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二、俺の話を聞けイエーイ
二、俺の話を聞けイエーイ ⑭
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『流伽ちゃん?』
「そうだよ。今、大丈夫?」
尋ねると、重たいため息を吐く。
『仲人さんに連絡してないでしょ? お見合い中に親にも仲人にも連絡しないで二人でいなくなっちゃったら警察が出動しても知らないんだから』
「うそ。ごめん。そっか、今はブレスレットもしてなかったんだ」
『俺の家に二人とも泊めてることにしといたから。うちなら、仲人さんも無理に入ってこれないよ』
「……本当にごめんね」
謝りたくない、恋愛結婚がしたい、強制的な結婚が許せない、一慶さんは嫌いじゃないけどお見合いでは嫌だ。そんな色んな感情が頭の中を走り回っている。
だからと言って、親にも行先を言わずに飛び出したのは、駄目だった。
「私、どうしても孔一くんが許せない」
『突き飛ばしたのは?』
「……それは悪かったです」
もう一度、一河は溜息を吐く。それは面倒くさいなってかんじじゃない。
仕方ないなあって折れてくれた感じだ。
『今日はどこにいるの?』
「一慶さんの下宿先。あのね、」
一慶さん以外もハムスターに見えちゃうの、と言おうとしたが、遮られた。
『分かった。母さんに言って上手く仲人さんたちを説得する。でも明日はちゃんと戻って来るんだよ』
「一河……本当に一河って良い人すぎる。ありがとう」
『お礼を言う相手は俺じゃないよ。流伽ちゃんのために何もかも捨て去る覚悟で連れ出してくれた一慶さんに一番感謝しないと』
「一慶さん?」
『指名できるってこと、それまで努力してきた、結果が出てる人だよ。その人が流伽ちゃんを選んで、他よりなにより大切にしてくれてるんだ。外見じゃない。一慶さんの心は素敵でしょ』
電話したまま、一慶さんの方を振り向く。
ジャンガリアンハムスター数匹と玉ねぎを剥きながら泣いている、唯一のゴールデンハムスター。
玉ねぎの上で、玉乗りしているようにしか見えないのに器用に泣きながら切っている彼。
確かに見た目はハムスターだ。
でもそれは、私が彼の職業を聞いて少女漫画に程遠い人だと思ってしまったための、恋愛結婚憧憬症候群のせい。
本当の彼は、ちょっとマッチョで暑苦しいマッチョ数人で玉ねぎを泣きながら切っている。
これが現実の彼で。
「えっと……つまり私はお見合いする前から見た目を勝手に想像して避けてしまっただけで」
『うん。この数日、ルームシャアした感じは?』
「めちゃくちゃに良い人だった。下着姿でうろつかなければ」
『だよね。良い人オーラしかない。あと流伽ちゃん好き好きオーラしかない。素敵な人だと思うよ』
だから俺は、流伽ちゃんと一慶さんのためなら、協力したいなって思うよ。
一河は優しい声で、世界一やさしい言葉で、私たち二人を見守ってくれていた。
電話を切ると、ハムスターを吹っ飛ばしながら一慶さんが駆け寄ってくる。
「どうだった?」
「うん。一慶さんを大切にしてねって。私もそう思う」
一慶さんは、しばらく目をパチパチさせていたがすぐに左右に走り出した。
ハムスターがパニックを起こして走り回っているようにしか見えないけど、一慶さんはちゃんと私を思ってくれている一人の男性なんだなって改めて思う。
「えっと、一河がね。仲人さんとかうちの親をうまく言っておくって。あの、一慶さんはブレスレットしてないの?」
「あ、うん。俺は免除なんだよね。色々と」
言葉を濁した後、『もう俺たちでカレー作るから、流伽は宿題でもしてていいよ』と椅子に座るのを促してくれた。
でも座ったテーブルの上には、プロテインとかなぜかライトとかあとは……水着姿のグラビアの女性の雑誌と乱雑している。
「うわー! だれだ! こんなところにこんな不埒な雑誌を!」
「一慶さんです」
「一慶」
「一慶」
「ぬーわー。違うんだ。俺は、この雑誌のよくわからん日常コラムって連載が」
