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四、皆でご飯を食べましょう。
四、皆でご飯を食べましょう。①
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「一河くんの家からおいしそうなお肉いただいちゃったのよ」
「すき焼きだあ」
お母さんとお父さんは一河と水咲を見て久しぶりだねって喜んでくれた。
そして庭の横の倉庫からバーベキュー用の折り畳みテーブルを出して、リビングはテーブルと椅子だけでパンクしそうなほど狭くなった。
なのに皆、嬉しそうだ。
「一慶くんは?」
母が色紙を持って玄関でスタンバイしているのに、一慶さんはもじもじとバイクのヘルメットを外したりかぶったりと駐車場でもたついている。
「一慶さーん。お母さんが色紙を持ってまってるよー」
「ええ、ええー。未来のご両親だし緊張するう」
未来のご両親って言葉を初めて聞いた。
でも一慶さんらしい受け取り方に笑ってしまう。
「え、ラメ入りゴールドのバイク!?」
妹の梨伽の声にバイクのハンドルにぶら下がっていた一慶さんが飛び上がる。
中学二年生の梨伽はテニスラケット片手に、一慶さんを見て固まっていた。
ボールと間違えて打たないでよ。
「未来のお兄ちゃん!?」」
「未来の妹!? え、可愛い」
同じ匂いがする。同じテンションのまま二人は玄関にやってきた。
「いらっしゃい。一慶くん」
「おじゃまします。あの、これ、つまらないものですが」
小さな体で、近くのケーキ屋で買った菓子折りを渡すと、母はクスクス笑った。
「あの時の男の子が菓子折りなんて持ってくるなんて、時間が経つのは早いわねえ」
「一慶くん、最近、DVD借りて妻と見てたんだ。格好いいね、紺碧の王子さま」
「あ、いえ、その滅相もあの、なにか失礼をしましたら、この場で切腹するんで」
緊張しているのか一慶さんの足は千鳥足だ。
それから母にサイン、父と記念撮影、妹とアドレスの交換をして目を回しながらも楽しんでいた。
「ちょっとお、流伽」
「え? どうしたの」
野菜を切ってくれていた水咲が一河を大根で指さした。
「一河ったらすき焼きに大根は入れないって言うの」
「普通入れないでしょ。白菜と長ネギとえのきと白滝とお豆腐だよ」
「えええ、大根美味しいよ」
九州のおばあちゃんが送ってくれる大根はすき焼きにかかせない。
薄くいちょう切りにしてばらまけば、甘しょっぱい美味しい大根が突けばすぐに出てくるのは美味しいのに。
「一河先輩の家はフォアグラとか松茸が入ってそう」
「入ってないってば。一慶さんはどうです? 吾妻プロレスでは入ってます?」
水咲は絶対に入れたいらしく、さっさと皮をむきだした。
一慶さんは少し考えてから「俺の吾妻プロレスは食べたいものどんどん入れてたからカオスだったな」としみじみ語っていて参考にならなかった。
「でも確かに俺も食べたことがないから、食べてから感想を言おうよ、一河くん」
「一慶さんがそういうなら」
その後、一慶さんが豆腐を緊張していて握りつぶしたり、自称綺麗好きの一河がえのきをありえないぐらい短く切って驚かせたり、始終笑いの絶えない食事会になった。
「じゃあ一河くんと一慶くんはお父さんの部屋。水咲は私と二段ベット。梨伽はお母さんの部屋ね」
「いや、俺は家に帰りますよ」
一河は申し訳なさそうに断ったが、一慶さんは全力で阻止していた。
一人でお父さんと寝るのは恥ずかしいらしい。
一河と水咲と私と梨伽でトランプしたりゲームしたりしていたら、気づいたらリビングで全員寝落ちしていて飛び起きた。
急いで布団をかぶせていると、庭の方からカラカラと滑車が回るような音。
出てみたら回し車に乗る一慶さんがいた。
そういえば、この滑車の音、お見合いセンターでのルームシェア初日からずっとなっていた気がする。
「一慶さん、眠れないの?」
「流伽、うわ、ごめん。起こしたかな。寝る前にトレーニングしないと眠れなくて」
滑車じゃなくてトレーニングをしていたんだ。
