11 / 63
ニ、結婚×仕込み
ニ、結婚×仕込み⑥
しおりを挟む
*
「えーっ 古舘外科ってあの駅前の!? カフェみたいなお洒落なロビーの! エントランスの噴水にお花が浮かんでるとこ!?」
「まあうちがデザインから携わったから、知ってるけども」
とんとん拍子で進んでしまい、結納の日にちが決まった時点で、私も覚悟を決めた。
正確には、口に出さないと現実味が湧かないので、友人でもあり仕事でこの先迷惑をかけてしまうかもしれないので伝えたまでだ。
なのに小春は、可愛い顔が台無しなほど大きな口を開けて驚いている。
顎が外れないか、見てるこっちがひやひやするレベルだ。
「古舘外科の、ストイックでクールな院長さん、合コンに全く来ないし女がいるのかと思っていたのに。そうか、お見合いか」
「……うん。親と食事するのかと思ったら、あの夜、顔合わせだったの」
いきなり結婚というと説明が面倒なので、二人でお見合いだと話を合わせることにしていた。
「くっそ。良い男は良い女を選ぶよなあ。紗矢なら身持ちが堅い、良家のお嬢様だし。参考までに決め手になったエピソードは」
「たまたまよ。偶々、タイミングというか、何もない冷蔵庫の中身で一品作ったのを見て、驚かれたせいだし」
嘘は言っていない。嘘は言っていないけど口止めもしていなかった。
仕事が終わるころには『南城紗矢は、野菜しか入っていない冷蔵庫からささっと七品作って、古舘外科医院の院長の胃袋を射止めた』というデマが会社中に広まっていた。
伝言ゲームもできない人間しかいないうちの企業に不安しかない。
このデマが、彼の元にまで届いたら、彼は笑い死ぬかもしれない。
本当、料理ぐらいはちゃんとしないといけない。
結納は一週間後に、ホテル『シャングリラ』というクラシックホテルで行われる。ロビーのステンドグラスが美しいホテルだけど、屋上に庭園ができたらしい。洋風のクラシックホテルの屋上に、日本庭園っておかしな話。
仲人を引き受けてくださる方がシャングリラのオーナーだから予約でいっぱいだったのに急遽貸していただけることになったようだ。
喬一さんがお世話になった人で、父の恩師だという。今時、仲人って聞きなれない言葉だからちょっと新鮮だったりする。
「さて。今日も定時に帰るからね!」
「あら、古舘さんったら張り切ってるね」
小春が椅子を回転させながら私のデスクにやってきた。
この友人の口の軽さに、頬を抓ってやろうかと思ったが今は帰るのが先だ。
「そう。彼の家を覗きに行くの。医院の後ろに家があるらしくて、私の荷物をいれるならどれぐらいの広さかちゃんと見ておこうかって」
「まあ、結婚前の男女が家に」
「そう。まあ喬一さんは今日は夜勤ですがね」
お借りした鍵を見せると、明らかに残念そうな顔をする。
露骨すぎるけど、ここまではっきり顔に出してくれる方が楽だ。
「そういえば、喬一さん、毎日お弁当持って来てたから、家に女がいるんじゃないかって医院の事務の子が言ってたらしいよ」
「お弁当? お姉さんじゃないかな」
「ああ、なるほど」
小春は納得してくれたけど、私はロッカーに戻って気づいた。
「えーっ 古舘外科ってあの駅前の!? カフェみたいなお洒落なロビーの! エントランスの噴水にお花が浮かんでるとこ!?」
「まあうちがデザインから携わったから、知ってるけども」
とんとん拍子で進んでしまい、結納の日にちが決まった時点で、私も覚悟を決めた。
正確には、口に出さないと現実味が湧かないので、友人でもあり仕事でこの先迷惑をかけてしまうかもしれないので伝えたまでだ。
なのに小春は、可愛い顔が台無しなほど大きな口を開けて驚いている。
顎が外れないか、見てるこっちがひやひやするレベルだ。
「古舘外科の、ストイックでクールな院長さん、合コンに全く来ないし女がいるのかと思っていたのに。そうか、お見合いか」
「……うん。親と食事するのかと思ったら、あの夜、顔合わせだったの」
いきなり結婚というと説明が面倒なので、二人でお見合いだと話を合わせることにしていた。
「くっそ。良い男は良い女を選ぶよなあ。紗矢なら身持ちが堅い、良家のお嬢様だし。参考までに決め手になったエピソードは」
「たまたまよ。偶々、タイミングというか、何もない冷蔵庫の中身で一品作ったのを見て、驚かれたせいだし」
嘘は言っていない。嘘は言っていないけど口止めもしていなかった。
仕事が終わるころには『南城紗矢は、野菜しか入っていない冷蔵庫からささっと七品作って、古舘外科医院の院長の胃袋を射止めた』というデマが会社中に広まっていた。
伝言ゲームもできない人間しかいないうちの企業に不安しかない。
このデマが、彼の元にまで届いたら、彼は笑い死ぬかもしれない。
本当、料理ぐらいはちゃんとしないといけない。
結納は一週間後に、ホテル『シャングリラ』というクラシックホテルで行われる。ロビーのステンドグラスが美しいホテルだけど、屋上に庭園ができたらしい。洋風のクラシックホテルの屋上に、日本庭園っておかしな話。
仲人を引き受けてくださる方がシャングリラのオーナーだから予約でいっぱいだったのに急遽貸していただけることになったようだ。
喬一さんがお世話になった人で、父の恩師だという。今時、仲人って聞きなれない言葉だからちょっと新鮮だったりする。
「さて。今日も定時に帰るからね!」
「あら、古舘さんったら張り切ってるね」
小春が椅子を回転させながら私のデスクにやってきた。
この友人の口の軽さに、頬を抓ってやろうかと思ったが今は帰るのが先だ。
「そう。彼の家を覗きに行くの。医院の後ろに家があるらしくて、私の荷物をいれるならどれぐらいの広さかちゃんと見ておこうかって」
「まあ、結婚前の男女が家に」
「そう。まあ喬一さんは今日は夜勤ですがね」
お借りした鍵を見せると、明らかに残念そうな顔をする。
露骨すぎるけど、ここまではっきり顔に出してくれる方が楽だ。
「そういえば、喬一さん、毎日お弁当持って来てたから、家に女がいるんじゃないかって医院の事務の子が言ってたらしいよ」
「お弁当? お姉さんじゃないかな」
「ああ、なるほど」
小春は納得してくれたけど、私はロッカーに戻って気づいた。
1
お気に入りに追加
229
あなたにおすすめの小説
伯爵閣下の褒賞品
夏菜しの
恋愛
長い戦争を終わらせた英雄は、新たな爵位と領地そして金銭に家畜と様々な褒賞品を手に入れた。
しかしその褒賞品の一つ。〝妻〟の存在が英雄を悩ませる。
巨漢で強面、戦ばかりで女性の扱いは分からない。元来口下手で気の利いた話も出来そうにない。いくら国王陛下の命令とは言え、そんな自分に嫁いでくるのは酷だろう。
互いの体裁を取り繕うために一年。
「この離縁届を預けておく、一年後ならば自由にしてくれて構わない」
これが英雄の考えた譲歩だった。
しかし英雄は知らなかった。
選ばれたはずの妻が唯一希少な好みの持ち主で、彼女は選ばれたのではなく自ら志願して妻になったことを……
別れたい英雄と、別れたくない褒賞品のお話です。
※設定違いの姉妹作品「伯爵閣下の褒章品(あ)」を公開中。
よろしければ合わせて読んでみてください。
騎士爵とおてんば令嬢【完結済】
弓立歩
恋愛
腕は立つけれど、貴族の礼が苦手で実力を隠す騎士と貴族だけど剣が好きな少女が婚約することに。
あれはそんな意味じゃなかったのに…。突然の婚約から名前も知らない騎士の家で生活することになった少女と急に婚約者が出来た騎士の生活を描きます。
後宮の棘
香月みまり
キャラ文芸
蔑ろにされ婚期をのがした25歳皇女がついに輿入り!相手は敵国の禁軍将軍。冷めた姫vs堅物男のチグハグな夫婦は帝国内の騒乱に巻き込まれていく。
☆完結しました☆
スピンオフ「孤児が皇后陛下と呼ばれるまで」の進捗と合わせて番外編を不定期に公開していきます。
第13回ファンタジー大賞特別賞受賞!
