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症状二、判断力低下。
症状二、判断力低下。⑩
しおりを挟む一番奥、観葉植物で壁が作られたそこに、ベルベットのソファが二つ、夜景を眺められる様に隣同士で置かれている。
間にある硝子のテーブルにはパソコンと眼鏡が置かれている。
「もしかして、お仕事してました?」
「ああ、君が来るまでの時間つぶしに。もう止めてるよ」
閉じたパソコンをカバンへ仕舞うと、メニュー表を見せてくれた。
「お酒は?」
「へへ。意外と強いですよ。顔がすぐ真っ赤になるから飲めないようにしてますが」
酔って記憶を無くしたり、泣きだしたり、絡んだりーーは今のところないかな。
「ぷっ それって強いって言うの?」
口を拳で隠す様に笑った颯真さんが、私と反対側を向き笑いを堪えている。
「本当ですってば。あ、限定メニューがある。これにします」
苺のリキュールの、紅茶割と炭酸割り、ミルク割りと三種類のメニューを指差した。
「今、疲れてるから炭酸割りかな」
「お、意外。可愛いからミルク割りにするかと思ってた」
――可愛いから。
そんな言葉を平然と言ってのける颯真さんは凄い。私なんて、茜さんに比べたら可愛い要素なんて見当たらないのに。
「じゃあ、俺はビールで」
「え、意外!」
もっとお洒落な飲み物を飲むかと思ってた。ワイングラス片手に、足組んでこの席で夜景を見てる颯真さん、余裕で想像できるし。
「えーっと、じゃあこのなんか無駄に長ったらしい名前の」
「無理しなくて良いですから! 好きなの頼んで下さい!」
メニューの高額なシャンパンを指差したので慌ててメニューを奪ってしまった。意外と颯真さんノリが良い。思わず二人で顔を見合わせて笑ってしまう。
「意外っていうか、お互いを全く知らないんですよね」
注文したら、サンドイッチも一緒に届いた。メニューには載ってないのに、お腹が空いているだろう私の為に颯真さんが用意してくれていたらしい。
お酒の力も合わさって、私の頬の赤みはとれそうにない。グラスを揺らすと、炭酸の泡がしゅわしゅわと上がってくるように、私の気持ちも急上昇だ。
「知らないと駄目ってわけじゃないよね?」
颯真さんもビールを一気に半分飲むと、私を見る。
真っ直ぐ、射抜く様に見る。
「それに俺は結構、君の事知ってたりするし」
「え!?」
ソレは初耳だ。私は、颯真さんとは昨日が初対面だと思っていた。
「私、でも颯真さんみたいなキラキラした人は、忘れたりしないと思います」
「あの時は、君はヤス君しか見えていなかったからじゃないかな」
その言葉に、一瞬思考が停止する。チクチクした言葉を投げられた気がしたけれど、颯真さんの顔は優しいままだ。
「嘘。ちょっと意地悪だったか」
しゅんと謝ったのち、ビールを最後まで飲み干し、さっきの名前が長ったらしい高級なシャンパンを頼む。
「さっきの店長がね、調律師時代からのお得意様だからさ、君の事も知ってたり」
「あ、あ、あ――、そうなんですね。わ、びっくりした」
変な空気になったのは、私の緊張のせいだ。私もグラスの中身を半分ほど飲んで落ち着かせる。
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