ハムスターに見えている私には、本当は何をしているのかが見えていない。
「一河くんの家からおいしそうなお肉いただいちゃったのよ」
「すき焼きだあ」
お母さんとお父さんは一河と水咲を見て久しぶりだねって喜んでくれた。
そして庭の横の倉庫からバーベキュー用の折り畳みテーブルを出して、リビングはテーブルと椅子だけでパンクしそうなほど狭くなった。
なのに皆、嬉しそうだ。
「一慶くんは?」
母が色紙を持って玄関でスタンバイしているのに、一慶さんはもじもじとバイクのヘルメットを外したりかぶったりと駐車場でもたついている。
「一慶さーん。お母さんが色紙を持ってまってるよー」
「ええ、ええー。未来のご両親だし緊張するう」
未来のご両親って言葉を初めて聞いた。
でも一慶さんらしい受け取り方に笑ってしまう。
「え、ラメ入りゴールドのバイク!?」
妹の梨伽の声にバイクのハンドルにぶら下がっていた一慶さんが飛び上がる。
中学二年生の梨伽はテニスラケット片手に、一慶さんを見て固まっていた。
ボールと間違えて打たないでよ。
「未来のお兄ちゃん!?」」
「未来の妹!? え、可愛い」
同じ匂いがする。同じテンションのまま二人は玄関にやってきた。
「いらっしゃい。一慶くん」
「おじゃまします。あの、これ、つまらないものですが」
小さな体で、近くのケーキ屋で買った菓子折りを渡すと、母はクスクス笑った。
「あの時の男の子が菓子折りなんて持ってくるなんて、時間が経つのは早いわねえ」
「一慶くん、最近、DVD借りて妻と見てたんだ。格好いいね、紺碧の王子さま」
「あ、いえ、その滅相もあの、なにか失礼をしましたら、この場で切腹するんで」
緊張しているのか一慶さんの足は千鳥足だ。
それから母にサイン、父と記念撮影、妹とアドレスの交換をして目を回しながらも楽しんでいた。
「ちょっとお、流伽」
「え? どうしたの」
野菜を切ってくれていた水咲が一河を大根で指さした。
「一河ったらすき焼きに大根は入れないって言うの」
「普通入れないでしょ。白菜と長ネギとえのきと白滝とお豆腐だよ」
「えええ、大根美味しいよ」
九州のおばあちゃんが送ってくれる大根はすき焼きにかかせない。
薄くいちょう切りにしてばらまけば、甘しょっぱい美味しい大根が突けばすぐに出てくるのは美味しいのに。
「一河先輩の家はフォアグラとか松茸が入ってそう」
「入ってないってば。一慶さんはどうです? 吾妻プロレスでは入ってます?」
水咲は絶対に入れたいらしく、さっさと皮をむきだした。
一慶さんは少し考えてから「俺の吾妻プロレスは食べたいものどんどん入れてたからカオスだったな」としみじみ語っていて参考にならなかった。
「でも確かに俺も食べたことがないから、食べてから感想を言おうよ、一河くん」
「一慶さんがそういうなら」
その後、一慶さんが豆腐を緊張していて握りつぶしたり、自称綺麗好きの一河がえのきをありえないぐらい短く切って驚かせたり、始終笑いの絶えない食事会になった。
「じゃあ一河くんと一慶くんはお父さんの部屋。水咲は私と二段ベット。梨伽はお母さんの部屋ね」
「いや、俺は家に帰りますよ」
一河は申し訳なさそうに断ったが、一慶さんは全力で阻止していた。
一人でお父さんと寝るのは恥ずかしいらしい。
一河と水咲と私と梨伽でトランプしたりゲームしたりしていたら、気づいたらリビングで全員寝落ちしていて飛び起きた。
急いで布団をかぶせていると、庭の方からカラカラと滑車が回るような音。
出てみたら回し車に乗る一慶さんがいた。
そういえば、この滑車の音、お見合いセンターでのルームシェア初日からずっとなっていた気がする。
「一慶さん、眠れないの?」
「流伽、うわ、ごめん。起こしたかな。寝る前にトレーニングしないと眠れなくて」
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ハムスターに見えている私には、本当は何をしているのかが見えていない。
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