冒険者連中はちらほらいますよ」
「さすがに口出しするつもりはない。今日は助けてもらったのもあるし」
「ああ、あの時はケガがなくてよかったです。それじゃあ、馬毛亭は向こうなので」
サリオンは上機嫌な様子で歩き去った。
おそらく、酒が飲めることがうれしいのだろう。
楽しげな彼の様子をうらやましく思いながら、遠ざかる背中を見送った。
特にやることもないし、洋館に戻るとしよう。
俺は来た道をそのまま引き返した。
移動を再開して、ふと魔眼のことが気になった。
人通りがまばらになったところを見計らって、スキルを表示する。
他の人には見えないと分かっていても目立ちたくなかった。
名前:吉永海斗
スキル名:転ばぬ先の魔眼
能力:所有者の危機を予知する
状態:大魔法使いリゼットによる封印――魔王の影響の無力化
今までになかった項目が追加されている。
リゼットがしてくれたことは効果があるようだ。
彼女と話した時間が夢ではないことだと分かった。
洋館への道を歩きながら、リゼットへの感謝の気持ちを抱いていた。
魔王の影響があればどうなっていたか分からない。
特殊なケースみたいなので、俺だけに起きたことならいいのだが。
「同じ魔法使いのミレーナなら、何か知っているかもしれない」
洋館に戻ってから、リゼットについてたずねることにした。
王都なら図書館などで情報を仕入れることもできる気がするが、顔見知りで賢そうなミレーナにたずねるのが近道のはずだ。
すでに何度か歩いた道を通って、洋館の中に入った。
お昼時ということもあり、料理の匂いが漂っていた。
廊下を通過していつもの部屋に入る。
「お疲れっす。見回りは終わったっすか?」
料理を配膳中のルチアが声をかけてきた。
大きな鍋にお玉を突っこんでいる。
身体能力が高いはずなのだが、裏方作業をしているところを見てばかりいる。
そんなことは口に出せず、素直に質問に応じることにする。
「うん、ついさっき。サリオンは馬毛亭に行ったよ」
酒を飲みに行ったと伝えたら、ルチアが悪態をつきそうなので、部分的にぼかしておいた。
彼女と話していると椅子に内川が座っているのが見えた。
向こうも俺に気づいていて、とても無視しようとは思えなかった。
「……元気?」
「この前は悪かった。サリオンとの依頼は危険だったと聞いた」
「うんまあ、そうだね」
気まずさはあるものの、普通に話せたことに安堵する。
城の転移魔法陣で飛ばされた六人はおらず、身近にいるクラスメイトは内川だけだ。
同じ世界の人間は貴重であり、友人である以上は良好な関係を維持したかった。
とはいえ、まだ完全に修復できた感じでもない。
話はそこまで弾まずにミレーナの姿を見つけて、彼女の近くの席に腰かけた。
あとがき
今回は魔眼の秘密が垣間見えるエピソードでした。
ストーリーが進むにつれて、この秘密は徐々に明らかになっていきます。
こんなふうに喪失感を抱いたのはいつぶりぐらいだろう。
親戚のおじさんが亡くなった時、飼っていたペットが死んでしまった時。
リゼットと話した時間はわずかなものだったはずなのに、胸の中にぽっかりと穴が空いたような感覚がしていた。
そのまま打ちひしがれた想いでいると、人の気配が近づくことに気がついた。
頬にうっすらと涙が伝っているのに気づいて、慌てて手の甲で拭う。
この状況でやってくるとすればサリオンの可能性が高く、目が潤んでいるのを見せたくないと思った――ただの強がりかもしれないが――。
ふと視界の端に何かを捉えたことに気づいた。
距離が狭まるにつれて存在感が大きくなり、それがミレーナの魔道具による光だと分かった。
やがて姿を見せたのはサリオンだった。
「ふぅ、無事のようですね」
「……うん」
彼の呼びかけに応じたものの、まだ気持ちの整理がついていない。
リゼットのことを話そうとは思えなかった。
「こんなところに一人でいたら、恐ろしくもなりますね。見回りも終わりましたし、帰りましょう」
「そうだね、帰ろう」
俺は重たくなった腰を持ち上げて、二人で部屋を後にした。
サリオンが歩いた道を引き返していると、リゼットの鏡があった場所は地下の一角だったことが分かった。
通路の先にある一階への階段を上がってから城の外へと歩いていった。
城内から外に出ると空気が新鮮に感じられた。
鼻から息を吸いこみ、口から吐いてを繰り返す。
特に地下の部屋は埃っぽかったので、いくらか吸ってしまった気がする。
