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婚約破棄令嬢は健気だった

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「ごめん、他に好きな人が出来たんだ。婚約破棄してくれないかな?」

 唐突にそんなことを婚約者から言われた私ーーいや、前から分かってたんだ。それなのに私は知らないふりをしていただけ。
 本心では、『ああ、とうとう言われてしまったか……』という方が強いと思う。
 私はぎゅっと唇を固く結び、無理矢理笑顔を作ってこう答える。

「そうですか。私の他にいい人がいるならどうぞその方と幸せになってください」

 私は目を逸らさないで早口でそう言い、元婚約者の人に一言言おうとその場を離れる。
 その一言とは、『幸せになってください』ただそれだけだ。

 ーーいた。
 学園内を走り回っていると、ある豪華絢爛な服装をした少女がいた。
 こんな簡易なワンピースを来ている私とはやはり釣り合いが取れないのだろうか? そう思うとまた胸が苦しくなってくる。
 一言。そう、一言だけでいいの。それだけ言わせて欲しい。
 私はその少女を引き止める。

「ねえ、押し付けがましいとは思うんだけど、これだけは言わせて」
「な、何よ……」

 相手の娘はびっくりした様子で、目をパチパチさせている。
 私はそんなのもお構い無しに続ける。

「幸せになってね」

 そう一言いうと、不思議と笑みが浮かぶ。
 ああ、そうか私はあの人のことがこんなに……!

「ちょっと何よやりづらいわね……」

 そう言うと、苦虫を潰したような表情のまま走り去る少女。
 どうか、幸せに……。
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