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症状二、判断力低下。

症状二、判断力低下。⑬

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すぐに離れようとしたけど腰をがっちり支えられてしまった。

「タクシーが来てるからそこまで送るよ」
「す、すいません」
「どうして急に走ろうとしたの?」

不思議そうに首を傾げられ恥ずかしくなって俯く。

「ね、猫の声が聞こえた気がして。もしホテルに入っていたら大変だなって」
「猫、ねえ。仕事熱心だね」

よしよしと頭を撫でられて、完全に今の私は茹でタコみたいになっていたに違いない。

「ほ、本当に聞こえたんです。酔ってませんからね」
「何も言ってないよ。それに君が嘘を付かないことぐらい知ってる」
「っ直ぐそんな事を言う」

受け止めてくれる口調は何だか安心できると言うか、保護者みたい。

「お兄ちゃんみたいですよね、颯真さんって」

咄嗟に出た言葉が、あまりに婚約者とはかけ離れた言葉で自分も驚く。本当に酔っているのかもしれない。
そんな私に、颯真さんが大袈裟に溜息を吐くと、密着するように腰を引き寄せてきた。

「お兄ちゃんだって――二度と言わせないように部屋に連れ込むよ?」

きゃー。顔が近い。甘い声に、柑橘系の香水が鼻を掠めていく。
頭がボーってなるのは、お酒のせい?
それとも――颯真さんの顔が優しいいつもの顔じゃないから?
急に引きよせていた腰の手が緩むと、もういつもの優しい顔だった。
今の一瞬の顔は気のせいだった?混乱している私を、彼は笑顔でタクシーに乗せた。

「そんな顔したら本当に最上階の部屋に連れ込みたくなるから、お逃げなさい、お嬢さん」
「お嬢さんって、颯真さんっ」
「おやすみ」

タクシーは行き先を言ってもいないのに、颯真さんのその言葉で発進する。
手を振った彼を、私はどんな顔で見ていたっていうのだろうか。
真っ赤で情けなくて苛めたら泣いてしまうだろうと思ったのかな。

経験が無さ過ぎる私には、いつも妖しい色気を漂わせる彼は心臓に悪すぎる。
店長は腹黒いと言う。でも私には優しくて、紳士で。そして助けてくれた。
皆の言葉を信じるか、自分の心を信じるかなんて、今の私に考えられない。
ヤス君への気持ちを受け止めてくれた彼が、本当の彼だと私は思っている。
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