こうして広い空間に出てしまうとリゼットと話したことが夢の中の出来事のように感じられる。
まだまだ知らないことばかりなので、彼女の情報を集めるにしても時間が必要になりそうだ。
他にも知らなければならないこともあるため、順番に調べていけばいいだろう。
二人で城の前を離れて、誰もいない古城の敷地を後にした。
見回りが終わったので、これで帰るだけだ。
街の中心に近づくと、にぎやかな街の気配が感じられた。
「古城の見回りは報酬もいいですし、今日は天気もいい。私は馬毛亭で一杯やって帰ります。君は好きにしていいですよ」
「こんな時間から飲むんだね」
「ふふっ、いい天気です」
足元の石畳をさわやかな陽光が照らしている。
これから昼になろうかという時間帯だ。
「君の故郷ではなじみがないことですか? 明るい時間から飲んでいる冒険者連中はちらほらいますよ」
「さすがに口出しするつもりはない。今日は助けてもらったのもあるし」
「ああ、あの時はケガがなくてよかったです。それじゃあ、馬毛亭は向こうなので」
サリオンは上機嫌な様子で歩き去った。
おそらく、酒が飲めることがうれしいのだろう。
楽しげな彼の様子をうらやましく思いながら、遠ざかる背中を見送った。
特にやることもないし、洋館に戻るとしよう。
俺は来た道をそのまま引き返した。
移動を再開して、ふと魔眼のことが気になった。
人通りがまばらになったところを見計らって、スキルを表示する。
他の人には見えないと分かっていても目立ちたくなかった。
名前:吉永海斗
スキル名:転ばぬ先の魔眼
能力:所有者の危機を予知する
状態:大魔法使いリゼットによる封印――魔王の影響の無力化
今までになかった項目が追加されている。
リゼットがしてくれたことは効果があるようだ。
彼女と話した時間が夢ではないことだと分かった。
洋館への道を歩きながら、リゼットへの感謝の気持ちを抱いていた。
魔王の影響があればどうなっていたか分からない。
特殊なケースみたいなので、俺だけに起きたことならいいのだが。
「同じ魔法使いのミレーナなら、何か知っているかもしれない」
洋館に戻ってから、リゼットについてたずねることにした。
王都なら図書館などで情報を仕入れることもできる気がするが、顔見知りで賢そうなミレーナにたずねるのが近道のはずだ。
すでに何度か歩いた道を通って、洋館の中に入った。
お昼時ということもあり、料理の匂いが漂っていた。
廊下を通過していつもの部屋に入る。
「お疲れっす。見回りは終わったっすか?」
料理を配膳中のルチアが声をかけてきた。
大きな鍋にお玉を突っこんでいる。
身体能力が高いはずなのだが、裏方作業をしているところを見てばかりいる。
そんなことは口に出せず、素直に質問に応じることにする。
「うん、ついさっき。サリオンは馬毛亭に行ったよ」
酒を飲みに行ったと伝えたら、ルチアが悪態をつきそうなので、部分的にぼかしておいた。
彼女と話していると椅子に内川が座っているのが見えた。
向こうも俺に気づいていて、とても無視しようとは思えなかった。
「……元気?」
「この前は悪かった。サリオンとの依頼は危険だったと聞いた」
「うんまあ、そうだね」
気まずさはあるものの、普通に話せたことに安堵する。
城の転移魔法陣で飛ばされた六人はおらず、身近にいるクラスメイトは内川だけだ。
同じ世界の人間は貴重であり、友人である以上は良好な関係を維持したかった。
とはいえ、まだ完全に修復できた感じでもない。
話はそこまで弾まずにミレーナの姿を見つけて、彼女の近くの席に腰かけた。
あとがき
今回は魔眼の秘密が垣間見えるエピソードでした。
ストーリーが進むにつれて、この秘密は徐々に明らかになっていきます。
1
お気に入りに追加
70
あなたにおすすめの小説
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
異世界なう―No freedom,not a human―
逢神天景
ファンタジー
クラスメイトと共に異世界に召喚された主人公、清田京助。これから冒険譚が始まる――と思った矢先、とある発言により城から追い出されてしまった。
それにめげず「AG」として異世界を渡り歩いていく京助。このままのんびりスローライフでも――なんて考えていたはずなのに、「神器」を手に入れ人もやめることになってしまう!?
