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症状三、急激に体温上昇?
症状三、急激に体温上昇?⑪
しおりを挟む差し出すと、ポケットに入れてってねだられた。年上の人のお願いってなんだか可愛い。
「わかば、明日も早番?」
「はい。今日と同じです」
「じゃあ、病院のお見舞いに一緒に行こう」
「……はい!」
明日も会える。そう思うと、今の嫌な気持ちが吹き飛ぶ。
「あの、これ、落ちてました」
手を伸ばして渡すと、颯真さんは表情も変えなかった。
「誰のだろ。ありがとう」
気にも止めていない。もしかして私の勘違いだったのかもしれない。
しかめっ面で子猫を見ていたのか、子猫が私を見て、小さく鳴いた。
その顔は可愛くないぞと、言ってくれているみたいだ。小さくて可愛い子猫を触りながら、ざわざわした気持ちを落ち着かせる。今はこの子と会えたことを喜ぶべきなんだ。牛柄のこの子の名前を何にしようか悩む。
「帰ろうか」
「はい。って、あ!」
ピアスが気になってうっかり親への連絡を忘れていた私は、慌ててメールを打った。すっかり遅くなってしまったので、颯真さんにご飯に誘われたけど丁寧にお断りして、送って貰った。
電車はまだあったのに、車で送って貰えて二人の時間が長くなったのは嬉しい。車の中は颯真さんの香水が仄かに香っていて、黒で纏められたカバーが格好良すぎて緊張する。さっきから相槌しか打ててない気がする。
「わかばは一人暮らししないの?」
「あは。うち厳しくて。遅番とか21時過ぎるから一人暮らし反対されちゃって」
「そうなんだ。まあ俺と住めばその問題全部解決しちゃうけどね」
「え」
「一緒に住む? ホテルの最上階」
一瞬、心臓が口から出ると思った。
そうか。ホテルのスイートルームに住めば遅刻なんてしないよね。
ただの彼の冗談なのに、深く考えてしまいそうになった自分が恥ずかしい。
「あ、此処です。こっち」
家の前で止めてもらおうとしたら、お母さんが玄関で誰かと話していた。
振り返ったのは、部屋着姿の柾だ。
「うきゃっ」
もしかして柾のお母さんがまた何か作りすぎて持って来てくれたのかもしれない。
「お帰りなさい、遅かったわね」
のんびりと声をかけるお母さんとは反対に、睨んでくる柾が怖い。
真っ直ぐにこっちに向かってくるから慌てて車から降りたけど、柾は私ではなく、颯真さんに一直線だった。
「丁度、お前が本当に婚約者かおばさんに聞こうとしていた所だった」
「へえ。短気な癖にねちっこいね、君」
「なんだと」
「ふっ」
颯真さんは柾を適当にあしらうと、車から降りてお母さんの方へ歩いて行く。
はっきり言って、スーツ姿で一ミリの隙もない彼が笑顔で向かって来て、ドキドキしないわけないよね。
私のお母さんもすっかり慌てふためいてオロオロしていた。そんな母に、落ちついた声で彼は言う。
「お久しぶりです」
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