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二、俺の話を聞けイエーイ

二、俺の話を聞けイエーイ ⑫

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体重を右にかけ、左にかけとハンドルを回しながらハムスターは言う。

「俺、自分に自信がない。だから、お見合い制度で流伽に近づいた。だが、国の法律も補助金もいらねえ。一旦、お見合いを解除してから口説いていい?」

「えっと……いいの? でも絶対に一慶さんを好きになるかは分からないし」

「もちろん。あと俺は暴力はするのもされるのも絶対に許せないから、そこだけは流伽が今回みたいに何かあったら話し合う。それ以外は好きになってもらうように、俺、頑張るよ」

お見合いをしなくても、お見合いをしても流伽を選ぶからさ。

一慶さんは、ごちゃごちゃした法律の中、ただ一つゆるがないものを持っている。

彼だけは芯を持った男の中の男。

優しくて、性格もよくて、テンションは少しついていけないけど、実は色々考えてくれているんだ。

嫌なことばかりではない。

一河の車椅子だって補助金は出てるし、良いことも少なからずある。

でも私たちはお見合いと、早めの出産と子だくさんの方が国に褒められて、国から評価される今の現状は、きっとおかしくて、どこか狂っていたんだ。


ハムスターの運転で連れていかれたのは、吾妻プロレスの事務所の隣にある三階建ての大きな家だった。

 私はそこの横にある倉庫のような大きな道場が気になったが、大きな声やぶつかりあう音に、すぐに視線を逸らした。

「おう、どうした?」

「お見合いから逃げてきた。今日はお見合いセンターに戻らないと決めた」

「ほお」

白髪の年配の男性。真っ白な髪と正反対に、私のお父さんの太腿ぐらいありそうな腕。

タンクトップからはみ出る筋肉。優しそうな顔なのに、にこっと笑うと前歯が金色で首から胸にかけて大きな傷がある、驚いた。

「こちら、俺の惚れた流伽。で、こっちが本当の父のようにお世話になってる師匠。師匠の家の三階に住み込んでるんだ」

「よお。吾妻國光 花も恥じらう76歳。残念ながら既婚者だ。よろしくな」

「あ、はい。えっと立崎流伽です」

「可愛い女の子だ。あっちの道場に行ったらあかんで。奴らが鼻の下を伸ばしちまう」

「はあ」

「今、カレー作ってたから、ちょっとだけ手伝ってもらっていいかい? お前はブログを書け。お見合い始めてから止まってるぞ」

私には優しい声なのに、一慶さんには鬼の形相で睨みつけると、玉ねぎとジャガイモが入った段ボールを二つ軽々持ってキッチンへ案内してくれた。

「ブログって」

「あいつは顔でファンもついとるから、写真付きのブログもファンクラブ会員サービスでさせてるんよ。うちに所属してる40人のプロレスラーもほのSNSは仕事としてやらせてるよ」


「へえ。大変なんですねえ」

「色々規制されて大変な時期もあったからねえ。君みたいな女の子はテレビでプロレスを見たこともないだろう」

「確かに」

 にこやかに話してくれているが、キッチンは意外と綺麗だったのだけど年季が入った大きな鍋が四個コンロの上に置かれている。

 給食センターで見学したときに見たような業務用の大きな鍋だ。

 これを今から四鍋ぶん、カレーを作るの?

 渡されたエプロンを着て、人参とじゃがいもを持っていたときだ。

ハムスターがズサーっと台所に入ってきた。

「へっへへ。流伽のエプロン姿盗撮―」

「あ、変態ハムスターっ」

「あとは匂わせ写真っと」

 匂わせ?

 ハムスターは自分より大きな携帯を器用に背中に乗せて、私の角度を確認する。

 そして撮った写真は『今日はカレー』と短い文と共にブログに。

「カレーの匂わせ?」

「違うよ。カレーの写真と見せかけて、写真の端っこにスカートの裾を映してんの。『お、一慶、彼女いるんじゃん』ってわざとちらつかせてみてる人に気づかせるの」

「へえ」

そんなわざとらしいことして楽しいの?

平均年齢16ちょっとで結婚する私たちには、結婚相手を見せるのって別に普通なんじゃ。

「ばかもん!」

「そいつがルパンじゃあ!」

「さらにばかもん! お前は独身な部分もあってファンがおるじゃろうが!」

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