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症状五、処方箋求む。
症状五、処方箋求む。②
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いや、こんな事をしている場合じゃない。今なら颯真さんも仕事で行かないはず。今なら子猫の様子を見にいける。
珈琲を飲み干そうとして、砂糖も入れたなくて苦くてあたふたして、シロップに手を伸ばすと、視界にある人物が飛び込んで来た。
「柾」
「残念。もう少し、百面相する姿見たかったんだけど」
その言葉は、やはり柾らしく意地悪で刺がある。それが、私は親しみを込めていった意地悪だと今日までは気づけなかった。
「なんで此処にいるの? 今日約束は?」
珈琲を片手に正面に座って来たので、つい本で顔を隠す。
すると、柾は携帯を弄りながら頬杖をつき、私には目もくれないで話し出した。
「ああ、飲みね。外回りが早く終わりすぎたからどっかで時間潰そうとしてたらお前が死にそうな顔で此処に吸い込まれて行くから見に来ただけ」
「ちょっと風邪をこじらせただけだよ」
「風邪、ねえ」
私の言葉を口の中で転がすと、少しだけ楽しそうに唇を上げた。
そう言う奴だ。私が困ってたり泣きだしそうなのがきった見ていて楽しいんだ。
「お前、ここで時間つぶしたら帰るの?」
「ううん。昨日救助した猫を見に行こうかなって思ってる」
「ふうん」
柾はコートのポケットにスマホを仕舞い、珈琲を一気に飲み干す。
するとそのまま私の珈琲も奪い、顔を上へ上げて此方も一気に飲み干す。
余りの突然の事で抵抗も出来なかった。
「柾!」
「じゃあ今から行こう。俺も時間あるから一緒に行く」
「柾は駄目。今から行って帰ったら待ち合わせにギリギリになっちゃう」
柾は知らない。菊池さんが柾の為にどれだけ今頑張っているかを。
「うっせーな。死にそうな顔のお前を一人にしたまま酒飲んでも気になるっての」
「でも、柾は動物嫌いじゃん」
「俺は嫌いじゃない。ヤスが俺を嫌ってた」
「……ヤス君に意地悪してなかったっけ」
「引っ掻かれたり猫パンチされてたのは俺の方だろ」
「……どうだっけ」
確かに言われてみればヤス君は、柾が私をいじめる度に飛びかかっていたし、中学ぐらいからは窓から見えるだけで威嚇していた。
「ライバルと思われてたんだろうな」
「ヤス君と柾の初対面って、柾が私の髪の毛をめちゃくちゃにした発表会の日だよ。私をいじめたから警戒されてたのかもよ」
「……ああ、それな」
飲んだ珈琲を二つ、ゴミ箱に捨てる。
そのまま一緒にカフェから出て来てしまった流れで、どうやら本当に柾は付いてくるらしい。
ヤス君の時は、容体さえ聞いてこなかったのに。
結局バスで駅から10分の場所まで一緒に揺られる。
帰宅ラッシュ前で、女子学生が乗っている中、女の子たちの視線は柾に集中している。見た目はやはり柾も格好良いんだと思う。隣に並ぶと、足の比率がおかしいし。
「あの発表会の日、俺は既にお前が好きだった」
そんな視線なんて全く気にもしないで、喋り出す。擦れ違ったお互いの心の答え合わせみたいな会話を。
「普段、ピアノのレッスンしてたら邪魔したり怒ったりしてたのに、なんで発表会は見に来たの? おばさんに言われて仕方なく?」
珈琲を飲み干そうとして、砂糖も入れたなくて苦くてあたふたして、シロップに手を伸ばすと、視界にある人物が飛び込んで来た。
「柾」
「残念。もう少し、百面相する姿見たかったんだけど」
その言葉は、やはり柾らしく意地悪で刺がある。それが、私は親しみを込めていった意地悪だと今日までは気づけなかった。
「なんで此処にいるの? 今日約束は?」
珈琲を片手に正面に座って来たので、つい本で顔を隠す。
すると、柾は携帯を弄りながら頬杖をつき、私には目もくれないで話し出した。
「ああ、飲みね。外回りが早く終わりすぎたからどっかで時間潰そうとしてたらお前が死にそうな顔で此処に吸い込まれて行くから見に来ただけ」
「ちょっと風邪をこじらせただけだよ」
「風邪、ねえ」
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そう言う奴だ。私が困ってたり泣きだしそうなのがきった見ていて楽しいんだ。
「お前、ここで時間つぶしたら帰るの?」
「ううん。昨日救助した猫を見に行こうかなって思ってる」
「ふうん」
柾はコートのポケットにスマホを仕舞い、珈琲を一気に飲み干す。
するとそのまま私の珈琲も奪い、顔を上へ上げて此方も一気に飲み干す。
余りの突然の事で抵抗も出来なかった。
「柾!」
「じゃあ今から行こう。俺も時間あるから一緒に行く」
「柾は駄目。今から行って帰ったら待ち合わせにギリギリになっちゃう」
柾は知らない。菊池さんが柾の為にどれだけ今頑張っているかを。
「うっせーな。死にそうな顔のお前を一人にしたまま酒飲んでも気になるっての」
「でも、柾は動物嫌いじゃん」
「俺は嫌いじゃない。ヤスが俺を嫌ってた」
「……ヤス君に意地悪してなかったっけ」
「引っ掻かれたり猫パンチされてたのは俺の方だろ」
「……どうだっけ」
確かに言われてみればヤス君は、柾が私をいじめる度に飛びかかっていたし、中学ぐらいからは窓から見えるだけで威嚇していた。
「ライバルと思われてたんだろうな」
「ヤス君と柾の初対面って、柾が私の髪の毛をめちゃくちゃにした発表会の日だよ。私をいじめたから警戒されてたのかもよ」
「……ああ、それな」
飲んだ珈琲を二つ、ゴミ箱に捨てる。
そのまま一緒にカフェから出て来てしまった流れで、どうやら本当に柾は付いてくるらしい。
ヤス君の時は、容体さえ聞いてこなかったのに。
結局バスで駅から10分の場所まで一緒に揺られる。
帰宅ラッシュ前で、女子学生が乗っている中、女の子たちの視線は柾に集中している。見た目はやはり柾も格好良いんだと思う。隣に並ぶと、足の比率がおかしいし。
「あの発表会の日、俺は既にお前が好きだった」
そんな視線なんて全く気にもしないで、喋り出す。擦れ違ったお互いの心の答え合わせみたいな会話を。
「普段、ピアノのレッスンしてたら邪魔したり怒ったりしてたのに、なんで発表会は見に来たの? おばさんに言われて仕方なく?」
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