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一、 ルームシェア

一、 ルームシェア ⑧

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ハムスターがカレー皿に沢山白ご飯を入れている。

いや、正確には私にしかハムスターとして見えていないから、普通の男性がしゃもじをみっているだけの光景。

私にだけ異様に見えているのだけど、ちょっと面白い。

「あ、5合しか炊いてない。流伽は1回の食事で何合食べる?」

「えええ? その質問、いろいろおかしいよ。私は自分でする」

しゃもじをもらい、カレー皿の半分にご飯をのせると「可愛い」と一慶さんはつぶやく。

「そんな、……そんなの3キロ走ったら消費されてしまいそうなご飯で足りるとか、可愛いかよ。結婚したい」

「エンゲル数が低いから?」

「違う! ……可愛いから」

くねくねしたハムスターの動きに首を傾げつつ、カレールーを乗せる。

玉ねぎは確かに原型は残っていないが、ジャガイモも人参も大きくてゴロゴロしている。

男らしいカレーだ。

「お代わり沢山あるから」

「ありがとうございます。次は私が作りますね。何が食べたいですか。……あ」

そういえば、今日の調理実習でクッキーを作ったのだった。

水咲が元気がなくて、水咲の分までもらってきちゃったんだ。

しかも先生から「お見合い相手に渡しなさい」と私も一河も促されていた。

水咲は渡さないと拒否していて、強制ではなかったようだったけど。

週に2回ある調理実習は別に珍しい授業ではないので完全に忘れていたな。

「なにー?」

「学校の授業でクッキー作ったんで、あとで食べてください」

カバンの更に奥から取り出すと、ハムスターは30センチぐらい飛び上がった。

「食べたい! あ、待って『クッキー 永久保存』で検索検索」

「クッキーぐらい何回も作ってあげますってば」
「幸せだなあ。こんなに幸せで俺、罰があたらないかな」

「ハムスターに見えてしまってるのは罰じゃないですか?」

「うーん。俺的には最初、怖がられるだろうなってビクビクしてたから、ハムスターに見られて良かったんじゃないかなって思うことにしたよ」

「なるほど」

一慶さんは何でもポジティブに考えて、その場その場で全力で楽しもうとしている。

やはり少し、子どもっぽい感じがする。

悪い人ではないと伝わるので、無下にはできないけど。

「そうだ。先輩にサインを頼まれたんだけど」

カバンから色紙を取り出すと、一慶さんはひっくり返ってお腹を出して笑い出した。

「本当に教科書が入ってなさすぎる」

漫画と色紙とクッキー。

筆箱はちゃんとはいってるのに、一慶さんにはツボだったらしい。

カレーを一口食べては、クスクス笑っている。

「……成績はちゃんと中の下ぐらいですからね」

「ぶっ」

「クッキー、あげないことにします」

自分で食べてしまおうとカバンに仕舞うと、一慶さんから断末魔のような叫びが聞こえてきた。

そこまで叫ぶことでもないと思う。

その後、一慶さんはカレーを三杯食べてお腹いっぱいになったかと思えば、ハムスターのつぶらな瞳でクッキーをおねだりしてきた。

「ご馳走様です。私はお腹いっぱいなので全部どうぞ」

「ひゃっほーっ」

クッキーの袋の中に頭から突っ込むと、頬袋いっぱいに入ってしまった。

色紙は、事務所に許可をもらうから待っていてほしいらしい。

「一慶さんって人気者なんですね」

「俺が? 俺って言うかキャラかな。話題性狙いだからねえ」

花の形にくり抜いたクッキーを写メにとっては食べながら、一慶さんは首を傾げる。

自分が人気の自覚はないらしい。

「でも試合のチケットが全く取れないって聞きましたよ」

「濃いファンが多いからね。でもファンクラブに入ってる人にはほぼ行き渡ると思うけど」

「私も見てみたいです。ファンクラブのホームページ教えてください」

携帯を取り出し彼の方を見ると、クッキーを両手に持ったまま固まっていた。

「おーい?」

ひらひらと手をかざすが、反応はない。

「まあいいや。自分で検索しよう。吾妻団体っと」

「……いや、関係者席でいいならすぐに準備できると思う。お見合い相手だし」

けれど、手に持っていたクッキーがぽろりと地面に落ちた。

「ただ、君に見られるのは……どう反応したらいいんだろう」
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