「OK、分かった面倒くさい。皆まとめて俺の経験値にしてやるよ」
そうして京助を待ち受けるのは、勇者、魔王、覇王。神様、魔法使い、悪魔にドラゴン。そして変身ヒーローに巨大ロボット! なんでもありの大戦争! 本当に強い奴を決めようぜ! 何人もの主人公が乱立する中、果たして京助は最後まで戦い抜くことが出来るのか。
京助が神から与えられた力は「槍を上手く扱える」能力とほんの少しの心の強さのみ! これは「槍使い」として召喚された少年が、異世界で真の「自由」を手に入れるための救世主伝説!
*ストックが無くなったので、毎週月曜日12時更新です。
*序盤のみテンプレですが、中盤以降ガッツリ群像劇になっていきます。
*この作品は未成年者の喫煙を推奨するモノではありません。
家族全員異世界へ転移したが、その世界で父(魔王)母(勇者)だった…らしい~妹は聖女クラスの魔力持ち!?俺はどうなんですかね?遠い目~
厘/りん
ファンタジー
ある休日、家族でお昼ご飯を食べていたらいきなり異世界へ転移した。俺(長男)カケルは日本と全く違う異世界に動揺していたが、父と母の様子がおかしかった。なぜか、やけに落ち着いている。問い詰めると、もともと父は異世界人だった(らしい)。信じられない!
☆第4回次世代ファンタジーカップ
142位でした。ありがとう御座いました。
★Nolaノベルさん•なろうさんに編集して掲載中。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
エラーから始まる異世界生活
KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。
本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。
高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。
冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。
その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。
某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。
実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。
勇者として活躍するのかしないのか?
能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。
多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。
初めての作品にお付き合い下さい。
おっさんは異世界で焼肉屋する?ー焼肉GOD
ちょせ
ファンタジー
その店の名前は焼肉屋ゴッド
世界を極めた男、カンザキが始めたのは何と焼肉屋
カンザキの経営する焼肉屋はまだ開店したばかり
その中で色々な人と出会い、喜んで。
ダンジョンで獲れるモンスターを中心にお肉を提供中!
何故か王女姉妹がカンザキを取り合ったり
うさ耳娘にパパと呼ばれてみたりとドタバタした毎日を送ります
ちょっとタイトル変更など
何者でもない僕は異世界で冒険者をはじめる
月風レイ
ファンタジー
あらゆることを人より器用にこなす事ができても、何の長所にもなくただ日々を過ごす自分。
周りの友人は世界を羽ばたくスターになるのにも関わらず、自分はただのサラリーマン。
そんな平凡で退屈な日々に、革命が起こる。
それは突如現れた一枚の手紙だった。
その手紙の内容には、『異世界に行きますか?』と書かれていた。
どうせ、誰かの悪ふざけだろうと思い、適当に異世界にでもいけたら良いもんだよと、考えたところ。
突如、異世界の大草原に召喚される。
元の世界にも戻れ、無限の魔力と絶対不死身な体を手に入れた冒険が今始まる。
悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~
こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。
それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。
かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。
果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!?
※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる