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三、前を見て。まっすぐ。

三、前を見て。まっすぐ。五

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二人は一応国の法律での結婚らしいけど、小さな頃から互いを知っているので恋愛にも発展したらしくラブラブらしい。
今日はお見合いセンターの高級ホテルで泊まって、最上階の温水プールでデートする予定だったらしい。

それなのに、今。
宗亮さんは、ビアガーデンの打ち合わせとリハーサル中の一慶さんのところに私を送ってくれている。

私が行きたいのならば、彼の了承をとろうと。
もちろん、宗亮さんに迷惑をかけられないし、一慶さんも一緒に謝りに行きたいと言ってくれていたから、その案は常識的なのかもしれない。
ただ、仕事中の一慶さんの邪魔になるのだけは申し訳ないけど少し話をしてすぐ帰ればいいかな。


「ホットココア飲んで」
「わあ、ありがとうございます」

冷えた体が、中から温まっていく。
高速を降りて、コンビニで飲み物を持ってきてくれた宗亮さん。改めてまじまじと見つめてみると、細いし足が長すぎるのに、足の筋肉がライダースーツからでもはっきりわかる。

一慶さんは、お口にファスナーを縫い付けないと延々としゃべってる人だけど、宗亮さんは黙っていて落ち着いた大人の雰囲気だ。

「あのう、宗亮さんって何歳なんですか」
「一慶選手と一緒だよ」



 あの落ち着きのない一慶さんと!?
 私にはハムスターにしか見えないから、そう感じてしまうのかもしれないけど、常に筋トレしてるかしゃべってる一慶さんと同い年。

「うちの奥さんさ」
「え!」

私もこんな美形から「うちの奥さん」なんて言われてみたいなんて思ってしまった。
 違う違う。そうじゃない。

「うちの奥さん、天童って散々マスコミにもてはやされて、尚且つ最年少手テニスプレイヤーってちやほやされてたからさ。足の故障の後、周りがまるで海の波のようにさーっと消えていったとかで一時期すごい落ち込んでたんだ」

「……あんな明るくて素敵な先輩なのに、酷い」

私みたいな普通科の、十人並みのパッとしない人間にも優しくしてくれるのに。

「その時に、一慶選手の生い立ちとかそれでもリングに立ち続ける背中に勇気づけられたらしくて」

一家で大ファンって言ってたけど、そっか。先輩も苦労していたんだ。

「でもきっと今の明るい先輩に戻れたのは、支えてくれた旦那様の存在が一番だと思います」
「……なんで?」




美形の顔が目を真ん丸にしている。美形が驚いても美形。これはことわざに認定されるのではないか。
「だって趣味とか音楽とかに興味が持てるのって満たされてるときじゃないですか。先輩が一慶さんに夢中になってるのって旦那様が居場所をくれたからじゃないかなって」

さっきだって私を送る宗亮さんを見送って自分は先にお見合いセンターに向かっていた。
信頼してないと、こんな特進でもない私を任せたりしない。

「考えちゃうよね、それ。俺は自分が世界ランク保持者のテニスプレイヤーで良かったって思ったとこだよ。彼女を守るための地位ってかってね」

一気にコーヒーを飲みほした宗亮さんはそれ以上は言わなかった。
でもやはりこの法律で縛られたお見合いってのが根本的に私たちの人生に余計な調味料を侵入させていて、味を変えているように思える。

もし法律がなかったら、私の高校生活の始まりはどんな感じだったんだろう。

「じゃあ、あと二キロぐらいだから。捕まって」
「はい」

こうやってバイクを乗り越す美形の後ろで抱き着いても、ときめかない。
お見合いのせいなのか、法律のせいなのか。

「……」

それか全く関係なく、私の相手のハムスターの影がちらつくからかな。




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