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五夜、本気になったら負けだと思う。
五夜、本気になったら負けだと思う。七
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『死んだ恋人の命日だから』
『今日も明日も、偲びたいから帰らないよ』
立った一言、二言があればきっと私は気にしなかった。
でも今まで散々、からかって、わざと怒らせることを言って楽しんできた。
無関係の私にからかわれるのは億劫なのだろう。
心の中の一番触れて欲しくない部分だからこそ、私には言うつもりは無いのだろう。
彼が何をしても怒らないから、私は甘えてきた。彼が許しているだけで、離れるよりも一緒に居る方がまだ面倒じゃ無いだけ。
早く帰って二人っきりで居るわけにもいかないし、私も気を使ってわざわざ飲み歩いたわけだし。
「あれ、ご飯食べてるじゃん」
マンションに戻ると、食べたお皿が置かれている。
そうよね。
こんな遅くまで飲んで帰ってきた、兄の婚約者にご飯を作らせたりはしないか。
「お前が言うか」
吹き出した遊馬が、私の頭をかるく小突くと後ろ頭に口付けされた。
「……酒臭い」
「そりゃあ飲んでいましたので」
「ご飯、温めるまで準備しといてくれてありがと」
甘い空気を作るな。
「別に。ハンバーグは山ほど冷凍してるから」
遊馬のために特別に用意したわけじゃない。
ぱぱっと用意できるあり合わせのもの。
「あのな」
ギリギリのラインで立っている私たちは、何か特別な理由を探していたんだと思う。
これが正当化される理由を、探して安心したかったんじゃないかな。
「ハンバーグは、紗矢が兄貴に作ってた弁当にいつも入ってたものなんだ」
ハンバーグは好きなんて、子どもみたいねって思ってたの。
「あんなに冷凍して、馬鹿だな、あんた」
ぷつんと切れたのは、何だったんだろう。
怒りか、我慢か。
挑発に乗ってあげる正当性か。
それとも私のバカみたいな恋心。
振り返って胸倉を掴むと、遊馬の願い通り唇を押し付けた。
理由が欲しかった遊馬に、自分からは来ないくせに挑発だけする馬鹿なこの男に。
「発情してるの? ああ、片手だから一人で発散もできないからか」
骨折した腕を叩くと、笑ってあげた。
「教えてあげようか。欲望を吐きだした瞬間、あんたは後悔するよ」
『死んだ恋人の命日だから』
『今日も明日も、偲びたいから帰らないよ』
立った一言、二言があればきっと私は気にしなかった。
でも今まで散々、からかって、わざと怒らせることを言って楽しんできた。
無関係の私にからかわれるのは億劫なのだろう。
心の中の一番触れて欲しくない部分だからこそ、私には言うつもりは無いのだろう。
彼が何をしても怒らないから、私は甘えてきた。彼が許しているだけで、離れるよりも一緒に居る方がまだ面倒じゃ無いだけ。
早く帰って二人っきりで居るわけにもいかないし、私も気を使ってわざわざ飲み歩いたわけだし。
「あれ、ご飯食べてるじゃん」
マンションに戻ると、食べたお皿が置かれている。
そうよね。
こんな遅くまで飲んで帰ってきた、兄の婚約者にご飯を作らせたりはしないか。
「お前が言うか」
吹き出した遊馬が、私の頭をかるく小突くと後ろ頭に口付けされた。
「……酒臭い」
「そりゃあ飲んでいましたので」
「ご飯、温めるまで準備しといてくれてありがと」
甘い空気を作るな。
「別に。ハンバーグは山ほど冷凍してるから」
遊馬のために特別に用意したわけじゃない。
ぱぱっと用意できるあり合わせのもの。
「あのな」
ギリギリのラインで立っている私たちは、何か特別な理由を探していたんだと思う。
これが正当化される理由を、探して安心したかったんじゃないかな。
「ハンバーグは、紗矢が兄貴に作ってた弁当にいつも入ってたものなんだ」
ハンバーグは好きなんて、子どもみたいねって思ってたの。
「あんなに冷凍して、馬鹿だな、あんた」
ぷつんと切れたのは、何だったんだろう。
怒りか、我慢か。
挑発に乗ってあげる正当性か。
それとも私のバカみたいな恋心。
振り返って胸倉を掴むと、遊馬の願い通り唇を押し付けた。
理由が欲しかった遊馬に、自分からは来ないくせに挑発だけする馬鹿なこの男に。
「発情してるの? ああ、片手だから一人で発散もできないからか」
骨折した腕を叩くと、笑ってあげた。
「教えてあげようか。欲望を吐きだした瞬間、あんたは後悔するよ」
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(執筆期間:2022/05/03〜05/24)
✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼
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