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参、被害者で加害者で、今はただの恋に溺れた美形魔王で。

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「倫太郎、大事なことを言っていなかった。私が前世も今もなぜかのように美しいのか」
 自分で美しい自覚があったのね。嫌味なやつめ。
「好きなものの精気が、若さの秘訣なんだ」
「へえ、好きなものの」
 魔王、そういえばよくドラゴン密猟しては血を飲んでいた気がする。
 俺が絶滅しそうなわずかなドラゴンたちを逃がしてやらなかったら世界中のドラゴンの血を飲んでいただろう。
「この世では、魔法はほぼ使えない。嫌いな人間の尻にイボイボバイブを転送するぐらいしか」
 なんでそんな限定的な魔法しか使えないんだよ。
「じゃあ、どうして魔王はそんなに美形を保っているんだ」
「ふ。まだ老いてないだけ。これから老いを防止するために、毎日リンの精を飲もうと思っておる」
「俺の血!?」
 ドラゴンを絶滅寸前まで追いやったこの男が、俺の精を喰らいつくすのか。
「精。精液」
「なあんだ。血じゃないのか。そうか」
 まあ流石に人間になった魔王が、血なんて飲むわけないよな。
 安心して、ワインを口に含ませてから直接的な言葉がようやく頭に浸透して、吹き出した。 だから、こんなに精力がつくものを俺に食べさせてるのか。
「どんな味がするのだろうか。流石に私も未知なるものだが、『彼氏のフェラってぇ、めっちゃ美味しいしい』って従兄弟も言っていたから楽しみでもある」
 どうしてあんなふわっとした従兄弟の意見を信じちゃうかなあ。なんで余計な情報を教えちゃうのかなあ。わああ。
 流石に飲んだら、百年の恋も冷めちゃってくれないかな。
 なんてもの飲ますだああって殴られても良いから、それで目を覚めしてくれないかな。
 隣で優雅に食事をする魔王と、うな重でお腹いっぱいになった俺の脳内攻防はまだまだ続くのであった。


***
 食事が終わったあと、一階のキッチンに電話したら全て食事を下げてもらい、カーテンを開けられ、ワインと数種類のチーズだけ置き、なぞにムーディーなBGMを流された。

「そうだ。面倒くさいが少しだけ仕事が残っていた。先に風呂に入って待っててくれ」
「は? 俺は一人で」
「先に入って待っていろ」
 はい。
 これは素直に頷くしかない圧を感じた。魔王の本気を感じ、視線で殺されるかと思った。
 魔王は本当に仕事だったらしい。英語で何を言っているのか分からないが指示を出し、パソコンを開けると書斎に引きこもってしまった。 
 食事したばかりでお腹がきついけど、風呂場へ向かう。
 日本の文化を理解しているのか理解していないのか、ジャクジーつきの檜風呂。
 壁にはなぜかニューヨークが描かれている。日本百景とか和風を想像したのに中途半端な和洋折衷になっている。
 隣に簡易シャワー室もあるし、なぜかガラス張りで丸見えのトイレもある。黄金色のトイレで、落ち着かなくて出るものも出ないだろうな。
 壁一面のクローゼットを開くと、浴衣やバスローブ、そしてスケスケのワンピースみたいな服。これ、下着かな。なんていう下着だろう。
 名前を検索しようと携帯を開いたら、着信が数件来ていた。昨日まで働いていたマッチングアプリの担当さんからだった。
『いやあ、さくぽんが退会したら、詐欺だの、サクラだの問い合わせが殺到しちゃったから、IDを復活させました。中は違うバイトの人に引き継がせるので佐久間さんには迷惑はかけません』
「おおう。申し訳ないな」
 急な退会を、魔王の権力で許して貰え給料をいただけただけで良かった。
 でも二代目さくぽんがまた荒稼ぎするのかと思うと、なんだか少し複雑だった。
 いや。なんなら、まだ退会していなかったって魔王が嫌気がさす材料になるかもしれない。 甘い雰囲気に流されて、俺はまだ今日一度も魔王に嫌われることをしていない。
 何一つできていない。
 テーブルに飾っている薔薇を掴むと、急いで風呂のお湯の中へ投げ込んだ。
 せっかく用意してくれたものだけど、今日は本当に嫌われなければいけないからこうsるしかないんだ。
 罪悪感に胸が痛むけど、身体を洗って湯船に飛び込むと、大量の薔薇の花びらをむしってみた。
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