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立崎 流伽の場合。
立崎 流伽の場合。⑤
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つまり。
ハムスターに見える彼を、ハムスターとして認識しつつも、いい場所をみつけて、自分の力で見えるようにしないといけないってこと?
魔法は?
何か呪文や魔法や特効薬はないの?
「仲人さん、俺は彼女がハムスターの姿の俺でもいいと言ってくれるなら、真実の姿は見えなくてもいいです」
ハムスターがたぶん立ち上がったのだと思う。とてとてと二足歩行で仲人さんに近づき、見上げている。
「逆に現実の俺を知らなくてもいい。ハムスターとしてペットみたいな存在でもいい。形や名前はいらないから、そばに居られるならなんでもいいです」
そして、私をじっと見る。どんな表情でどんな感情なのか私には映らないのに必死で私の目を見上げてきた。
「俺には、流伽が流伽に見えるよ」
「え?」
「俺を助けてくれた、小さな可愛い女の子が――こんなに素敵になってるとは……俺、死ななくて良かったなって」
俺を助けてくれた?
花巻一慶?
死ななくて良かった?
すべての言葉を並べても、私には何一つ真実が見えてこなかった。
「流伽の理想の王子様になれなかったのは残念だったけど、でも俺は流伽がいい。我儘でごめんな」
気障ったらしいハムスターは、ははっと力なく笑うと、トボトボ体育倉庫から出て行こうとする。
「あら、どこに行くの?」
「ちょっと涙が乾くまで走ってこようかなって。こんなに馬子にも衣装みたいな、似合わない服も着替えたいしセットした髪も恥ずかしいし」
「……そう。ちょっと待ってね。うん」
仲人さんは、呆然とする私と意気消沈な彼を見て、顎を指先で何度もなぞる。
真っ赤に塗られた爪を見つめながら、仲人の決断を待つしかない。
私には全裸のハムスターが丸く縮こまってるように見えるが、彼なりにオシャレにしてくれていたのはちょっと申し訳ない。
必死でハムスターを見ると、王冠が消えネクタイが代わりに首に下がった。
「じゃあ、お互いを知るためにルームシェアしましょうよ」
「……ルーム」
「フェア?」
「フェアじゃないわよ。シェア」
ボケたハムスターに、仲人さんが容赦なく突っ込むと、スーツの内ポケットからパンフレットを取り出した。
「お見合いセンターの施設内に、お互いが恋愛結婚憧憬症候群で人間に見えない人達用のリハビリ室があるの。そこで同棲……とまではいかないけどルームシェアしましょう」
お見合いセンター内で、ハムスターとルームシェア。
ハムスターとはいえ、相手はお見合い相手で、私を指名してきて尚且つ私を知っている人。
そしてパイプ椅子を振り回したり、血が出るまで殴ったりするプロレスラー。これは偏見かもしれないが私の勝手な先入観では、野蛮で大男で怖い人。
「む、無理です、無理です、無理です」
「あら、お見合いセンターの、恋愛結婚憧憬症候群の方のリハビリ施設は一流ホテル並みに全てが豪華よ。しかも特殊な壁でできているから、腕に付けているブザーは響くけど他は防音でブライバシーは完全に守れるのよ」
「よろしくお願いします!」
即答したのは私ではなく、ハムスター。
いや、ハムスターではなく花巻さんだっけ?
彼は乗り気なのか、小さな尻尾を小刻みに動かしている。
「私は絶対に」
いや、と言うはずがハムスターが先に行った言葉に、躊躇ってしまった。
「俺、ずっと施設とか師匠の家とか学生寮とか点々としてたから、家族っていう集まりにすげえ憧れがあって。うわあ、家に帰ったら、流伽が居るのかあ。やばい、ちょっと泣きそう」
ハムスターに見える彼を、ハムスターとして認識しつつも、いい場所をみつけて、自分の力で見えるようにしないといけないってこと?
魔法は?
何か呪文や魔法や特効薬はないの?
「仲人さん、俺は彼女がハムスターの姿の俺でもいいと言ってくれるなら、真実の姿は見えなくてもいいです」
ハムスターがたぶん立ち上がったのだと思う。とてとてと二足歩行で仲人さんに近づき、見上げている。
「逆に現実の俺を知らなくてもいい。ハムスターとしてペットみたいな存在でもいい。形や名前はいらないから、そばに居られるならなんでもいいです」
そして、私をじっと見る。どんな表情でどんな感情なのか私には映らないのに必死で私の目を見上げてきた。
「俺には、流伽が流伽に見えるよ」
「え?」
「俺を助けてくれた、小さな可愛い女の子が――こんなに素敵になってるとは……俺、死ななくて良かったなって」
俺を助けてくれた?
花巻一慶?
死ななくて良かった?
すべての言葉を並べても、私には何一つ真実が見えてこなかった。
「流伽の理想の王子様になれなかったのは残念だったけど、でも俺は流伽がいい。我儘でごめんな」
気障ったらしいハムスターは、ははっと力なく笑うと、トボトボ体育倉庫から出て行こうとする。
「あら、どこに行くの?」
「ちょっと涙が乾くまで走ってこようかなって。こんなに馬子にも衣装みたいな、似合わない服も着替えたいしセットした髪も恥ずかしいし」
「……そう。ちょっと待ってね。うん」
仲人さんは、呆然とする私と意気消沈な彼を見て、顎を指先で何度もなぞる。
真っ赤に塗られた爪を見つめながら、仲人の決断を待つしかない。
私には全裸のハムスターが丸く縮こまってるように見えるが、彼なりにオシャレにしてくれていたのはちょっと申し訳ない。
必死でハムスターを見ると、王冠が消えネクタイが代わりに首に下がった。
「じゃあ、お互いを知るためにルームシェアしましょうよ」
「……ルーム」
「フェア?」
「フェアじゃないわよ。シェア」
ボケたハムスターに、仲人さんが容赦なく突っ込むと、スーツの内ポケットからパンフレットを取り出した。
「お見合いセンターの施設内に、お互いが恋愛結婚憧憬症候群で人間に見えない人達用のリハビリ室があるの。そこで同棲……とまではいかないけどルームシェアしましょう」
お見合いセンター内で、ハムスターとルームシェア。
ハムスターとはいえ、相手はお見合い相手で、私を指名してきて尚且つ私を知っている人。
そしてパイプ椅子を振り回したり、血が出るまで殴ったりするプロレスラー。これは偏見かもしれないが私の勝手な先入観では、野蛮で大男で怖い人。
「む、無理です、無理です、無理です」
「あら、お見合いセンターの、恋愛結婚憧憬症候群の方のリハビリ施設は一流ホテル並みに全てが豪華よ。しかも特殊な壁でできているから、腕に付けているブザーは響くけど他は防音でブライバシーは完全に守れるのよ」
「よろしくお願いします!」
即答したのは私ではなく、ハムスター。
いや、ハムスターではなく花巻さんだっけ?
彼は乗り気なのか、小さな尻尾を小刻みに動かしている。
「私は絶対に」
いや、と言うはずがハムスターが先に行った言葉に、躊躇ってしまった。
「俺、ずっと施設とか師匠の家とか学生寮とか点々としてたから、家族っていう集まりにすげえ憧れがあって。うわあ、家に帰ったら、流伽が居るのかあ。やばい、ちょっと泣きそう」
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