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立崎 流伽の場合。

立崎 流伽の場合。⑧

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「ええ!? ハムスター? 名前が?」

「あ、っと。私にはハムスターに見えるの。彼が」

「そうなんだ。流伽ちゃんも恋愛結婚憧憬症候群なんだね」

同じだ―っと一河はへらりと笑った後、なぜか再び空を見上げた。

いや違う。一河は人の目を見て話す律儀な男だ。

一河は、花巻さんと目を見て会話しているらしい。

私には足元のハムスターしか見えないのに、彼は等身大の花巻さんを見つめている。

「初めまして。流伽ちゃんの幼馴染の凛口一河です。えっと花巻さんは」

「俺は花巻一慶、花の十八歳。吾妻プロレスの紺碧の王子様ってキャラで活動してます」

「あー、確かに紺碧の王子様だ」

確かに!?

このハムスターのどこが紺碧なの?

「すいません。俺、去年までサッカー馬鹿だったからほかのスポーツに疎くて」

「大丈夫。プロレスは今、地上波ではほぼ放送されてないから、ファン以外には俺が誰か分からないよ。君もお見合いしてきたの?」

「はい。すっごく緊張して、緊張しすぎて相手が直視できなかったんです」

「わーかーるー」

嘘。このハムスター、マットの上でブリッジしながら私を待ってたじゃない。

「あのう、今からうちの親が迎えに来るんですが、花巻さんも一緒に帰ります?」

「いや、俺は流伽のお見送り。車の横を限界まで走ってついていく」

「やめてください!」

ハムスターが車と同じ速度で走るとか、コントにしか見えない。

大体、相手が小動物に見える時点でお見合いが成功していないんだから、一緒に帰れるわけじゃない。

「流伽が嫌がるから、花弁を巻くだけにしとく」

「それも嫌です」

 いい加減にしろっと睨むと、くねくねとハムスターが嬉しそうに踊る。

 それがホラーにしか見えなかった。

「あ、やっべ。お見合い成功しなかったら、事務所に戻って来いって言われてたんだった。じゃあ、流伽、明日な」

「明日って、本当にルームシェアするんですか」

 少しはこの制度に疑問を持ってくれてもいいのに。

 でもまともな会話らしい会話はできず、既にハムスターは校門から出て、向こう側の信号まで渡り切っていた。

「流伽―! 明日なー!」

「……聞いちゃいない」

「流伽―! 今日は君の名前を叫びながら事務所まで走って帰るっ」


「普通に帰って! お願いだから無言で帰ってください!」

 人の話なんて全く聞いてくれないハムスターは、気づけばもう小さくなって消えて行った。

 ロケットのように走り去って、嵐のように私の心を荒らしていってしまった。

「なんか、花巻さん、イケメンなのに面白かったね」

「ええええ、イケメンなの!?」

「俺より格好いいとおもうよ。フンって力をこめたら服が漫画みたいに破けそうだった」

 それって筋肉マッチョなんじゃないの?

 男と女ではイケメンのイメージがまず違うってこと?

「流伽ちゃん、大変なんだ」

「なに?」

一河は細い目を、もじもじと動かす指先に落として、耳まで真っ赤にしたのち、私の顔を見上げた。

「俺、お見合い相手が人魚に見えた」

「……えええ?」

 人魚?

「しかも、人外や物語に出てくるキャラクターに見える場合、重症らしいんだ」
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