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二、俺の話を聞けイエーイ
二、俺の話を聞けイエーイ ⑲
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あんなに良い人で、テンションはついていけない時があるけど優しくて、私を心から思ってくれている人。
そんな人をハムスターとして認識してしまうっていうのは彼にとってとても酷いことをしてしまっている自覚はある。
「法律で決められた相手を否定してしまって、一慶さん自身を見てあげられていない自分がいるのがとても嫌だったの。すごく嫌だったの。だから、お見合いをやめて一から彼を見てみたいなって」
「流伽ちゃんは一慶さんとの自分の過去も彼の辛い過去も知らないんだよね?」
一河の言いたいことは何となくわかっているし分かりたくない。
気づきそうで自分でも気づいていないことだと思っている。
なので頷いた。
一河はそれに納得してくれたのか少し表情が緩む。
だから私も少しだけホッとした。親友たちにはやはり受け入れてほしい。
水咲みたいに真面目で、祖父を尊敬していて、法律に従おうとしているから無理に受け入れてとは言わない。理解だけしてほしい。
お見合いによって国のために子どもを産む制度ではなく、私は『好きな人と結婚して、好きな人と家族を増やす』こと。
それを望んでいるんだと。
「あの、水咲、あのね」
どういえばいいか悩んで、水咲の方を見た。
けれど私と一河は目を見開いて固まる。
彼女は目を大きく見開いて、そして大粒の涙をためていた。
私たちが息をのむのと同時に、水咲は瞬きをして涙を流した。
白くてニキビのない水咲の頬を、涙を伝っていくのを見とれるしかない。
「……よね」
「水咲?」
「好きな人と結婚して、好きな人と家族を増やす」
「水咲、ほらハンカチ」
一河がアイロンがかかった綺麗な青色のハンカチを差し出す。
そのハンカチは、亜里沙先輩と水族館デートしたときに買ったおそろいのハンカチだって自慢していた。
そんなハンカチをためらいなく彼は親友に差し出せる男だ。
「私が」
「うん、ゆっくりでいいからね」
「私の、ブザーが今まで一度も鳴らなかったのは」
か細い水咲の声が段々とかすれて消えていく。
彼女は絞るように吐き出した最後の言葉は、『ずっと孔一くんにあこがれていたから』だった。
相手に無機質なパソコンに見られていても、相手に政略的なお見合いだと宣言されていても、相手が友達の私をからかっていたのを知っていても、水咲のSOSを表すブザーが鳴らなかったのは。
水咲はあこがれて、好きで、孔一くんとのお見合いが嬉しかったから。
だからすべての仕打ちに耐えられたんだ。
「好きな人と結婚できることが、一番大切なことよね」
馬鹿みたいな正論。なんで少女漫画にあこがれて、現実で恋愛ができないの。
大切なことは、この国の人口が増加すること『だけ』なの?
「お爺様のお屋敷は冷たくて大きくて、怖かった。でもね、一度だけ、あの冷たい屋敷で孔一くんに会った時からずっと」
それなのに、好きな人は自分を無機質なパソコンに見ている。
法律を壊したいと、近づいてきた。もしかしたら同じ政党の中の反逆者になろうとしているのかもしれない。
それでも水咲の顔はぐしゃぐしゃの中、恋する顔で傷ついていた。
分かる。わかるよ。孔一くんは、一年生で一番格好いいし優しいし、女の子に紳士的だもん。「まあ、お互い、誰と浮気しようと干渉せず、自分の子として育てようねって宣言されちゃってるんだけど」
水咲が恋愛結婚憧憬症候群にならなかったのは、ならなかったんじゃなくてなれなかったんだ。現実があまりにも冷たい未来しかなくて夢なんて持てなかった。
それに現実の孔一くんが好きだからこそ、夢なんて見る必要がなかったんだ。
それなのに、そんな発言した孔一くんが水咲に恋愛結婚憧憬症候群を起こすなんておかしい。
しかも初日にブザーを鳴らしちゃうなんて。
「こんなの!」
車いすから落ちそうなほど身を乗り出して、一河が水咲のブレスレットを掴んだ。
「こんなブレスレット、不良品じゃないか! 水咲ちゃんは、水咲ちゃんは!」
――お見合いが始まってからずっと、きずついていたんじゃないのか。
自分の足のけがのことで、からかわれたり馬鹿にされたり、酷い噂を聞こえるように囁かれても一河は怒らない。怒るのはいつも、友達のため。
