神様のうそ、食べた。

篠原愛紀

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三  接近

三  接近 七

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いきなりやってきたくせに、なんでそんな事、部長に言われなきゃいけないの?
自信がないのは、勉強したのに保育科のテストの成績が良くなかったからだし、寿退職して彼の地元に行くはずが行けなくなったから、地元の大分に戻るしかなかっただけだもん。


「お前がくそ真面目過ぎてイライラするっていってんの」

「だから、何で――」


言い返そうと思って、部長の目を見たら何も言えなくなった。
見てる。
部長のタレ目で真っすぐな瞳が、私の心の奥を見透かすように。

睨まれてる。

「何でか、分かってんだろ?」

――逸らせない。

「わ、分かりません!」

「――分かれ。ってか、認めろ」

「意味が分かりまーー」

終わりのない押し門燈をしていた時だった。

「いたいた! お待たせしましたー! みなみ先生!」

その瞬間ふわりと花が舞うように、緊張していた空気が和らいだ。

にこにこ笑いながら駆け寄る明美先生と対照的に両手にジュースを握りつぶすように持って怖い顔で此方を睨む侑哉。
うん。侑哉も仕組まれたって気づいてるのかな。

苦笑いを浮かべてしまうけど、助かった。
「煙草行ってくる」
ちょっと拗ねたようにそう言うと、さっさと入口の方へ大股で消えて行く。
何も知らない明美先生は、手を振りながら見送ると目を輝かせて私を見る。
楽しかったのが全身から伝わってきて、ちょっと羨ましい。

「セイウチのショー可愛かったですよ~。ちょっとでか過ぎてびっくりでしたが」

「あはは。侑哉とどっちが大きかった?」

「ひっで」

明美先生が笑うと、侑哉は悔しそうに横腹をつつく。
侑哉はそう悪態を吐きがらも、未だ少し不機嫌そうに出て行く部長を目で追っていた。
明美先生もひとしきり笑った後、きょろきょろと座っている位置とイルカのプールを確認しだした。

「ここじゃなくてもう少し下で座ったら水しぶき掛かりますよー。行きましょう!」

「いいよ……。着替え持ってきてないし」

「じゃあ、また侑哉くんと二人で行ってきますよ」

そう乙女のように笑う明美先生に苦笑しつつも、言ってきていいよと小さな声で言った。
まんざらでもない侑哉と明美先生は、またすぐに下の席に移動していく。
嵐が来たかと思えば簡単に去って行った。
部長が言うように、私たち姉弟はちょっと行きすぎた姉弟の関係かもしれない。

お互い、遠慮しなくてもいいし小さい時から分かっているし楽な存在だもん。

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