神様のうそ、食べた。

篠原愛紀

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五  届け

五  届け 八

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「貴女も明美先生も、我が子のように指導しますね。皆さん、私の子供ですよ」


クスクスと百合の花のように可憐に笑う。

そんな園長先生に勇気を頂いて、心が暖まった瞬間だった。




長閑な教会の入り口に、バタバタと慌ただしい足音が響いたかと思ったら、突然ドアが開かれた。



木漏れ日が差し込むドアには、息を切らした明美先生が前屈みになって真っ青で叫ぶ。


「あ、あり、有沢さんと真くんのお父さんが喧嘩ですっ」




それは私と園長先生の暖かい雰囲気をぶち壊すほどの衝撃だった。
「真くんっ!?」


靴箱の前で踞って泣く真くんを、先生たち数人が心配そうに囲んでいた。

私が名前を呼ぶとぐしゃぐしゃな顔を上げた。



「みなみせんせいっ」


「どうしたの!? 大丈夫!?」

明美先生が泣き出したので、状況も分からないまま駆け付けたけれど、部長と有沢さんの姿はない。



――お残りさんが少ない遠足前で良かったなと心から思った。



「えほんやさん、きらい。きらい。きらい!」


うわぁぁぁぁん、と泣き出す真くんに先生たちも困惑している。



「有沢さんが笑顔で真くんに何か言ったんだけどね、途端に真くんが泣き出してしまって……。タイミングよく来た真くんのパパが、有沢さんを車まで引きずっていって」

宮本先生が真くんに聞こえないようにこそこそと私に耳打ちする。



「――駐車場の方で有沢さんが殴られてるのが見えました」


駐車場には、園長先生が向かわれたはず。

気になるけど、父親の暴力シーンなんて真くんに見せられない。


グッと我慢して、真くんの心のケアを優先することにした。
結局、真くんは有沢さんに何を言われたのかは誰にも言わなかった。

改めて迎えに来た部長を見つけると、抱き締めてわんわん泣き崩れた。


部長は怪我は何一つしていないし落ち着いた様子で真くんを抱き締めると、先生達に一人一人頭を下げてから、静かに帰って行った。



園長先生も、にこやかに『大丈夫ですよ』と笑うのみ。

職員室では明美先生が泣いている。



何がどうなったのか。

いきなり幸せな余韻から現実に引き戻されてしまった。



真くんが心配。


言葉を上手く話せられない二歳さんは、上手に悲しい気持ちを伝えられないかもしれない。


有沢さんの思考回路を一度見てみたい。

簡単に人を傷つける頭の中を。



先生たちは遅れてしまった遠足準備を再開し始め、誰もそれ以上話題に出さなかった。

お残りさんの部屋に戻り、沸々した気持ちをもて余しながら子供たちのおやつの時間を始める。

明美先生が入らないから宮本先生と一緒に。
飛鳥さんの御店から帰ってきた侑哉にその事を伝えたけれど、動揺する事なく落ち着いた様子だった。


「あれ? バイクは?」


「あー……。飛鳥さんに点検して貰ってる」


冷蔵庫から牛乳を取り出すとそのまま一気に飲み干す。


「あんな大型バイクなら手入れ大変そうだもんね」

「そー。飛鳥さんなら信用できるし」


「愛があれば手入れぐらい平気だよね」

愛があれば、とは言ったら侑哉は苦笑いしてスマホを取り出す。


今日は、明日の準備も終わり、ミーティングも済んでへとへとになりながら帰宅したために簡単にカレー。

ばたばた疲れたからカレーとサラダのみだったけど、侑哉は文句も言わずに食べてくれた。

明日……宮本先生が引率で私が補助だけど大丈夫なんだろうか。

「あ、俺、明美の連絡先消したままだった」

「教えようか?」

「大丈夫。LINEもあるし。今来たメールが多分明美っぽい」

……クールな事で。

侑哉は私みたいに自覚しても、じたばたしないし落ち着きが無くなったり、思い出して照れたり、とかないよね。



私も勇気を出して電話……は怖いからメールしてみよう。
メールを送信して10分もせずに電話が鳴った。
またご飯中に、と侑哉が良い顔をしないのでわざわざ2階の部屋まで行く。

『お前、愛の告白はメールじゃなくて電話だろーが』


……本当に部長って人は。

「色々違いますっ てか私は真くんが気になっちゃって」
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