神様のうそ、食べた。

篠原愛紀

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六  別府⇔小倉

六  別府⇔小倉 一

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途方もなく神さま頼りなのが嫌になるけれど。
真くんの願いが全部全部叶いますように。
純粋な気持ちは、大人になったら真実を知り、夢のように儚くなっても。


どうか、どうか、神さまに祈った今日を思い出せますように。





私も元気を貰えた分、ごしごしと涙を拭いて泣くのを止めよう。
親子遠足での準備したものを片付けして、水族館へ挨拶をした。

それと入れ替わりに、真くんと部長が水族館へやってきたのだけど、イルカも魚のショーも終わっていた。

それなのに真くんはにこにこ嬉しそうに部長の腕にぶら下がっている。


――部長と居れるなら幸せなんだろうな。



旗やら片付けて親子遠足の反省会をして、出前のお寿司を食べてから漸く帰れたのは8時過ぎだった。


明美先生に今日のお礼を伝えようと待っていたら、スマホの点滅に気づいてタッチしてハッとする。




――飛鳥さんからだ!!




「飛鳥さん、すみません!」



『あー、良い良い。もう俺が買いとっといたから』


「え?」


『ちょっと店に来てくれる?』
静かに淡々とそう言うと、電話は切られた。

飛鳥さんはハイテンションというか豪快な人の筈だからあんなに物静かなのはちょっと怖い。


「みなみ先生、お待たせしましたー」


「明美先生」


「侑哉くんのバイト先に行くんですよね? 私も行きます」


にっこり、ふんわりと明美先生は笑った。


あの夜、嫉妬して取り乱した私なんかに向けて。



真っ暗な空を見上げ、チラリと腕時計を確認する。
別府から福岡の小倉までの終電は21時52分。


時刻は20時を過ぎていたけれど、話が長くなってもギリギリで飛び出せば大丈夫。なはず。



「――みなみ先生、私ですね、見たんです」

シートベルトを閉めた明美先生が、落ち着こうと深く溜め息を吐いてから喋り出す。

「?」


「水族館へ今朝行く途中に、中古バイクショップで見たんです」

真っ青な顔でそう言うと、私を見た。






「侑哉くんのバイク」


――え?



「売りに出されてたバイク、侑哉くんのバイクじゃないかなって。珍しい形のバイクだから、気になって。でもさっきまでそれ処じゃなかったから」



中古バイクショップ?


「ドラッグスターってバイクはなかなか中古で良い状態のは売ってないって侑哉くん言ってたんです。やっと見つけたとか」


「……うん。2年バイトしてやっと買ったバイクだよ」


そういえば昨日既にバイクは無かった。

メンテナンスとか言ってたけど、疲れてたし私も深く追求しなかったし。




「侑哉くん……。優しいですよね。優しすぎるから、私なんて同情されてるだけなんじゃって不安になります」


坂を下りながら、ただただひたすらに前を見ている明美先生の顔に一滴の涙が垂れていく。


「でも私、同情されたい、慰めてもらいたいって思ったの。ズルいんです。侑哉くんより強かで嫌な奴です。私」

否定も肯定もする事は出来なかった。
でもやっぱり人間は強かなんだと思う。

私だって、そうだから。
「侑哉が好き?」


赤信号で止まった瞬間、そう聞いてみた。



明美先生は静かに頷いて、みるみるうちに耳まで真っ赤になる。



「この前まで有沢さんって騒いでたのに、勝手すぎだけど」


そう涙目になる明美先生は可愛い。


しょうがないよ。
それに耳まで真っ赤な明美先生の気持ちはうそじゃないって分かるから。

「あの! 橘さんが、有沢さんを殴ったのは多分、……みなみ先生のためです!」

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