艶夜に、ほのめく。

篠原愛紀

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五夜、本気になったら負けだと思う。

五夜、本気になったら負けだと思う。七

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 ***

『死んだ恋人の命日だから』
『今日も明日も、偲びたいから帰らないよ』

 立った一言、二言があればきっと私は気にしなかった。
 でも今まで散々、からかって、わざと怒らせることを言って楽しんできた。

 無関係の私にからかわれるのは億劫なのだろう。
 心の中の一番触れて欲しくない部分だからこそ、私には言うつもりは無いのだろう。

 彼が何をしても怒らないから、私は甘えてきた。彼が許しているだけで、離れるよりも一緒に居る方がまだ面倒じゃ無いだけ。
 早く帰って二人っきりで居るわけにもいかないし、私も気を使ってわざわざ飲み歩いたわけだし。

「あれ、ご飯食べてるじゃん」
 マンションに戻ると、食べたお皿が置かれている。
 そうよね。
 こんな遅くまで飲んで帰ってきた、兄の婚約者にご飯を作らせたりはしないか。
「お前が言うか」
 吹き出した遊馬が、私の頭をかるく小突くと後ろ頭に口付けされた。

「……酒臭い」
「そりゃあ飲んでいましたので」
「ご飯、温めるまで準備しといてくれてありがと」

 甘い空気を作るな。

「別に。ハンバーグは山ほど冷凍してるから」
 
 遊馬のために特別に用意したわけじゃない。
 ぱぱっと用意できるあり合わせのもの。

「あのな」
 ギリギリのラインで立っている私たちは、何か特別な理由を探していたんだと思う。
 これが正当化される理由を、探して安心したかったんじゃないかな。

「ハンバーグは、紗矢が兄貴に作ってた弁当にいつも入ってたものなんだ」
 ハンバーグは好きなんて、子どもみたいねって思ってたの。

「あんなに冷凍して、馬鹿だな、あんた」

 ぷつんと切れたのは、何だったんだろう。
 怒りか、我慢か。
 挑発に乗ってあげる正当性か。
 それとも私のバカみたいな恋心。

 振り返って胸倉を掴むと、遊馬の願い通り唇を押し付けた。
 理由が欲しかった遊馬に、自分からは来ないくせに挑発だけする馬鹿なこの男に。

「発情してるの? ああ、片手だから一人で発散もできないからか」
 骨折した腕を叩くと、笑ってあげた。

「教えてあげようか。欲望を吐きだした瞬間、あんたは後悔するよ」

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みんなの感想(5件)

シュークリーム

久し振りに読み返してみたけど、切なくていい感じ♡続きが気になります。

解除
柚木ゆず
2021.02.18 柚木ゆず

最新話、拝読しました。

心に残るセリフ、そして文章。それらによって構成されている皆様の世界を、引き続き、目と心で感じつつ覗かせていただいております。

作者様が紡ぐ世界は、本当に、読みごたえがあります……!

解除
柚木ゆず
2021.02.13 柚木ゆず

二夜 八まで拝読しました。

濃厚な世界。本日も、浸らせていただきました。

様々なものが交錯して糸が伸びてゆき、その先にあるものは。

それを知りたくて、文章を夢中で読んでいました。





通知を見落としてしまっており、近況ボードを本日拝見しました。
作者様。自分も似た経験があります。心にも体にも、響く出来事ですよね……。

特に今は、寒さも害となる時期です。
こちらは、いつまででも、待たせていただきますので。
ご自分のペースで、生活をされてくださいませ。

篠原愛紀
2021.02.19 篠原愛紀

返信遅くなりました。
更新分までご拝読ありがとうございます。

四万字消えたせいで、コンテスト終了までに完結は難しいなりましたが、完結頑張ります。

優しいお言葉かけありがとうございました。

解除

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