21 / 63
三、当日×材料
三、当日×材料②
しおりを挟む柔らかくて優しい色は、私の顔立ちを引き立ててくれて雰囲気も優しくなって、飛び跳ねたくなるほど嬉しい。自分に似合う色を発見してもらえて、勉強にもなった。
「それは良かった。きつい性格だから無理に付き合わなくてもいいって思ったんだけど」
「全然。強くて逞しい女性は憧れます。私は好きですよ」
喬一さんの袴をツンツンしながら、だらしなく笑ってしまったら彼も笑う。
いや、だって袴姿、格好いいし、幸せで顔がにやけてしまうんだもん。
「俺も、可愛い紗矢が好きだよ」
「きゃー」
「俺にもいっぱい言って」
「……ひい」
眩しい笑顔で両手を広げられて、蕩けてしまいそう。
「俺は毎日こんなに言ってるのに、紗矢は恥ずかしがってすぐ逃げるから、今日ぐらいは沢山聞きたいな」
そう言いつつも、顔は意地悪ににやにや笑ってる。
絶対、私の困った顔が楽しくて言っているだけに違いない。
「沢山言ってくれたら、優しく脱がすけど?」
「意地悪……っ」
「残念。君は悪い男に引っかかったよ」
頬を撫で、指先が唇まで降りてくる。
「最初に君を家に上げた時に、抱こうと思ったんだ。君みたいに真面目な子はさっさと既成事実を作って逃がさないぞ、と」
「わ、悪い男です」
確かに悪い男だ。納得していたら、クスクス笑われてしまった。
「そうしたら、出勤要請だろ?」
「悪いことを考えるからですよ。それから私を押し倒そうとすると、必ず救急車のサイレンです」
つまり私と喬一さんはいまだに清い関係だ。
昨日、婚姻届けを提出して『古舘 紗矢』になってしまっているのに。
緊急オペでそのまま彼は出勤して、帰ってこないまま挙式に駆け付けたんだから。
「昨日と今日は、良い子だったろ、俺」
「まあお仕事は頑張っていました。疲れ様です」
おずおずと手を伸ばして、頭を撫でると彼は目を細めて私の腕を掴んだ。
「じゃあご褒美をもらおうか」
「ご褒美」
「苗字ももらったし、君の初恋ももらっちゃったみたいだけど、残念だね。悪い男は全部が欲しいらしいよ」
全部。
その囁くような声の甘みに体がじわっと痺れていく。
喬一さんは手に口づけすると、恭しく私の目を見る。
「一枚一枚、その服を優しく脱がして、色んな表情の君をもらうよ」
「……ふ、夫婦になるんだし、受けて立ちますっ」
「最後の一枚を脱がしたとき、君の桃色に染まった肌を今度は俺が覆い隠す。最高だ」
「え、あの、きゃっ」
言い終わらないうちに抱きかかえられ、東屋を後にする。
高いビルの上、星に届きそうなホテルの屋上で、まるで虫の声が聞こえてきそうな庭園を彼に抱えられて私は移動する。
まだ両家の親たちの騒ぐ声が聞こえてくるのに、彼は私を抱きかかえたままホテルを降りていく。
「どこに行くんですか」
「隣のデザイナーズホテル『オーベルジュ』。ここのクラシックホテルの社長の息子が若い子向けに建てた大人の隠れ家ホテル」
「ええ、でもあそこ、人気でなかなか泊まれないんですよ」
このクラシックホテルは和風な挙式、隣のデザイナーズホテルは、洋風な挙式ができる。が、向こうは挙式の予約が二年先までいっぱいなので、私たちはこっちの庭園にしたのに。
1
お気に入りに追加
229
あなたにおすすめの小説
伯爵閣下の褒賞品
夏菜しの
恋愛
長い戦争を終わらせた英雄は、新たな爵位と領地そして金銭に家畜と様々な褒賞品を手に入れた。
しかしその褒賞品の一つ。〝妻〟の存在が英雄を悩ませる。
巨漢で強面、戦ばかりで女性の扱いは分からない。元来口下手で気の利いた話も出来そうにない。いくら国王陛下の命令とは言え、そんな自分に嫁いでくるのは酷だろう。
互いの体裁を取り繕うために一年。
「この離縁届を預けておく、一年後ならば自由にしてくれて構わない」
これが英雄の考えた譲歩だった。
しかし英雄は知らなかった。
選ばれたはずの妻が唯一希少な好みの持ち主で、彼女は選ばれたのではなく自ら志願して妻になったことを……
別れたい英雄と、別れたくない褒賞品のお話です。
※設定違いの姉妹作品「伯爵閣下の褒章品(あ)」を公開中。
よろしければ合わせて読んでみてください。
騎士爵とおてんば令嬢【完結済】
弓立歩
恋愛
腕は立つけれど、貴族の礼が苦手で実力を隠す騎士と貴族だけど剣が好きな少女が婚約することに。
あれはそんな意味じゃなかったのに…。突然の婚約から名前も知らない騎士の家で生活することになった少女と急に婚約者が出来た騎士の生活を描きます。
後宮の棘
香月みまり
キャラ文芸
蔑ろにされ婚期をのがした25歳皇女がついに輿入り!相手は敵国の禁軍将軍。冷めた姫vs堅物男のチグハグな夫婦は帝国内の騒乱に巻き込まれていく。
☆完結しました☆
スピンオフ「孤児が皇后陛下と呼ばれるまで」の進捗と合わせて番外編を不定期に公開していきます。
第13回ファンタジー大賞特別賞受賞!