ありがとうございました!!
【完結】なんちゃって幼妻は夫の溺愛に気付かない?
佐倉えび
恋愛
夫が同情で結婚してくれたと勘違いしている十六歳のマイナ(中身は前世二十五歳)と、妻を溺愛しているレイ。二人は仲のよい夫婦ではあるが、まだ白い結婚である。
レイはマイナの気持ちが育つのをのんびりと待つつもりでいるが、果たしてレイの溺愛にマイナが気付くときはくるのか?
ほのぼの夫婦と、二人を取り巻く人々の日常。
すれ違ったり巻き込まれたりしながら本物の夫婦になっていくお話。ハッピーエンドです。
※最小限に留めていますが残酷な描写があります。ご注意ください。
※子作りにまつわる話題が多いためR15です。
*ムーンライトノベルズにも別タイトルでR18版を掲載
攻略対象ですがルートに入ってきませんでした
夏菜しの
恋愛
貴族が通う学園の食堂、私はそこで婚約破棄されました。
その瞬間に、これはゲームのイベントだと気づいたのです。
攻略対象である私は、ここでプレイヤーに慰められ……
って?
あれ、プレイヤーが居ないんですが……
分かりました。
攻略ルートに入ってこないのであれば、私は自由にさせて貰いましょう!
※12/23終了
婚約者にフラれたので、復讐しようと思います
紗夏
恋愛
御園咲良28才
同期の彼氏と結婚まであと3か月――
幸せだと思っていたのに、ある日突然、私の幸せは音を立てて崩れた
婚約者の宮本透にフラれたのだ、それも完膚なきまでに
同じオフィスの後輩に寝取られた挙句、デキ婚なんて絶対許さない
これから、彼とあの女に復讐してやろうと思います
けれど…復讐ってどうやればいいんだろう
俺様幼馴染の溺愛包囲網
吉岡ミホ
恋愛
枚岡結衣子 (ひらおか ゆいこ)
25歳 養護教諭
世話焼きで断れない性格
無自覚癒やし系
長女
×
藤田亮平 (ふじた りょうへい)
25歳 研修医
俺様で人たらしで潔癖症
トラウマ持ち
末っ子
「お前、俺専用な!」
「結衣子、俺に食われろ」
「お前が俺のものだって、感じたい」
私たちって家が隣同士の幼馴染で…………セフレ⁇
この先、2人はどうなる?
俺様亮平と癒し系結衣子の、ほっこり・じんわり、心温まるラブコメディをお楽しみください!
※『ほっこりじんわり大賞』エントリー作品です。
隣人はクールな同期でした。
氷萌
恋愛
それなりに有名な出版会社に入社して早6年。
30歳を前にして
未婚で恋人もいないけれど。
マンションの隣に住む同期の男と
酒を酌み交わす日々。
心許すアイツとは
”同期以上、恋人未満―――”
1度は愛した元カレと再会し心を搔き乱され
恋敵の幼馴染には刃を向けられる。
広報部所属
●七星 セツナ●-Setuna Nanase-(29歳)
編集部所属 副編集長
●煌月 ジン●-Jin Kouduki-(29歳)
本当に好きな人は…誰?
己の気持ちに向き合う最後の恋。
“ただの恋愛物語”ってだけじゃない
命と、人との
向き合うという事。
現実に、なさそうな
だけどちょっとあり得るかもしれない
複雑に絡み合う人間模様を描いた
等身大のラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる