4 / 34
壱
四
しおりを挟む
間宮さんはすぐに相談スペースに連れてきてくれて、ファイルの中の求人を見せてくれた。外の掲示板に貼ってある求人票は写メ、メモは禁止されていないが、相談スペースの中のファイルの中身は禁止。すでに不特定多数応募があったか、就職課と求人先の依頼人だけの極秘の内容が書かれていたりする場合がある。
この大手ホテルの求人もその類だったようだ。
『勇敢で責任感のある、者であればだれでも構わない。はなすなどのコミュニケーション能力は勿論、魔が差すのは困るが、王者の資質があるものが好ましい。のうりょくは問わない。
もちろん、誰でもいいわけではない。のぞみがないものはあきらめよ』
「んん? これ募集要項ですか」
日本語が少しおかしい募集要項に戸惑うが、責任者の名が『ダミエル・セーメ・コテイノ・リクイール』と外国人の名前だったので納得した。
「英国の伯爵位をもつ貴族が世界で展開している『リョーナホテル』の日本、第二店舗目のホテルのコンシェルジュなのよ。ただ色んな大学に求人が来るんだけど、どこも書類選考で落とされているらしいの。うちにもとうとう来てしまったと。でも募集要項がこれなのに」
確かに曖昧過ぎる。
給料や賞与、待遇などは新卒としては破格すぎる条件で、誰でも喉から手が出るほど受けたいだろうに。
「あ、ごめんね」
首から下げていた携帯に着信があったようで席を立って、就職課の奥の部屋へ移動する。
その間に俺は、目の前の募集要項をもう一度読む。
おかしいのは、一文ごとに改行していることかな。日本語もおかしいし、もしかしてこの分の中の暗号が分かった者だけとか?
「あはは……はあ!?」
『勇敢で責任感のある、
者であればだれでも構わない。
はなすなどのコミュニケーション能力は勿論、
魔が差すのは困るが、
王者の資質があるものが好ましい。
のうりょくは問わない。
もちろん、誰でもいいわけではない。
のぞみがないものはあきらめよ』
まじかよ。
そんな情けない言葉が口からこぼれてしまった。
間宮さんが居ないのを良いことに、社長の名前を写メし、その名前をすぐに携帯で検索した。
「うわあ……」
まじかよ。
本日二回目の『まじかよ』が入りました。
まさかの、まさか。
検索して出てきた社長の顔は、金髪碧眼ではあるが魔王だ。
前世で死んだ瞳をして、漆黒の濡れた髪で、魔女みたいな長い爪で、表情もなく常に病んでいて会話したらこちらまで病みそうな、暗い男。
写真では金髪碧眼、爽やかに笑っている。違う人なのかもしれないが、勇者に執着すると言えばこいつぐらいしかない。
「佐久間くん、ホテル王のダミエル・セーメ・コテイノ・リクイールさんが履歴書をいますぐFAXで送ってほしいって。どうする?」
「しかもこのタイミング」
俺も金髪碧眼ではなく黒髪のあか抜けないもっさりしたニートだ。もし魔王でなければ、速攻でお祈りされてしまうだろう。
「いいですよ。送っていいです」
「そう。じゃあ10分待ってて」
すぐに履歴書を送る。が、間宮さんは携帯から顔を遠ざけると首を傾げた。
「あら、急に切られちゃった」
「今日中に返信が来ますか?」
「どうだろ。でも就職課が19時で閉まるのよね」
事態は急展開かと思えたが、この後19時になっても折り返しの電話はなく、こちらからかけても虚しくコールが続くだけで留守番サービスにさえ繋がらなかった。
「……その、気を落とさないでね」
苦笑した間宮さんが一応は励ましてくれた。
俺も馬鹿だ。この世界で魔王が勇者の俺を探しているなんて夢物語を勝手に想像してしまった。
就職難のせいで変な幻想を抱いてしまったんだ。
「いえ。俺もバイトあるんで帰ります」
「おう。気をつけてな」
背中を思いっきり叩かれたが、そのままつんのめって、倒れてしまうかと思った。
コンビニでおにぎり二つとサラダと珈琲を買って、とぼとぼ歩きながら帰宅。
今日のマッチングアプリの『さくぽん』こと佐久間倫太郎は、手当たり次第に男どもを課金させて破滅に追い込もう。
そんな風に思うほど、荒れてしまっていたのだった。
この大手ホテルの求人もその類だったようだ。
『勇敢で責任感のある、者であればだれでも構わない。はなすなどのコミュニケーション能力は勿論、魔が差すのは困るが、王者の資質があるものが好ましい。のうりょくは問わない。
もちろん、誰でもいいわけではない。のぞみがないものはあきらめよ』
「んん? これ募集要項ですか」
日本語が少しおかしい募集要項に戸惑うが、責任者の名が『ダミエル・セーメ・コテイノ・リクイール』と外国人の名前だったので納得した。
「英国の伯爵位をもつ貴族が世界で展開している『リョーナホテル』の日本、第二店舗目のホテルのコンシェルジュなのよ。ただ色んな大学に求人が来るんだけど、どこも書類選考で落とされているらしいの。うちにもとうとう来てしまったと。でも募集要項がこれなのに」
確かに曖昧過ぎる。
給料や賞与、待遇などは新卒としては破格すぎる条件で、誰でも喉から手が出るほど受けたいだろうに。
「あ、ごめんね」
首から下げていた携帯に着信があったようで席を立って、就職課の奥の部屋へ移動する。
その間に俺は、目の前の募集要項をもう一度読む。
おかしいのは、一文ごとに改行していることかな。日本語もおかしいし、もしかしてこの分の中の暗号が分かった者だけとか?
「あはは……はあ!?」
『勇敢で責任感のある、
者であればだれでも構わない。
はなすなどのコミュニケーション能力は勿論、
魔が差すのは困るが、
王者の資質があるものが好ましい。
のうりょくは問わない。
もちろん、誰でもいいわけではない。
のぞみがないものはあきらめよ』
まじかよ。
そんな情けない言葉が口からこぼれてしまった。
間宮さんが居ないのを良いことに、社長の名前を写メし、その名前をすぐに携帯で検索した。
「うわあ……」
まじかよ。
本日二回目の『まじかよ』が入りました。
まさかの、まさか。
検索して出てきた社長の顔は、金髪碧眼ではあるが魔王だ。
前世で死んだ瞳をして、漆黒の濡れた髪で、魔女みたいな長い爪で、表情もなく常に病んでいて会話したらこちらまで病みそうな、暗い男。
写真では金髪碧眼、爽やかに笑っている。違う人なのかもしれないが、勇者に執着すると言えばこいつぐらいしかない。
「佐久間くん、ホテル王のダミエル・セーメ・コテイノ・リクイールさんが履歴書をいますぐFAXで送ってほしいって。どうする?」
「しかもこのタイミング」
俺も金髪碧眼ではなく黒髪のあか抜けないもっさりしたニートだ。もし魔王でなければ、速攻でお祈りされてしまうだろう。
「いいですよ。送っていいです」
「そう。じゃあ10分待ってて」
すぐに履歴書を送る。が、間宮さんは携帯から顔を遠ざけると首を傾げた。
「あら、急に切られちゃった」
「今日中に返信が来ますか?」
「どうだろ。でも就職課が19時で閉まるのよね」
事態は急展開かと思えたが、この後19時になっても折り返しの電話はなく、こちらからかけても虚しくコールが続くだけで留守番サービスにさえ繋がらなかった。
「……その、気を落とさないでね」
苦笑した間宮さんが一応は励ましてくれた。
俺も馬鹿だ。この世界で魔王が勇者の俺を探しているなんて夢物語を勝手に想像してしまった。
就職難のせいで変な幻想を抱いてしまったんだ。
「いえ。俺もバイトあるんで帰ります」
「おう。気をつけてな」
背中を思いっきり叩かれたが、そのままつんのめって、倒れてしまうかと思った。
コンビニでおにぎり二つとサラダと珈琲を買って、とぼとぼ歩きながら帰宅。
今日のマッチングアプリの『さくぽん』こと佐久間倫太郎は、手当たり次第に男どもを課金させて破滅に追い込もう。
そんな風に思うほど、荒れてしまっていたのだった。
0
お気に入りに追加
109
あなたにおすすめの小説
周りが幼馴染をヤンデレという(どこが?)
ヨミ
BL
幼馴染 隙杉 天利 (すきすぎ あまり)はヤンデレだが主人公 花畑 水華(はなばた すいか)は全く気づかない所か溺愛されていることにも気付かずに
ただ友達だとしか思われていないと思い込んで悩んでいる超天然鈍感男子
天利に恋愛として好きになって欲しいと頑張るが全然効いていないと思っている。
可愛い(綺麗?)系男子でモテるが天利が男女問わず牽制してるためモテない所か自分が普通以下の顔だと思っている
天利は時折アピールする水華に対して好きすぎて理性の糸が切れそうになるが、なんとか保ち普段から好きすぎで悶え苦しんでいる。
水華はアピールしてるつもりでも普段の天然の部分でそれ以上のことをしているので何しても天然故の行動だと思われてる。
イケメンで物凄くモテるが水華に初めては全て捧げると内心勝手に誓っているが水華としかやりたいと思わないので、どんなに迫られようと見向きもしない、少し女嫌いで女子や興味、どうでもいい人物に対してはすごく冷たい、水華命の水華LOVEで水華のお願いなら何でも叶えようとする
好きになって貰えるよう努力すると同時に好き好きアピールしているが気づかれず何年も続けている内に気づくとヤンデレとかしていた
自分でもヤンデレだと気づいているが治すつもりは微塵も無い
そんな2人の両片思い、もう付き合ってんじゃないのと思うような、じれ焦れイチャラブな恋物語
転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!
めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。
ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。
兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。
義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!?
このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。
※タイトル変更(2024/11/27)
隠れヤンデレは自制しながら、鈍感幼なじみを溺愛する
知世
BL
大輝は悩んでいた。
完璧な幼なじみ―聖にとって、自分の存在は負担なんじゃないか。
自分に優しい…むしろ甘い聖は、俺のせいで、色んなことを我慢しているのでは?
自分は聖の邪魔なのでは?
ネガティブな思考に陥った大輝は、ある日、決断する。
幼なじみ離れをしよう、と。
一方で、聖もまた、悩んでいた。
彼は狂おしいまでの愛情を抑え込み、大輝の隣にいる。
自制しがたい恋情を、暴走してしまいそうな心身を、理性でひたすら耐えていた。
心から愛する人を、大切にしたい、慈しみたい、その一心で。
大輝が望むなら、ずっと親友でいるよ。頼りになって、甘えられる、そんな幼なじみのままでいい。
だから、せめて、隣にいたい。一生。死ぬまで共にいよう、大輝。
それが叶わないなら、俺は…。俺は、大輝の望む、幼なじみで親友の聖、ではいられなくなるかもしれない。
小説未満、小ネタ以上、な短編です(スランプの時、思い付いたので書きました)
受けと攻め、交互に視点が変わります。
受けは現在、攻めは過去から現在の話です。
拙い文章ですが、少しでも楽しんで頂けたら幸いです。
宜しくお願い致します。
魔力ゼロの無能オメガのはずが嫁ぎ先の氷狼騎士団長に執着溺愛されて逃げられません!
