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二、俺の話を聞けイエーイ

二、俺の話を聞けイエーイ ⑦

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 全力で私を心配してくれる熱いハムスター。

 彼がプロレスラーとして人気なのが、分かる気がする。

 どんな辛い状況でも、彼なら明るく突破してしまいそうな朗らかさがある。

「そう? もし流伽が嫌じゃないなら俺、一緒のベットで悪夢を退治するけど」

「あはは、それが一番嫌―。婚前前に男女が一緒のベットで寝るとか不潔不潔。さ、手を洗ってくださいねー。コンソメスープが冷めちゃいますよ」

「お、おおう。流石、俺の流伽だぜ。って思うけどなぜか涙が出そうだ」

 一慶さんの複雑な気持ちは理解できないのでそっとしとくとして、さっさとご飯を盛りつけよう。見栄えのいいコンソメスープと、おいしそうに見えるカツカレーの盛り付けは検索済みだ。

「流伽―、手を洗ったよー」

「じゃあ座っててください。今日は昨日の残りだから手作りってわけじゃなくて申し訳ないけどー」

「ふ。流伽が触った料理は全て、手作りだよ」

一慶さんはテーブルに寝そべり、頬杖つきながら私がカレーをつぐ姿を眺めている。

だらけきったチーズみたいなハムスターにしか見えないけど、嬉しそうなのは伝わってきた。

「そのエプロン、俺じゃなくて流伽がつけた方が天使」


 勝手に借りてしまったエプロンは、白のフリルが満載で確かに女性の方が似合うかもしれない。

 でも丁寧な刺繍とか生地とか、いろいろこだわっていて綺麗で高級そうなこのエプロンは私には似合わない気がする。

 私ならピンクとかキャラクターものとか、子どもっぽいのが似合う気が。

「これ、家が無くなるときに唯一持ち出せたものなんだよね。母親の形見はいいよって。後のモノは思い出したら行けないし忘れた方がいいからって全部消えたし」

「ええええ。お母さんの形見なの? ごめんなさい」

そんな大切なものを勝手に着てしまったんだ。

 すぐに脱ごうとしたけど、首を振られた。

「いいよ。俺が生まれてすぐに亡くなったらしくて、写真でしか見たことがない人だし。流伽が着てくれた方が俺は嬉しい」

「……一慶さんってとても苦労されてるのに、尖ってないし優しいし。一慶さんの方が天使なんじゃないでしょうか」

 温めたスープをテーブルに置きながら素直な気持ちを伝えたのに、テーブルの上で突っ伏して死んでいた。

「一慶さん!?」

「……し、死ぬ。幸せすぎて……ううっ」

「俺、あの家を出るとき、そのエプロンぐらいしか持って出れなくて、全部忘れて前を向いて歩かなきゃいけなくなって。でも助けてくれた流伽だけは忘れたくなかったから、――その」

言いにくそうにスープから顔をあげ、頬袋の中からスープを押し出している。

その姿は、犬のチャウチャウみたい。

「その?」

「女性ファンには、きっと態度が悪かったんじゃないかなって申し訳なくなる」

「ああ、一慶さんて律儀そう」

「でも! 流伽が好きだし! 流伽がいいし! 流伽以外見れるほど心も広くなかったんだよ!」

 声も大きい。目の前にいる私にそんな大きな声でアピールしなくてもいいのに。

「じゃあ、試合中の一慶さんに惚れてしまった女性は、まったく一慶さんに振り向いてもらえなかったと」

「ああ。でも例え、俺が百人いても百人とも流伽を選ぶし」

百人の一慶さんを相手にしたら、私は一日で過労死しそうだけど。

「そこまで一慶さんが悩まなくていいですよ。女性ファンは、試合中の雄姿さえみれたら、きっと満足ですよ」

「そうかな。でも受け入れられない分、試合で返していこうとは思うよ」

トボトボとテーブルの上を歩いていくので、首を傾げる。

「どうしたの?」

「スープ、おかわりしようと」

「それぐらい、私がしますから。座っててください」

もう飲む終わっていたことも驚いたが、言えば私が継いだのに。

「る、流伽ああああああ! 好きだ!!!! 君のお味噌汁が毎日飲みたい!」

「これ、コンソメスープでっす」

このテンションにもはやく慣れてしまいたいものだ。

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