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四 あの夜のこと
四 あの夜のこと 八
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こくん。
「でも、詳しくは聞くのが怖くて聞いてません」
頷いてポロポロ涙を流す明美ちゃんにどうしてあげたらいいのか分からない。
あんな爽やかな顔をして、人は見かけによらないっていうのは納得できる!
「その、ご、ゴム使わない方が気持ちいいからって使ってくれなかったの。
に、妊娠とか私、しない……よね」
限界だ。
限界だった。
こっちは出来にくくて苦しめられたのに。
産んでも放置して、その上繰り返すなんて。
「産婦人科には、――いけないよね」
私だって怖くて行けてないし。
危険日とか聞いたことあるけど、そんなのに引っかからなかったら大丈夫なのかな?
ディープな話だし、私には経験が無いことだからどうアドバイスしてあげていいのか分からない。
「ごめんね。その、簡単に許しちゃった明美先生もどうかと思うけど、一番悪いのは有沢さんだから、少しでも好きって感情が残ってももう会わない方がいいよ。明美先生は多分、流されちゃうよ」
恋愛経験少ない私が何を偉そうに言うやら。
そう思いつつも、私も良い別れ方をしたことがないから分かる。
好きだと錯覚して、大切に扱われてないことに気づかなくて、いつもいつも侑哉に目を覚まさせてもらっていたから。
明美先生は、テーブルに突っ伏したまま大声で泣き出した。
初めての彼氏ではないかもしれないけど、合コンさえ未経験だった彼女が、爽やかな有沢さんに恋をして初めてを捧げたのは、紛れもなく真実で。
これが有沢さんの恋愛の仕方だとしたら酷く歪んで、誰も幸せにできやしないと思ってしまう。
「あ、何か食べていかない? そんな調子じゃ食べてないよね? 甘いもの! 甘いものにしよう!」
親の買い置きの中に、ハワイのお土産のパンケーキの粉があった。
あれと、冷凍ブルーベリーと生クリームで可愛いパンケーキを作ろう!
そうキッチンでせっせと用意していたら、明美先生が忘れていたかったあの事を思い出させた。
「あの、『橘部長』さんから着信来てますよ」
嗚呼、神様。
貴方はいつもなぜそんなにタイミング悪いんですか。
渡された携帯を見つめながら途方に暮れてしまう。
出たい気持ちがないわけじゃないけ、ど……。
今は明美先生も居るし、そのどんな表情をしていいか分からないし。
せめて3コールぐらいで留守番設定すれば良かった。
「みなみ先生、私帰ります。その、明日は早番ですし」
「あ、明美先生?」
「――早く出てあげて下さい」
この時、私は偉そうに明美先生に説教したのが恥ずかしくなった。
明美先生は、ただ聞いてもらえたら良かっただけ。そして、それは序でにでしかなかった。
それに気づくのは、部長の電話を取ると同時に、
――侑哉が帰ってきたから。
『あのさ、もうすぐお前の家、着くんだけど?』
「どうした!? 明美、その顔……」
「ゆぅ……侑哉く、ん……」
『まあ、もう着いたから』
その光景は、私の心をかき乱すのには十分だった。
――侑哉の胸に飛び込む明美先生を見て、分かった。
「でも、詳しくは聞くのが怖くて聞いてません」
頷いてポロポロ涙を流す明美ちゃんにどうしてあげたらいいのか分からない。
あんな爽やかな顔をして、人は見かけによらないっていうのは納得できる!
「その、ご、ゴム使わない方が気持ちいいからって使ってくれなかったの。
に、妊娠とか私、しない……よね」
限界だ。
限界だった。
こっちは出来にくくて苦しめられたのに。
産んでも放置して、その上繰り返すなんて。
「産婦人科には、――いけないよね」
私だって怖くて行けてないし。
危険日とか聞いたことあるけど、そんなのに引っかからなかったら大丈夫なのかな?
ディープな話だし、私には経験が無いことだからどうアドバイスしてあげていいのか分からない。
「ごめんね。その、簡単に許しちゃった明美先生もどうかと思うけど、一番悪いのは有沢さんだから、少しでも好きって感情が残ってももう会わない方がいいよ。明美先生は多分、流されちゃうよ」
恋愛経験少ない私が何を偉そうに言うやら。
そう思いつつも、私も良い別れ方をしたことがないから分かる。
好きだと錯覚して、大切に扱われてないことに気づかなくて、いつもいつも侑哉に目を覚まさせてもらっていたから。
明美先生は、テーブルに突っ伏したまま大声で泣き出した。
初めての彼氏ではないかもしれないけど、合コンさえ未経験だった彼女が、爽やかな有沢さんに恋をして初めてを捧げたのは、紛れもなく真実で。
これが有沢さんの恋愛の仕方だとしたら酷く歪んで、誰も幸せにできやしないと思ってしまう。
「あ、何か食べていかない? そんな調子じゃ食べてないよね? 甘いもの! 甘いものにしよう!」
親の買い置きの中に、ハワイのお土産のパンケーキの粉があった。
あれと、冷凍ブルーベリーと生クリームで可愛いパンケーキを作ろう!
そうキッチンでせっせと用意していたら、明美先生が忘れていたかったあの事を思い出させた。
「あの、『橘部長』さんから着信来てますよ」
嗚呼、神様。
貴方はいつもなぜそんなにタイミング悪いんですか。
渡された携帯を見つめながら途方に暮れてしまう。
出たい気持ちがないわけじゃないけ、ど……。
今は明美先生も居るし、そのどんな表情をしていいか分からないし。
せめて3コールぐらいで留守番設定すれば良かった。
「みなみ先生、私帰ります。その、明日は早番ですし」
「あ、明美先生?」
「――早く出てあげて下さい」
この時、私は偉そうに明美先生に説教したのが恥ずかしくなった。
明美先生は、ただ聞いてもらえたら良かっただけ。そして、それは序でにでしかなかった。
それに気づくのは、部長の電話を取ると同時に、
――侑哉が帰ってきたから。
『あのさ、もうすぐお前の家、着くんだけど?』
「どうした!? 明美、その顔……」
「ゆぅ……侑哉く、ん……」
『まあ、もう着いたから』
その光景は、私の心をかき乱すのには十分だった。
――侑哉の胸に飛び込む明美先生を見て、分かった。
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