そんな優しい彼が、今にも泣き出しそうな顔で、自分のブレスレットも強く握った。
そんな人をハムスターとして認識してしまうっていうのは彼にとってとても酷いことをしてしまっている自覚はある。
「法律で決められた相手を否定してしまって、一慶さん自身を見てあげられていない自分がいるのがとても嫌だったの。すごく嫌だったの。だから、お見合いをやめて一から彼を見てみたいなって」
「流伽ちゃんは一慶さんとの自分の過去も彼の辛い過去も知らないんだよね?」
一河の言いたいことは何となくわかっているし分かりたくない。
気づきそうで自分でも気づいていないことだと思っている。
なので頷いた。
一河はそれに納得してくれたのか少し表情が緩む。
だから私も少しだけホッとした。親友たちにはやはり受け入れてほしい。
水咲みたいに真面目で、祖父を尊敬していて、法律に従おうとしているから無理に受け入れてとは言わない。理解だけしてほしい。
お見合いによって国のために子どもを産む制度ではなく、私は『好きな人と結婚して、好きな人と家族を増やす』こと。
それを望んでいるんだと。
「あの、水咲、あのね」
どういえばいいか悩んで、水咲の方を見た。
けれど私と一河は目を見開いて固まる。
彼女は目を大きく見開いて、そして大粒の涙をためていた。
私たちが息をのむのと同時に、水咲は瞬きをして涙を流した。
白くてニキビのない水咲の頬を、涙を伝っていくのを見とれるしかない。
「……よね」
「水咲?」
「好きな人と結婚して、好きな人と家族を増やす」
「水咲、ほらハンカチ」
一河がアイロンがかかった綺麗な青色のハンカチを差し出す。
そのハンカチは、亜里沙先輩と水族館デートしたときに買ったおそろいのハンカチだって自慢していた。
そんなハンカチをためらいなく彼は親友に差し出せる男だ。
「私が」
「うん、ゆっくりでいいからね」
「私の、ブザーが今まで一度も鳴らなかったのは」
か細い水咲の声が段々とかすれて消えていく。
彼女は絞るように吐き出した最後の言葉は、『ずっと孔一くんにあこがれていたから』だった。
相手に無機質なパソコンに見られていても、相手に政略的なお見合いだと宣言されていても、相手が友達の私をからかっていたのを知っていても、水咲のSOSを表すブザーが鳴らなかったのは。
水咲はあこがれて、好きで、孔一くんとのお見合いが嬉しかったから。
だからすべての仕打ちに耐えられたんだ。
「好きな人と結婚できることが、一番大切なことよね」
馬鹿みたいな正論。なんで少女漫画にあこがれて、現実で恋愛ができないの。
大切なことは、この国の人口が増加すること『だけ』なの?
「お爺様のお屋敷は冷たくて大きくて、怖かった。でもね、一度だけ、あの冷たい屋敷で孔一くんに会った時からずっと」
それなのに、好きな人は自分を無機質なパソコンに見ている。
法律を壊したいと、近づいてきた。もしかしたら同じ政党の中の反逆者になろうとしているのかもしれない。
それでも水咲の顔はぐしゃぐしゃの中、恋する顔で傷ついていた。
分かる。わかるよ。孔一くんは、一年生で一番格好いいし優しいし、女の子に紳士的だもん。「まあ、お互い、誰と浮気しようと干渉せず、自分の子として育てようねって宣言されちゃってるんだけど」
水咲が恋愛結婚憧憬症候群にならなかったのは、ならなかったんじゃなくてなれなかったんだ。現実があまりにも冷たい未来しかなくて夢なんて持てなかった。
それに現実の孔一くんが好きだからこそ、夢なんて見る必要がなかったんだ。
それなのに、そんな発言した孔一くんが水咲に恋愛結婚憧憬症候群を起こすなんておかしい。
しかも初日にブザーを鳴らしちゃうなんて。
「こんなの!」
車いすから落ちそうなほど身を乗り出して、一河が水咲のブレスレットを掴んだ。
「こんなブレスレット、不良品じゃないか! 水咲ちゃんは、水咲ちゃんは!」
――お見合いが始まってからずっと、きずついていたんじゃないのか。
自分の足のけがのことで、からかわれたり馬鹿にされたり、酷い噂を聞こえるように囁かれても一河は怒らない。怒るのはいつも、友達のため。
そんな優しい彼が、今にも泣き出しそうな顔で、自分のブレスレットも強く握った。
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