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三、前を見て。まっすぐ。

三、前を見て。まっすぐ。十

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「で、水咲ちゃんは結局、どうなの? 今、どこ?」
「俺もここ、迷子になっちゃうぐらい広いから分からないけど、庭の方に行ったよ。孔一くんは困惑していたなあ」
「ご案内いたしましょうか」

 私たちの話を静観していた仲人さんが、一歩、一歩近づいてくる。
 白のハイヒールが、コツコツと威嚇しているような音を立てていた。

「いえ、貴方の協力はもう頼みません」
 でも私が言うよりも先に一慶さんが私をかばうように立ちふさがり、真っすぐに伝えてくた。
「俺たちは、このお見合いを断りますので。もう貴方のサポートを受けることはできません。一河くん、案内を頼んでもいい?」
「もちろんですよ」

仲人さんは表情を変えることなく私たちを見ている。いつもにこやかで、自信に満ち溢れた真っ赤な唇。親切にしてくださったことは感謝しているけれど、何を考えているのかちょっと分からなくて不気味に感じる。

「恋愛結婚憧憬症候群を起こした後のお見合い成功率をお教えいたしましょうか」
「いや、結構です」
「お見合いの成功率とお見合い後の出産率もお教えいたしましょうか」
「仲人さんには感謝しているが、俺たちにはそんなこと、今、関係ないって言ってるでしょ」




一慶さんは一河のハンドルの上に乗って、仲人さんを睨みつけた。

「国の政策云々よりも大切なのは、親友の安否だ。あんたたち国側が作ったお見合いで翻弄されてる女の子を守る方が先なんですよ」

 後日、ちゃんと連絡しますと早口でまくし立てると、中へ入っていく。
 ちらりと後ろを向くと、私たちの背中をただ表情も変えずに見ている仲人さんの姿があった。
 反抗的で迷惑ばかりかけてしまう私たちみたいなお見合いの担当で申し訳ない。
 あの人だって違う形で会っていたら、良い人だって素直に好意を見せられたと思うのに沢山反発してしまった。

「あー……、さきに孔一くんいたよ」
 縁側で片足を立てて、もう片足はぶらんぶらん揺らしている。
 深い緑色の甚平を着ていて、物思いにふけっている様子だった。

 このお屋敷も和風で、奥でお寺と繋がっているようだ。
 奥の大きな屋敷の手前の、離れみたいな小さな小屋の縁側。
 全身を見たけど、怪我はしている様子はなくて安心した。

「あの子が孔一くん?」
「そ、そうです」
「一つだけ聞くけど、流伽は暴力を反省してる?」



 一河は一慶さんの後ろで、私に目配せすると奥の屋敷へ向かった。
水咲は一河に任せていて大丈夫だと思う。なので、私は一慶さんの質問に頷いた。

「ただし、孔一くんが反省していなかったら謝らない」
「わかった」
 その瞬間、手が熱くなった。一慶さんが私の手の上に乗ったからだと思ったけど、違う。
今、本当の一慶さんは私の手を握ってくれていて、私はその感触が伝わってきている。
 少しずつ私は、現実の一慶さんを感じるようになってきている。

「やっほー。紺碧の王子こと花巻一慶でーす」

ただし、どうしてこんな真面目なシチュエーションでもどこかでふざけようとしてくるの。

「え、うそ。吾妻プロレスの、一慶さんだ」
「知っててくれてるの。技かけてあげようか」
「あはは。……今技をかけられたら一撃必殺で死んじゃいそうで……」

言いかけた途中で、私が木の陰に立っているのを見て、驚いたのか固まった。
そうだよね。自分を三日間の停学に追い込めた相手だもんね。
私もどう声をかけていいか迷った。

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