上 下
22 / 80
症状二、判断力低下。

症状二、判断力低下。⑩

しおりを挟む

一番奥、観葉植物で壁が作られたそこに、ベルベットのソファが二つ、夜景を眺められる様に隣同士で置かれている。
間にある硝子のテーブルにはパソコンと眼鏡が置かれている。

「もしかして、お仕事してました?」
「ああ、君が来るまでの時間つぶしに。もう止めてるよ」

閉じたパソコンをカバンへ仕舞うと、メニュー表を見せてくれた。

「お酒は?」
「へへ。意外と強いですよ。顔がすぐ真っ赤になるから飲めないようにしてますが」

酔って記憶を無くしたり、泣きだしたり、絡んだりーーは今のところないかな。

「ぷっ それって強いって言うの?」

口を拳で隠す様に笑った颯真さんが、私と反対側を向き笑いを堪えている。

「本当ですってば。あ、限定メニューがある。これにします」
苺のリキュールの、紅茶割と炭酸割り、ミルク割りと三種類のメニューを指差した。
「今、疲れてるから炭酸割りかな」
「お、意外。可愛いからミルク割りにするかと思ってた」

――可愛いから。
そんな言葉を平然と言ってのける颯真さんは凄い。私なんて、茜さんに比べたら可愛い要素なんて見当たらないのに。

「じゃあ、俺はビールで」
「え、意外!」

もっとお洒落な飲み物を飲むかと思ってた。ワイングラス片手に、足組んでこの席で夜景を見てる颯真さん、余裕で想像できるし。

「えーっと、じゃあこのなんか無駄に長ったらしい名前の」
「無理しなくて良いですから! 好きなの頼んで下さい!」

メニューの高額なシャンパンを指差したので慌ててメニューを奪ってしまった。意外と颯真さんノリが良い。思わず二人で顔を見合わせて笑ってしまう。

「意外っていうか、お互いを全く知らないんですよね」

注文したら、サンドイッチも一緒に届いた。メニューには載ってないのに、お腹が空いているだろう私の為に颯真さんが用意してくれていたらしい。
お酒の力も合わさって、私の頬の赤みはとれそうにない。グラスを揺らすと、炭酸の泡がしゅわしゅわと上がってくるように、私の気持ちも急上昇だ。

「知らないと駄目ってわけじゃないよね?」

颯真さんもビールを一気に半分飲むと、私を見る。
真っ直ぐ、射抜く様に見る。

「それに俺は結構、君の事知ってたりするし」
「え!?」

ソレは初耳だ。私は、颯真さんとは昨日が初対面だと思っていた。

「私、でも颯真さんみたいなキラキラした人は、忘れたりしないと思います」
「あの時は、君はヤス君しか見えていなかったからじゃないかな」

その言葉に、一瞬思考が停止する。チクチクした言葉を投げられた気がしたけれど、颯真さんの顔は優しいままだ。
「嘘。ちょっと意地悪だったか」
しゅんと謝ったのち、ビールを最後まで飲み干し、さっきの名前が長ったらしい高級なシャンパンを頼む。

「さっきの店長がね、調律師時代からのお得意様だからさ、君の事も知ってたり」
「あ、あ、あ――、そうなんですね。わ、びっくりした」
変な空気になったのは、私の緊張のせいだ。私もグラスの中身を半分ほど飲んで落ち着かせる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑

岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。 もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。 本編終了しました。

【完結】彼の瞳に映るのは  

たろ
恋愛
 今夜も彼はわたしをエスコートして夜会へと参加する。  優しく見つめる彼の瞳にはわたしが映っているのに、何故かわたしの心は何も感じない。  そしてファーストダンスを踊ると彼はそっとわたしのそばからいなくなる。  わたしはまた一人で佇む。彼は守るべき存在の元へと行ってしまう。 ★ 短編から長編へ変更しました。

社長室の蜜月

ゆる
恋愛
内容紹介: 若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。 一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。 仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

憧れのあなたとの再会は私の運命を変えました~ハッピーウェディングは御曹司との偽装恋愛から始まる~

けいこ
恋愛
15歳のまだ子どもだった私を励まし続けてくれた家庭教師の「千隼先生」。 私は密かに先生に「憧れ」ていた。 でもこれは、恋心じゃなくただの「憧れ」。 そう思って生きてきたのに、10年の月日が過ぎ去って25歳になった私は、再び「千隼先生」に出会ってしまった。 久しぶりに会った先生は、男性なのにとんでもなく美しい顔立ちで、ありえない程の大人の魅力と色気をまとってた。 まるで人気モデルのような文句のつけようもないスタイルで、その姿は周りを魅了して止まない。 しかも、高級ホテルなどを世界展開する日本有数の大企業「晴月グループ」の御曹司だったなんて… ウエディングプランナーとして働く私と、一緒に仕事をしている仲間達との関係、そして、家族の絆… 様々な人間関係の中で進んでいく新しい展開は、毎日何が起こってるのかわからないくらい目まぐるしくて。 『僕達の再会は…本当の奇跡だ。里桜ちゃんとの出会いを僕は大切にしたいと思ってる』 「憧れ」のままの存在だったはずの先生との再会。 気づけば「千隼先生」に偽装恋愛の相手を頼まれて… ねえ、この出会いに何か意味はあるの? 本当に…「奇跡」なの? それとも… 晴月グループ LUNA BLUホテル東京ベイ 経営企画部長 晴月 千隼(はづき ちはや) 30歳 × LUNA BLUホテル東京ベイ ウエディングプランナー 優木 里桜(ゆうき りお) 25歳 うららかな春の到来と共に、今、2人の止まった時間がキラキラと鮮やかに動き出す。

王子殿下の慕う人

夕香里
恋愛
エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。 しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──? 「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」 好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。 ※小説家になろうでも投稿してます

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

処理中です...