……一河、目の前の一慶さんはやはり、私の理想とはだいぶ、違う人なんじゃないかなって思います。
「そうだよ。今、大丈夫?」
尋ねると、重たいため息を吐く。
『仲人さんに連絡してないでしょ? お見合い中に親にも仲人にも連絡しないで二人でいなくなっちゃったら警察が出動しても知らないんだから』
「うそ。ごめん。そっか、今はブレスレットもしてなかったんだ」
『俺の家に二人とも泊めてることにしといたから。うちなら、仲人さんも無理に入ってこれないよ』
「……本当にごめんね」
謝りたくない、恋愛結婚がしたい、強制的な結婚が許せない、一慶さんは嫌いじゃないけどお見合いでは嫌だ。そんな色んな感情が頭の中を走り回っている。
だからと言って、親にも行先を言わずに飛び出したのは、駄目だった。
「私、どうしても孔一くんが許せない」
『突き飛ばしたのは?』
「……それは悪かったです」
もう一度、一河は溜息を吐く。それは面倒くさいなってかんじじゃない。
仕方ないなあって折れてくれた感じだ。
『今日はどこにいるの?』
「一慶さんの下宿先。あのね、」
一慶さん以外もハムスターに見えちゃうの、と言おうとしたが、遮られた。
『分かった。母さんに言って上手く仲人さんたちを説得する。でも明日はちゃんと戻って来るんだよ』
「一河……本当に一河って良い人すぎる。ありがとう」
『お礼を言う相手は俺じゃないよ。流伽ちゃんのために何もかも捨て去る覚悟で連れ出してくれた一慶さんに一番感謝しないと』
「一慶さん?」
『指名できるってこと、それまで努力してきた、結果が出てる人だよ。その人が流伽ちゃんを選んで、他よりなにより大切にしてくれてるんだ。外見じゃない。一慶さんの心は素敵でしょ』
電話したまま、一慶さんの方を振り向く。
ジャンガリアンハムスター数匹と玉ねぎを剥きながら泣いている、唯一のゴールデンハムスター。
玉ねぎの上で、玉乗りしているようにしか見えないのに器用に泣きながら切っている彼。
確かに見た目はハムスターだ。
でもそれは、私が彼の職業を聞いて少女漫画に程遠い人だと思ってしまったための、恋愛結婚憧憬症候群のせい。
本当の彼は、ちょっとマッチョで暑苦しいマッチョ数人で玉ねぎを泣きながら切っている。
これが現実の彼で。
「えっと……つまり私はお見合いする前から見た目を勝手に想像して避けてしまっただけで」
『うん。この数日、ルームシャアした感じは?』
「めちゃくちゃに良い人だった。下着姿でうろつかなければ」
『だよね。良い人オーラしかない。あと流伽ちゃん好き好きオーラしかない。素敵な人だと思うよ』
だから俺は、流伽ちゃんと一慶さんのためなら、協力したいなって思うよ。
一河は優しい声で、世界一やさしい言葉で、私たち二人を見守ってくれていた。
電話を切ると、ハムスターを吹っ飛ばしながら一慶さんが駆け寄ってくる。
「どうだった?」
「うん。一慶さんを大切にしてねって。私もそう思う」
一慶さんは、しばらく目をパチパチさせていたがすぐに左右に走り出した。
ハムスターがパニックを起こして走り回っているようにしか見えないけど、一慶さんはちゃんと私を思ってくれている一人の男性なんだなって改めて思う。
「えっと、一河がね。仲人さんとかうちの親をうまく言っておくって。あの、一慶さんはブレスレットしてないの?」
「あ、うん。俺は免除なんだよね。色々と」
言葉を濁した後、『もう俺たちでカレー作るから、流伽は宿題でもしてていいよ』と椅子に座るのを促してくれた。
でも座ったテーブルの上には、プロテインとかなぜかライトとかあとは……水着姿のグラビアの女性の雑誌と乱雑している。
「うわー! だれだ! こんなところにこんな不埒な雑誌を!」
「一慶さんです」
「一慶」
「一慶」
「ぬーわー。違うんだ。俺は、この雑誌のよくわからん日常コラムって連載が」
……一河、目の前の一慶さんはやはり、私の理想とはだいぶ、違う人なんじゃないかなって思います。
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