艶夜に、ほのめく。

篠原愛紀

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四夜、現実はあふれんばかりに攻め込んでくる。

四夜、現実はあふれんばかりに攻め込んでくる。二

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 千夏の奴!
 泉さんに私をお借りしますとでも言ったのだろうか。

「一人で帰れますから」

「そ。でも一応、危ないから終電以降はタクシーを使うんだよ」

「部長」
「部長、求人の件ですけど」

 望月女史と私の声はほぼ同時だったけれど、望月女史の視線に負けてすごすごと引き下がるしかなかった。
 やっぱ異動は私なんだ。
 泉さんの様子から見ても避けられないのは確実だ。
 この部署に入らなければ、泉さんを誘惑しようなんて思わなかった大事な場所だけど、現実は重くて厄介だ。



「綾香ってキャバ嬢に転職したって噂だよ」

 千夏のお勧めの焼鳥屋で、生卵につくねを付けてこねくり回しながらそんなつまらない情報を聞かされた。

「あそこって遅刻とか無断欠勤とか厳しいのに大丈夫なのかな」
「おいおい。もう少しでお前が綾香みたいにさせられてたかもしれないんだぞ」

 千夏がお勧めしてきた炭火焼鳥片手にビールを飲みながら溜息しか出ない。


「私は幸せなので過去は忘れました」
「いつからだよ。さすがにりゅうりゅうとは被ってねーだろうな」

 小顔の千夏が豪快に口に泡をつけて顔より大きなジョッキを持ちながらニタニタ言う。


「龍一とはかぶってないよ。別れた次の日に守りに入りたくて誘惑したんだもん」
「あーわかる。分かる。あんな駄目男選んだら、結婚相手にはまともな奴選びたくなるよな。ってか恋人と結婚相手は同じ基準じゃ無理だし」
「千夏は綺麗なのにどうなの。なんでそんな恋人居なくても焦ってないの」
「私は遊んで満たされたら、清楚系に変身して、40代手前で焦ってる重役とか捕まえる予定」
「具体的過ぎ」

呆れて鼻で笑ってしまうと、何故か得意げだった。


「でも部長とか、私が40前でゲットしたい理想の上司だったから羨ましい」
「千夏は、望月女史から泉さんの元カノの話聞いてる?」
「勿論勿論。耳にタコやイカや亀や竜宮城が出来るほど聞いた」

 やはり署内では知らない人はいないんだろうな。



「過去の話なのに、それって気になったりする?」
「それって私に聞いても無駄じゃね? もっと乙女の平均的な思考の女史に聞くべきではないかな」

 トマトベーコンを齧ったら熱かったのか二杯目のビールをぺろりと飲みきった。

「そうだよね。私も千夏も平均的な乙女心は持ち合わせてないよね」

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