ありがとうございました!!
天才と呼ばれた彼女は無理矢理入れられた後宮で、怠惰な生活を極めようとする
カエデネコ
恋愛
※カクヨムの方にも載せてあります。サブストーリーなども書いていますので、よかったら、お越しくださいm(_ _)m
リアンは有名私塾に通い、天才と名高い少女であった。しかしある日突然、陛下の花嫁探しに白羽の矢が立ち、有無を言わさず後宮へ入れられてしまう。
王妃候補なんてなりたくない。やる気ゼロの彼女は後宮の部屋へ引きこもり、怠惰に暮らすためにその能力を使うことにした。
【完結】なんちゃって幼妻は夫の溺愛に気付かない?
佐倉えび
恋愛
夫が同情で結婚してくれたと勘違いしている十六歳のマイナ(中身は前世二十五歳)と、妻を溺愛しているレイ。二人は仲のよい夫婦ではあるが、まだ白い結婚である。
レイはマイナの気持ちが育つのをのんびりと待つつもりでいるが、果たしてレイの溺愛にマイナが気付くときはくるのか?
ほのぼの夫婦と、二人を取り巻く人々の日常。
すれ違ったり巻き込まれたりしながら本物の夫婦になっていくお話。ハッピーエンドです。
※最小限に留めていますが残酷な描写があります。ご注意ください。
※子作りにまつわる話題が多いためR15です。
*ムーンライトノベルズにも別タイトルでR18版を掲載
攻略対象ですがルートに入ってきませんでした
夏菜しの
恋愛
貴族が通う学園の食堂、私はそこで婚約破棄されました。
その瞬間に、これはゲームのイベントだと気づいたのです。
攻略対象である私は、ここでプレイヤーに慰められ……
って?
あれ、プレイヤーが居ないんですが……
分かりました。
攻略ルートに入ってこないのであれば、私は自由にさせて貰いましょう!
※12/23終了
婚約者にフラれたので、復讐しようと思います
紗夏
恋愛
御園咲良28才
同期の彼氏と結婚まであと3か月――
幸せだと思っていたのに、ある日突然、私の幸せは音を立てて崩れた
婚約者の宮本透にフラれたのだ、それも完膚なきまでに
同じオフィスの後輩に寝取られた挙句、デキ婚なんて絶対許さない
これから、彼とあの女に復讐してやろうと思います
けれど…復讐ってどうやればいいんだろう
俺様幼馴染の溺愛包囲網
吉岡ミホ
恋愛
枚岡結衣子 (ひらおか ゆいこ)
25歳 養護教諭
世話焼きで断れない性格
無自覚癒やし系
長女
×
藤田亮平 (ふじた りょうへい)
25歳 研修医
俺様で人たらしで潔癖症
トラウマ持ち
末っ子
「お前、俺専用な!」
「結衣子、俺に食われろ」
「お前が俺のものだって、感じたい」
私たちって家が隣同士の幼馴染で…………セフレ⁇
この先、2人はどうなる?
俺様亮平と癒し系結衣子の、ほっこり・じんわり、心温まるラブコメディをお楽しみください!
※『ほっこりじんわり大賞』エントリー作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる