神様のうそ、食べた。

篠原愛紀

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番外編  神様に、ありがとう。

番外編  神様に、ありがとう。

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水樹さんが別府に引っ越してきてから1ヶ月。
引っ越し日からバタバタしてたり、真くんが水樹さんにべったりで離れなかったりして、なかなかゆっくり二人では会えなくて。
今やっと、あの引っ越しの日に水樹さんから貰った鍵を使うときが来た。


合鍵とか! 合鍵とか!! 
なんか恋人みたいで……いや、恋人なんだけど。

きゃー!! 駄目だ! 緊張して鍵が震えてオートロックが開けられない。



「あ、みなみちゃん」


一人じたばたしていると、後ろから真くんの声がした。


「だれ?」

「ぼくのみらいのママだよ」


「ま、真くん!!」


慌てて振り返ると、真くんはポニーテールの、真くんよりちょっぴり年上の女の子と手を繋いで私を見ていた。



「きょうはぼく、もえちゃんのいえにとまるの」


「あれ? そうなの!?」


「そうよ。わたしたちけっこんのやくそくするぐらい、らぶらぶなんだから」


握った手をブンブンと降りながら二人は見つめ合う。


……可愛いな。

癒される。



「じゃあこれ、真くん、もえちゃんと一緒に食べてね」


New Dragonで買ってきたロールケーキを真くんに渡した。
水樹さんのホテルに近いこのマンションは、勿論保育園からも近いわけで。


このマンションから通う子も何人か知っているからヒヤヒヤしながらインターフォンを押す。


誰にも見つかりませんように。見つかりませんように……。


そう祈っていたら、ガチャリとドアが開く。




「いらっしゃい、みなみ」


私の顔を見た途端、甘く蕩ける表情で出迎えてくれたのは水樹さん……。



そんな顔したら、私まで照れてしま……ん?


「部長、その格好」


「ああ、急いで帰ってきたから時間無くてさ」


スーツの上から、深紫色のエプロンをした水樹さんが、ちょっぴり照れ臭げに頭を掻く。



「てか部長になってるぞ」


「あっ」


「……おいで」

パタンッ


ドアを閉めると共に、水樹さんに抱き締められた。



「『水樹さん』だろ?」


「水樹さん……苦しっ……んっ」


軽く唇が重なると、妙な違和感を感じる。

この味は、


「ケチャップの味だ」


「正解。はい、上がって」



やはりスーツにエプロンの水樹さんは違和感があるものの、後ろを着いていくと、ケチャップの正体が分かった。


オムライスだ。
水樹さんは、てっきり実家に住むかと思ったけど『親に甘えすぎたくない』と言う理由からマンションに住んでいる。


水樹さんが後を継ぐ事を宣言したから、水樹さんの母親は引退して真くんの世話をしてくれているらしく、仕事が終わるまでは真くんは以前のままの生活みたい。


ただ来年からは保育園から幼稚園に転入するらしい。




保育園で会えなくなるのは寂しいけれど、保護者と付き合ってるのがバレたら他の保護者の方々に良い印象がないので助かっている。



それに真くんにはこうして、ちょくちょく会えるしね。





「まだ侑哉くんは帰って来ないんだって?」


「はい。殆ど半同棲中です」

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