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ニ、結婚×仕込み
ニ、結婚×仕込み⑪
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「やっぱり!」
「やっぱり?」
怪訝そうな顔をされたので、口を押えて視線を逸らした。
もしかして他に女性がいる、とか。
実はお母様のご飯以外は食べない!?
恋愛が続いたことがないって、こんな完璧な人に?
「キッチンに来てほしいんだ」
「はい」
一階へ降りて、キッチンへ向かう。
オール電化のキッチンは、オーブンも食器洗い乾燥機も、そして大きな冷蔵庫もある。
彼は引き出しを開けると、見たこともないような沢山の種類の包丁が並んでいるのを指さした。
「実は、……料理が好きなんだ」
「はあ」
「君のおばあさまが送ってくださる野菜を、一矢が俺に押し付けてくれるのが本当に嬉しかった」
「はあ……?」
料理が好き?
キッチンを見渡すと、見たこともない香辛料やスパイスが並べられているし、まな板も使用感がある。
「俺の料理を食べると大体の女性は、不機嫌になるか、私の料理は不味いから食べたくないのかと泣き出す。それが億劫というか面倒というか、煩わしいというか」
はあ、と深く嘆息する。その深さに、喬一さんの今までの苦労がうかがえた。
「えっと……つまり、喬一さんの方がお仕事は忙しいと思うんですが、料理は任せた方がいいんですか?」
「俺がいる時は任せてほしいかな。あと、面倒くさいんだが俺が作ってるときは手伝いはいらない」
そういって、包丁を取り出し、磨かれた包丁に顔を映して微笑んだ。
外科医だから、手先が器用なのかなって言いそうになって飲み込んだ。
「私、あまり得意じゃないから、作ってくれるのは大変うれしいです」
が、自分より忙しい夫に作らせるなんて罪悪感が無くはない。
「良かった。座って待っててくれ。簡単に作るから」
いそいそとスーツのジャケットをハンガーにかけて、黒いエプロンを腰に巻きだす。
そして、冷蔵庫からさっそくトレイに入れていた食材を取り出す。
どうやら事前に仕込みは終わっていたらしい。
「見るのは大丈夫ですか?」
「ああ。ちょっと恥ずかしいけど、いいよ」
キッチンのカウンターに、バーみたいな椅子が並んでいるので、そこで座って彼の料理を見る。
仕込んでいたのは、トマトとズッキーニのカルパッチョ。
出来上がったのは、サーモンと春菊ときのこのたらこクリームパスタ。
そして桜エビのチーズステッキをお洒落なワイングラスに入れて真ん中に置いた。
「すごい。こんな短時間でご飯ができた」
「まあ。一人暮らしが長かったからな。そっち座って」
テーブルの上に並べられた食事と、テーブルの向こうから私を見る彼の目が怖い。
感想を求めてうずうずしていると期待している目だ。
「食べていいでしょうか」
「もちろん。口に合うかな」
どこか誇らしげな言い方が、ちょっと可愛いと思ってしまった。
まずはパスタを一口、フォークに巻いて食べてみた。
「え……!」
料理リポーター並みの語彙力が欲しい。しっかり塩味がついたサーモンと春菊、そしてエリンギの香りが絶妙で、美味しい。
「これは! 土下座してお嫁さんになってほしいぐらい美味しいですっ」
「やっぱり?」
怪訝そうな顔をされたので、口を押えて視線を逸らした。
もしかして他に女性がいる、とか。
実はお母様のご飯以外は食べない!?
恋愛が続いたことがないって、こんな完璧な人に?
「キッチンに来てほしいんだ」
「はい」
一階へ降りて、キッチンへ向かう。
オール電化のキッチンは、オーブンも食器洗い乾燥機も、そして大きな冷蔵庫もある。
彼は引き出しを開けると、見たこともないような沢山の種類の包丁が並んでいるのを指さした。
「実は、……料理が好きなんだ」
「はあ」
「君のおばあさまが送ってくださる野菜を、一矢が俺に押し付けてくれるのが本当に嬉しかった」
「はあ……?」
料理が好き?
キッチンを見渡すと、見たこともない香辛料やスパイスが並べられているし、まな板も使用感がある。
「俺の料理を食べると大体の女性は、不機嫌になるか、私の料理は不味いから食べたくないのかと泣き出す。それが億劫というか面倒というか、煩わしいというか」
はあ、と深く嘆息する。その深さに、喬一さんの今までの苦労がうかがえた。
「えっと……つまり、喬一さんの方がお仕事は忙しいと思うんですが、料理は任せた方がいいんですか?」
「俺がいる時は任せてほしいかな。あと、面倒くさいんだが俺が作ってるときは手伝いはいらない」
そういって、包丁を取り出し、磨かれた包丁に顔を映して微笑んだ。
外科医だから、手先が器用なのかなって言いそうになって飲み込んだ。
「私、あまり得意じゃないから、作ってくれるのは大変うれしいです」
が、自分より忙しい夫に作らせるなんて罪悪感が無くはない。
「良かった。座って待っててくれ。簡単に作るから」
いそいそとスーツのジャケットをハンガーにかけて、黒いエプロンを腰に巻きだす。
そして、冷蔵庫からさっそくトレイに入れていた食材を取り出す。
どうやら事前に仕込みは終わっていたらしい。
「見るのは大丈夫ですか?」
「ああ。ちょっと恥ずかしいけど、いいよ」
キッチンのカウンターに、バーみたいな椅子が並んでいるので、そこで座って彼の料理を見る。
仕込んでいたのは、トマトとズッキーニのカルパッチョ。
出来上がったのは、サーモンと春菊ときのこのたらこクリームパスタ。
そして桜エビのチーズステッキをお洒落なワイングラスに入れて真ん中に置いた。
「すごい。こんな短時間でご飯ができた」
「まあ。一人暮らしが長かったからな。そっち座って」
テーブルの上に並べられた食事と、テーブルの向こうから私を見る彼の目が怖い。
感想を求めてうずうずしていると期待している目だ。
「食べていいでしょうか」
「もちろん。口に合うかな」
どこか誇らしげな言い方が、ちょっと可愛いと思ってしまった。
まずはパスタを一口、フォークに巻いて食べてみた。
「え……!」
料理リポーター並みの語彙力が欲しい。しっかり塩味がついたサーモンと春菊、そしてエリンギの香りが絶妙で、美味しい。
「これは! 土下座してお嫁さんになってほしいぐらい美味しいですっ」
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