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四、ウソツキ、嘘つき、うそつき
四、ウソツキ、嘘つき、うそつき⑩
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えーっと。
「でも海外の最新医療機器を大量購入したためにお金がないって話だったのに」
「それって数年前の話ですよね。とっくに全て綺麗にされてるはずです」
えーっと。
なんだろう。話がかみ合わない。
お互い、同じ名前の違う人の話をしているような。
プライドの高い母が、私に縋りつくぐらい経営が傾いてるって話だったはず。
「あ、喬一さんがエントランスに来たみたいです」
携帯画面を見て幸せそうに微笑む紗矢さんを見たら、これ以上は突っ込まない方がいいかなと口を閉じだ。
妊娠中の人に、いくら偽装とはいえ義姉の実家が経営傾いてて改装費払えずに全て一矢さんが払ったと知ったら驚くだろうし。
「あの、旦那様もよかったら上がってください。まだ紗矢さん、顔色が優れないし」
紗矢さんの旦那さんは、眼鏡をかけた知的な男性で、柔らかく笑うのが印象的だった。
常に優しそうなオーラを見にまとっていて、一矢くんとは正反対。
一矢くんは見た目はクールで、怒っているのかなって程無表情。でも一度表情が乗ると、ギャップもあってかとても格好いい。
「大丈夫? 抱えようか?」
しかも包容力あり。どんなわがままを言っても全部受け止めてくれそう。
「大丈夫。あ、でもちょっと洗面所借ります」
紗矢さんは、悪阻のせいでまだ気持ちが悪いようだ。
心配そうについていくが、ドアを閉められて寂しそうな旦那さんからは溢れんばかりの愛情が感じられた。
こんな風な旦那さんだったら結婚したら間違いなく幸せだな。
私がじっと見ていたのに気づいたのか、こちらをみて首を傾げ優しく微笑まれた。
「ごめんね。急に来て、俺まで家に上がらせてもらって」
「いえ――。いえ……あのう、一矢くんの家庭教師をされていたってことは、今でも仲がいいんですよね」
「そうだけど」
「一つ、聞きたいことがあるんですが」
「なんでもどうぞ」
ふわわんって効果音が付きそうなほど優しい笑顔。
裏表なくこの人は穏やかな性格なのかなって思う。だからちょっと胸が痛んだけど、カマをかけてみたいと思ったんだ。
「うちの祖父や母がご迷惑をかけてないかなと。私は病院勤務じゃないし全く関係ない仕事だから紗矢さんたちとは関りがないから、普段のうちの親とか結構、その……気が強いですし」
「そんなこと、ありませんよ」
大丈夫ですよ、と言いながら、洗面所から聞こえてくる水の音に瞬時に反応した。
紗矢さんのことを気にかけつつ、私にも丁寧に応えてくれていた。
「でも、紗矢さんたちは知らないかもしれないけど、母と一矢くんは」
「ああ。中学時代に傷つけた女性が貴方だと一矢くんから聞いてますよ」
息を飲みそうになった。でもここで驚いたら色々と聞きだせなくなる。
「そのことで母と一矢くんってどうやって仲が上手く行ったのか、全然想像できなくて」
「それは――」
紗矢さんが小さく嘔吐くような声がして、一瞬静かになった。
私も我に返る。彼女が悪阻で苦しいときに、旦那さんから情報を聞き出そうとするなんて。
「すみません。紗矢さんが大変な時に自分の話ばかり。落ち着いたら、また遊びに来てください」
「でも海外の最新医療機器を大量購入したためにお金がないって話だったのに」
「それって数年前の話ですよね。とっくに全て綺麗にされてるはずです」
えーっと。
なんだろう。話がかみ合わない。
お互い、同じ名前の違う人の話をしているような。
プライドの高い母が、私に縋りつくぐらい経営が傾いてるって話だったはず。
「あ、喬一さんがエントランスに来たみたいです」
携帯画面を見て幸せそうに微笑む紗矢さんを見たら、これ以上は突っ込まない方がいいかなと口を閉じだ。
妊娠中の人に、いくら偽装とはいえ義姉の実家が経営傾いてて改装費払えずに全て一矢さんが払ったと知ったら驚くだろうし。
「あの、旦那様もよかったら上がってください。まだ紗矢さん、顔色が優れないし」
紗矢さんの旦那さんは、眼鏡をかけた知的な男性で、柔らかく笑うのが印象的だった。
常に優しそうなオーラを見にまとっていて、一矢くんとは正反対。
一矢くんは見た目はクールで、怒っているのかなって程無表情。でも一度表情が乗ると、ギャップもあってかとても格好いい。
「大丈夫? 抱えようか?」
しかも包容力あり。どんなわがままを言っても全部受け止めてくれそう。
「大丈夫。あ、でもちょっと洗面所借ります」
紗矢さんは、悪阻のせいでまだ気持ちが悪いようだ。
心配そうについていくが、ドアを閉められて寂しそうな旦那さんからは溢れんばかりの愛情が感じられた。
こんな風な旦那さんだったら結婚したら間違いなく幸せだな。
私がじっと見ていたのに気づいたのか、こちらをみて首を傾げ優しく微笑まれた。
「ごめんね。急に来て、俺まで家に上がらせてもらって」
「いえ――。いえ……あのう、一矢くんの家庭教師をされていたってことは、今でも仲がいいんですよね」
「そうだけど」
「一つ、聞きたいことがあるんですが」
「なんでもどうぞ」
ふわわんって効果音が付きそうなほど優しい笑顔。
裏表なくこの人は穏やかな性格なのかなって思う。だからちょっと胸が痛んだけど、カマをかけてみたいと思ったんだ。
「うちの祖父や母がご迷惑をかけてないかなと。私は病院勤務じゃないし全く関係ない仕事だから紗矢さんたちとは関りがないから、普段のうちの親とか結構、その……気が強いですし」
「そんなこと、ありませんよ」
大丈夫ですよ、と言いながら、洗面所から聞こえてくる水の音に瞬時に反応した。
紗矢さんのことを気にかけつつ、私にも丁寧に応えてくれていた。
「でも、紗矢さんたちは知らないかもしれないけど、母と一矢くんは」
「ああ。中学時代に傷つけた女性が貴方だと一矢くんから聞いてますよ」
息を飲みそうになった。でもここで驚いたら色々と聞きだせなくなる。
「そのことで母と一矢くんってどうやって仲が上手く行ったのか、全然想像できなくて」
「それは――」
紗矢さんが小さく嘔吐くような声がして、一瞬静かになった。
私も我に返る。彼女が悪阻で苦しいときに、旦那さんから情報を聞き出そうとするなんて。
「すみません。紗矢さんが大変な時に自分の話ばかり。落ち着いたら、また遊びに来てください」
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