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一、 ルームシェア
一、 ルームシェア ⑩
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「嘘なの?」
「徐々に知っていきまっしょい。まずは俺の背中の黒子の数からでも……」
「だからハムスターだから見えないってば……あ、これ黒子?」
背中の茶色のぶち模様の中に黒い点が!
ハムスターにも黒子があるの!?
「触る? ハムスター触っちゃう?」
「触りたいけど……実際はハムスターじゃなくて筋肉マッチョの18歳だからなあ」
なんかうまく誤魔化された気もするけど、話したくないんじゃないかなって気持ちを読み取るとすれば聞きにくい。
徐々に聞かないとヘビーな内容なのかもしれない。
仕方なく、話を逸らした彼の行動に乗ってあげることにした。
ツンっと人差し指で触る。
「今、実際はどこに触ったの?」
「今は背中」
「ここは?」
耳の後ろを触ると「流石、流伽。そこは急所の首の後ろだ!」と褒められた。
「急所は体の中心に沿って存在していて――」
「いや、そんな雑学いらない。それより、こう、ダイエットに効く簡単なトレーニングとか教えてほしいな」
「ダイエットには、サウナスーツ着て、水飲みながらひたすら走る。一日50キロ走れば大体――」
それダイエットじゃなくて修業なみだ。
一慶さんにはきつくないのかもしれないけど、私は次の朝起きれないぐらいきつそうだ。
一緒にお皿を洗い、漫画の感想を言いあい、お見合いって言うより友達みたいな雰囲気のまま一慶さんは「夜更かしは筋肉の敵だから」と22時すぎにはごそごそとシャワーを浴びてしまった。
「お風呂洗っておいたよー」
「一慶さん、足、足!」
ペタペタと歩いてくるハムスターの後ろに濡れた足跡が。
これはなぜか等身大の大きさで見えた。私の顔より大きい。
ハムスターが歩くたびに大きな足跡が浮かぶのはシュールだ。
「一慶さんって足、でかいです。30センチはありあそう」
「28だよー。なかなか良い靴がないんだよねえ。28センチってだけで機能さえよければ見つけ次第買っちゃう」
「じゃない。駄目じゃないですか。ちゃんと拭いてから出てきてください」
脱衣所のクローゼットを漁って一番下の戸棚から雑巾を見つけて、廊下を拭く。
「一慶さんは動かないでくださいね」
「え、うん」
足跡を拭いてから、目の前に足ふきマットを置く。
「はい。このうえで良く拭いて。水滴が落ちなくなるまで動いたら駄目ですよ」
「……結婚したい」
「一慶さん」
雑巾を洗って干す場所がないかうろうろしていたら、ぼーっとして拭こうとしない一慶さんがマットの上で立っている。
ハムスターなんだからマットの上で転がればすぐ乾くだろう。
私が睨むと急いでタオルで体を拭きだした。あわてふためくハムスターの姿はやはり文句なしで可愛い。
「なんか一慶さんって大きな子どもみたいですね」
「大きな子どもって。まぁもっと嫌がるかと思ってたからこの反応は嬉しい」
「おまけにポジティブ」
何を言っても嬉しそうな一慶さんに嫌がるはずはない。
寝る前に一緒に軽いストレッチと、常温の水を飲んでから眠った。
家の二段ベッドとは肌触りも違うふわふわな布団。
ギシギシと音を立てて階段を登り、妹と話しながら寝てたのは昨日まで。
リビングから、お父さんが録画していた野球を見ながらビールを飲む騒ぐ声もしない。
眠れず携帯でハムスターでも検索してみた。
「ほうほう。ハムスターは夜行性なのね。夜の間に移動するのか。一慶さんも、お見合い前日に走ってたらしいから本当にハムスターみたい」
クスクス笑いつつも、一慶さんは筋肉に悪いからもう寝たはず。
だから夜行性ではない。
それなのに。
リビングからカタカタカタと何かが回る音に、気づいた。
ええ。怖い。
でも今は、彼は見た目がハムスター。
もし私が何か身の危険を感じれば、腕についているブザーがなる。
そうすれば一階で待機している仲人さんが助けにきてくれるはず。
大丈夫。
大丈夫。
カタカタと聞えてくるのは、私が一慶さんをハムスターに見えてしまうゆえの、幻聴だ。
ハムスターの生態を検索してしまった私が悪い。
恐る恐るリビングを覗くと、彼の部屋から音が聞えて来ていた。
そして私が見たのは、滑車に乗ってカタカタと回るハムスター。
本当の一慶さんはきっと眠れずに筋トレをしているのだと思う。
でも私には滑車を回すハムスターにしか見えず、恐怖は消えた。
恐怖が消えた代わりに、その筋トレの音のせいで寝不足にはなったのだった。
「徐々に知っていきまっしょい。まずは俺の背中の黒子の数からでも……」
「だからハムスターだから見えないってば……あ、これ黒子?」
背中の茶色のぶち模様の中に黒い点が!
