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 間宮さんはすぐに相談スペースに連れてきてくれて、ファイルの中の求人を見せてくれた。外の掲示板に貼ってある求人票は写メ、メモは禁止されていないが、相談スペースの中のファイルの中身は禁止。すでに不特定多数応募があったか、就職課と求人先の依頼人だけの極秘の内容が書かれていたりする場合がある。
 この大手ホテルの求人もその類だったようだ。
『勇敢で責任感のある、者であればだれでも構わない。はなすなどのコミュニケーション能力は勿論、魔が差すのは困るが、王者の資質があるものが好ましい。のうりょくは問わない。
もちろん、誰でもいいわけではない。のぞみがないものはあきらめよ』
「んん? これ募集要項ですか」
 日本語が少しおかしい募集要項に戸惑うが、責任者の名が『ダミエル・セーメ・コテイノ・リクイール』と外国人の名前だったので納得した。
「英国の伯爵位をもつ貴族が世界で展開している『リョーナホテル』の日本、第二店舗目のホテルのコンシェルジュなのよ。ただ色んな大学に求人が来るんだけど、どこも書類選考で落とされているらしいの。うちにもとうとう来てしまったと。でも募集要項がこれなのに」
 確かに曖昧過ぎる。
 給料や賞与、待遇などは新卒としては破格すぎる条件で、誰でも喉から手が出るほど受けたいだろうに。
「あ、ごめんね」
 首から下げていた携帯に着信があったようで席を立って、就職課の奥の部屋へ移動する。
 その間に俺は、目の前の募集要項をもう一度読む。
 おかしいのは、一文ごとに改行していることかな。日本語もおかしいし、もしかしてこの分の中の暗号が分かった者だけとか?
「あはは……はあ!?」
『勇敢で責任感のある、
者であればだれでも構わない。
はなすなどのコミュニケーション能力は勿論、
魔が差すのは困るが、
王者の資質があるものが好ましい。
のうりょくは問わない。
もちろん、誰でもいいわけではない。
のぞみがないものはあきらめよ』
 まじかよ。
そんな情けない言葉が口からこぼれてしまった。
 間宮さんが居ないのを良いことに、社長の名前を写メし、その名前をすぐに携帯で検索した。
「うわあ……」
 まじかよ。
 本日二回目の『まじかよ』が入りました。
 まさかの、まさか。
 検索して出てきた社長の顔は、金髪碧眼ではあるが魔王だ。
 前世で死んだ瞳をして、漆黒の濡れた髪で、魔女みたいな長い爪で、表情もなく常に病んでいて会話したらこちらまで病みそうな、暗い男。
 写真では金髪碧眼、爽やかに笑っている。違う人なのかもしれないが、勇者に執着すると言えばこいつぐらいしかない。
「佐久間くん、ホテル王のダミエル・セーメ・コテイノ・リクイールさんが履歴書をいますぐFAXで送ってほしいって。どうする?」
「しかもこのタイミング」
 俺も金髪碧眼ではなく黒髪のあか抜けないもっさりしたニートだ。もし魔王でなければ、速攻でお祈りされてしまうだろう。
「いいですよ。送っていいです」
「そう。じゃあ10分待ってて」
 すぐに履歴書を送る。が、間宮さんは携帯から顔を遠ざけると首を傾げた。
「あら、急に切られちゃった」
「今日中に返信が来ますか?」
「どうだろ。でも就職課が19時で閉まるのよね」
 事態は急展開かと思えたが、この後19時になっても折り返しの電話はなく、こちらからかけても虚しくコールが続くだけで留守番サービスにさえ繋がらなかった。
「……その、気を落とさないでね」
 苦笑した間宮さんが一応は励ましてくれた。
 俺も馬鹿だ。この世界で魔王が勇者の俺を探しているなんて夢物語を勝手に想像してしまった。
 就職難のせいで変な幻想を抱いてしまったんだ。
「いえ。俺もバイトあるんで帰ります」
「おう。気をつけてな」
 背中を思いっきり叩かれたが、そのままつんのめって、倒れてしまうかと思った。
 コンビニでおにぎり二つとサラダと珈琲を買って、とぼとぼ歩きながら帰宅。
 今日のマッチングアプリの『さくぽん』こと佐久間倫太郎は、手当たり次第に男どもを課金させて破滅に追い込もう。
 そんな風に思うほど、荒れてしまっていたのだった。


 

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