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11 あ、それ。熟成しておいたんですけど……、だめでした?

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 ベーシュにグレーを程よく合わせたような彼女の髪色は、日の光を馴染ませ、透明感を帯びている。
 ワンピースをの袖から伸びる手足は、滑らかな白い肌をしており、歳は、少年と同じくらい、もしくは年下といったような見た目をしているその少女は、憂鬱そうに溜め息を吐くと、

「多分、私が最初だったんですけどね……」

 声をかけた順番の話だろう。
 この街に来て始めて初めて、他人に声をかけられたときのことを思い出して、少年は少女の言っている意味を推測する。

「そしたら、いきなり逃げちゃうんだもん」

 少女は頬を膨らませると、不機嫌そうに話を続けた。

「探しても、見つからないし。そしたら、ちょっとだけ腹が立って。それで、今日のお昼は少し、やけ食いをしちゃったんですよね」

 ポンポンと、少女は自分のお腹を叩くと、円を描くように撫でる。大切なものを扱うような、優しい手の動き。
 それを目で追っていた少年は、そこはなとなく、強烈な不安感を覚える。

「けど、そのおかげで……、出そうなんです」

 少女はそう言いながら、少年の目の前でしゃがみ、ゆっくりとした動きで、少年の耳に口を近づけていくと、

「あっつーい……」

 言葉をそこで区切り――「ふぅ」と、少女は息で、少年の耳をくすぐる。

「――っ」

 少女のいたずらに、少年の目は死んでいるようでありながらも、動揺に瞳が揺ゆれた。
 少女に対して、いたずらをするようなイメージを抱いてなかったのもあり、そのギャップも合わさって、強い驚きが、少年のぼやけた意識を鮮明にさせていく。
 そして、鮮明に――させてしまった。
 そのせいで、少年の耳は、はっきりと聞いてしまう。

 ~ すっ――すううぅぅ――ぅぅ――っかああぁぁ

 聞いただけでわかってしまう――“やばい”やつだ。

「では……。今度は、逃げないでくださいね……」

 そう言うと、少女は少年の後頭部に――左手を回し、後ずさろうとする動きを止める。
 そして、もう片方――右手はいつの間にか、おしりの方へと回されており、

「ふふっ……。これは多分。一度嗅いだら、二度と忘れられないかもしれません……」

 少女は薄く笑い、少年の鼻先へ、柔らかく握った右手を持っていくと――『カップケーキ』で、少年の鼻を、ふんわりと、閉じ込めしまった。

「――――」

 白目を向く少年。
 ねっとりとした、暖かい空気が少年の鼻を包んだかと思えば、腐卵臭のかたまりのようなものが鼻腔へと流れ込んできたのだ。
 その衝撃は、少年の脳内に火花を生み、脳震盪を引き起こし、

「――うっ……、おげええええっ!!」

 ついに、少年はうずくまり、胃の中身を吐いてしまう。
 ここまで、少年は嘔吐することなく堪えていたのだが、今まで蓄積していた気持ち悪さも手伝って、少女の一発は、ややオーバーキル気味に、少年の精神をへし折ったのだった。
 そんな少年の様子に、少女は特にドン引した様子も見せず、

「あらら……。ちょっと、刺激が強すぎたんでしょうか。大丈夫ですか? せめて――もう一発くらい、嗅いでほしいんですけど……」

「……っ!?」

 少女の言葉に、少年の体がピクッとはねる。
 その反応に、少女は「ふふっ」と可笑しそうに笑った。

「なんちゃって」

 少女の言葉に、安堵したのもつかの間、

「残念ながら、――一人、一発までなんですよね」

「…………」

 少年は唖然とする。
 『一人一発』。
 それは少年にとって、初耳なルールだった。
 思い返せばそれは守られていて、それがなかったら――と想像し、

「――おっ、ごええぇぇ……」

 胃が締め付けられたかのように、彼はえずいた。
 そんな少年へ、少女はなぜか切なそうな表情を向けると、

「だから、これを掃除したら、お別れです。……今日のところは、ですけどね」

 少女はそう言い残し、少年の失態の片付けをするため、どこからともなく、せい清掃道具を持ってきて、掃除を始める。

「…………」

 聞き逃せない言葉に、少年が呆然としていると、周りにいいた女性達も掃除に協力し、その場所はあっというまに、綺麗になった。
 そして、

「あの。お時間いだだきまして、ありがとうございました。それでは、また……」

 と、少女と入れ替わるようにして――また別の人影が、少年の前へとやってくる。
 そして、それからも少年の地獄は続き――。
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