ハムスターにも黒子があるの!?
「触る? ハムスター触っちゃう?」
「触りたいけど……実際はハムスターじゃなくて筋肉マッチョの18歳だからなあ」
なんかうまく誤魔化された気もするけど、話したくないんじゃないかなって気持ちを読み取るとすれば聞きにくい。
徐々に聞かないとヘビーな内容なのかもしれない。
仕方なく、話を逸らした彼の行動に乗ってあげることにした。
ツンっと人差し指で触る。
「今、実際はどこに触ったの?」
「今は背中」
「ここは?」
耳の後ろを触ると「流石、流伽。そこは急所の首の後ろだ!」と褒められた。
「急所は体の中心に沿って存在していて――」
「いや、そんな雑学いらない。それより、こう、ダイエットに効く簡単なトレーニングとか教えてほしいな」
「ダイエットには、サウナスーツ着て、水飲みながらひたすら走る。一日50キロ走れば大体――」
それダイエットじゃなくて修業なみだ。
一慶さんにはきつくないのかもしれないけど、私は次の朝起きれないぐらいきつそうだ。
一緒にお皿を洗い、漫画の感想を言いあい、お見合いって言うより友達みたいな雰囲気のまま一慶さんは「夜更かしは筋肉の敵だから」と22時すぎにはごそごそとシャワーを浴びてしまった。
「お風呂洗っておいたよー」
「一慶さん、足、足!」
ペタペタと歩いてくるハムスターの後ろに濡れた足跡が。
これはなぜか等身大の大きさで見えた。私の顔より大きい。
ハムスターが歩くたびに大きな足跡が浮かぶのはシュールだ。
「一慶さんって足、でかいです。30センチはありあそう」
「28だよー。なかなか良い靴がないんだよねえ。28センチってだけで機能さえよければ見つけ次第買っちゃう」
「じゃない。駄目じゃないですか。ちゃんと拭いてから出てきてください」
脱衣所のクローゼットを漁って一番下の戸棚から雑巾を見つけて、廊下を拭く。
「一慶さんは動かないでくださいね」
「え、うん」
足跡を拭いてから、目の前に足ふきマットを置く。
「はい。このうえで良く拭いて。水滴が落ちなくなるまで動いたら駄目ですよ」
「……結婚したい」
「一慶さん」
雑巾を洗って干す場所がないかうろうろしていたら、ぼーっとして拭こうとしない一慶さんがマットの上で立っている。
ハムスターなんだからマットの上で転がればすぐ乾くだろう。
私が睨むと急いでタオルで体を拭きだした。あわてふためくハムスターの姿はやはり文句なしで可愛い。
「なんか一慶さんって大きな子どもみたいですね」
「大きな子どもって。まぁもっと嫌がるかと思ってたからこの反応は嬉しい」
「おまけにポジティブ」
何を言っても嬉しそうな一慶さんに嫌がるはずはない。
寝る前に一緒に軽いストレッチと、常温の水を飲んでから眠った。
家の二段ベッドとは肌触りも違うふわふわな布団。
ギシギシと音を立てて階段を登り、妹と話しながら寝てたのは昨日まで。
リビングから、お父さんが録画していた野球を見ながらビールを飲む騒ぐ声もしない。
眠れず携帯でハムスターでも検索してみた。
「ほうほう。ハムスターは夜行性なのね。夜の間に移動するのか。一慶さんも、お見合い前日に走ってたらしいから本当にハムスターみたい」
クスクス笑いつつも、一慶さんは筋肉に悪いからもう寝たはず。
だから夜行性ではない。
それなのに。
リビングからカタカタカタと何かが回る音に、気づいた。
ええ。怖い。
でも今は、彼は見た目がハムスター。
もし私が何か身の危険を感じれば、腕についているブザーがなる。
そうすれば一階で待機している仲人さんが助けにきてくれるはず。
大丈夫。
大丈夫。
カタカタと聞えてくるのは、私が一慶さんをハムスターに見えてしまうゆえの、幻聴だ。
ハムスターの生態を検索してしまった私が悪い。
恐る恐るリビングを覗くと、彼の部屋から音が聞えて来ていた。
そして私が見たのは、滑車に乗ってカタカタと回るハムスター。
本当の一慶さんはきっと眠れずに筋トレをしているのだと思う。
でも私には滑車を回すハムスターにしか見えず、恐怖は消えた。
恐怖が消えた代わりに、その筋トレの音のせいで寝不足にはなったのだった。
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