松原硝子
BL
これは魔法とバース性のある異世界でのおはなし――。
15歳の魔力&バース判定で、神官から「魔力のほとんどないオメガ」と言い渡されたエリス・ラムズデール。
その途端、それまで可愛がってくれた両親や兄弟から「無能」「家の恥」と罵られて使用人のように扱われ、虐げられる生活を送ることに。
そんな中、エリスが21歳を迎える年に隣国の軍事大国ベリンガム帝国のヴァンダービルト公爵家の令息とアイルズベリー王国のラムズデール家の婚姻の話が持ち上がる。
だがヴァンダービルト公爵家の令息レヴィはベリンガム帝国の軍事のトップにしてその冷酷さと恐ろしいほどの頭脳から常勝の氷の狼と恐れられる騎士団長。しかもレヴィは戦場や公的な場でも常に顔をマスクで覆っているため、「傷で顔が崩れている」「二目と見ることができないほど醜い」という恐ろしい噂の持ち主だった。
そんな恐ろしい相手に子どもを嫁がせるわけにはいかない。ラムズデール公爵夫妻は無能のオメガであるエリスを差し出すことに決める。
「自分の使い道があるなら嬉しい」と考え、婚姻を大人しく受け入れたエリスだが、ベリンガム帝国へ嫁ぐ1週間前に階段から転げ落ち、前世――23年前に大陸の大戦で命を落とした帝国の第五王子、アラン・ベリンガムとしての記憶――を取り戻す。
前世では戦いに明け暮れ、今世では虐げられて生きてきたエリスは前世の祖国で平和でのんびりした幸せな人生を手に入れることを目標にする。
だが結婚相手のレヴィには驚きの秘密があった――!?
「きみとの結婚は数年で解消する。俺には心に決めた人がいるから」
初めて顔を合わせた日にレヴィにそう言い渡されたエリスは彼の「心に決めた人」を知り、自分の正体を知られてはいけないと誓うのだが……!?
銀髪×碧眼(33歳)の超絶美形の執着騎士団長に気が強いけど鈍感なピンク髪×蜂蜜色の目(20歳)が執着されて溺愛されるお話です。
俺以外美形なバンドメンバー、なぜか全員俺のことが好き
toki
BL
美形揃いのバンドメンバーの中で唯一平凡な主人公・神崎。しかし突然メンバー全員から告白されてしまった!
※美形×平凡、総受けものです。激重美形バンドマン3人に平凡くんが愛されまくるお話。
pixiv/ムーンライトノベルズでも同タイトルで投稿しています。
もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿
感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_
Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109
素敵な表紙お借りしました!
https://www.pixiv.net/artworks/100148872
病んでる愛はゲームの世界で充分です!
書鈴 夏(ショベルカー)
BL
ヤンデレゲームが好きな平凡男子高校生、田山直也。
幼馴染の一条翔に呆れられながらも、今日もゲームに勤しんでいた。
席替えで隣になった大人しい目隠れ生徒との交流を始め、周りの生徒たちから重い愛を現実でも向けられるようになってしまう。
田山の明日はどっちだ!!
ヤンデレ大好き普通の男子高校生、田山直也がなんやかんやあってヤンデレ男子たちに執着される話です。
BL大賞参加作品です。よろしくお願いします。
11/21
本編一旦完結になります。小話ができ次第追加していきます。
変なαとΩに両脇を包囲されたβが、色々奪われながら頑張る話
ベポ田
BL
ヒトの性別が、雄と雌、さらにα、β、Ωの三種類のバース性に分類される世界。総人口の僅か5%しか存在しないαとΩは、フェロモンの分泌器官・受容体の発達度合いで、さらにI型、II型、Ⅲ型に分類される。
βである主人公・九条博人の通う私立帝高校高校は、αやΩ、さらにI型、II型が多く所属する伝統ある名門校だった。
そんな魔境のなかで、変なI型αとII型Ωに理不尽に執着されては、色々な物を奪われ、手に入れながら頑張る不憫なβの話。
イベントにて頒布予定の合同誌サンプルです。
3部構成のうち、1部まで公開予定です。
イラストは、漫画・イラスト担当のいぽいぽさんが描いたものです。
最新はTwitterに掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる