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四、ウソツキ、嘘つき、うそつき
四、ウソツキ、嘘つき、うそつき⑦
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「なんで変わったの。さっきの男?」
しっかり見られていたのも気まずい。店の方へ歩いていくも行先も全く同じなのも気まずい。
「まあ、あんな柔らかい表情の華怜ちゃん初めてみたから、一瞬でわかったけどね」
女性と遊んでいると評判で、美容師なのでコミュ力の高い彼には、私みたいな人間は嘘を付けそうにない。
「さっきの人が、例の親が決めた結婚相手です」
「そうだろうね。で、君の男性恐怖症を取り払ってくれた人と」
それは語弊があるけれど、そこまで他人に突っ込んだ話をして引かれないかもわからない。
「……彼のせいで男性恐怖症になって、彼のおかげで克服したって、10年以上男子と話すのが怖かったのが嘘みたいに思えちゃうじゃないですか」
「え、原因の相手と結婚しないといけないの? こっわ」
色々と原因があったし意地になった部分もある。
でも、客観的に見てもやはりおかしいよね。何をやってるんだ、私は。
感情的に行動して、傍から見たら馬鹿な女に見えるだろう。
「長くのばしていた髪は、彼のためだったんです。彼が褒めてくれたから。でもハサミで切られた。理由も聞かずに私は逃げて、髪を伸ばすのも男性と話すのも怖くなって、こんな歳まで、男性に酷い態度をとってきました」
「……なるほど」
一瞬、歩いていた足を止めたけれど、辻さんは空を見上げて頷く。
「髪を切られたら怖いわあ。そりゃあ、美容師として、華怜ちゃんの気持ちが分かる。髪は女の命でしょ」
「少なくても、当時の私にはそうでした。でも、ショーットカットは楽ですよ、セットしなくていいし、好きな色に染めやすいし手入れも楽だし」
お洒落をしなくてもいい。自分の目で見える範囲でお洒落は楽しめばいい。
髪は、自分では見えない。だから手が良かった。一番、自分の視線に入ってくる指先が良かった。
誰のためじゃない。指先は自分が自分で楽しめるお洒落だ。
「それは今も変わらない考えなの?」
クスクスと笑うのは、私の子どもっぽい考え方かな。
人生経験豊かな辻さんには私の今の考えはきっと子どもっぽかったんだろう。
「今は……どうでしょうか」
「お洒落は相手に見てもらいたい、可愛い自分でいたい、少しでも綺麗になりたい、終わることのない欲望だよね。俺だって、流行ってるカラーにすぐ染めちゃうし」
辻さんは、今流行りのカラーとか、髪の手入れとか丁寧に教えてくれた。
女性との関係は派手なのかもしれないけど、それでも話上手で会話は苦ではない。
今まで男性だということで逃げてきたけど、普通に恋愛感情抜きの男性恐怖症抜きで話せば良い人なのかもしれない。
逃げていた先日までの私では気づけなかった。
「辻さんって良い人だったんですね」
店の前でしみじみと言うと、階段を上がっていた辻さんが噴出した。
「華怜ちゃんは、親が決めた婚約者がいるぐらいがちょうどいいよ」
「なんでですか」
「俺を良い人って言うのがね。世間慣れしてない」
俺は別にいいんだけどね、と笑いつつ曖昧な答えのまま去って行った。
良い人って言われて照れたわけじゃない。でも嬉しそうだったのに否定した?
やはり男性はわからないことばかりだ。
しっかり見られていたのも気まずい。店の方へ歩いていくも行先も全く同じなのも気まずい。
「まあ、あんな柔らかい表情の華怜ちゃん初めてみたから、一瞬でわかったけどね」
女性と遊んでいると評判で、美容師なのでコミュ力の高い彼には、私みたいな人間は嘘を付けそうにない。
「さっきの人が、例の親が決めた結婚相手です」
「そうだろうね。で、君の男性恐怖症を取り払ってくれた人と」
それは語弊があるけれど、そこまで他人に突っ込んだ話をして引かれないかもわからない。
「……彼のせいで男性恐怖症になって、彼のおかげで克服したって、10年以上男子と話すのが怖かったのが嘘みたいに思えちゃうじゃないですか」
「え、原因の相手と結婚しないといけないの? こっわ」
色々と原因があったし意地になった部分もある。
でも、客観的に見てもやはりおかしいよね。何をやってるんだ、私は。
感情的に行動して、傍から見たら馬鹿な女に見えるだろう。
「長くのばしていた髪は、彼のためだったんです。彼が褒めてくれたから。でもハサミで切られた。理由も聞かずに私は逃げて、髪を伸ばすのも男性と話すのも怖くなって、こんな歳まで、男性に酷い態度をとってきました」
「……なるほど」
一瞬、歩いていた足を止めたけれど、辻さんは空を見上げて頷く。
「髪を切られたら怖いわあ。そりゃあ、美容師として、華怜ちゃんの気持ちが分かる。髪は女の命でしょ」
「少なくても、当時の私にはそうでした。でも、ショーットカットは楽ですよ、セットしなくていいし、好きな色に染めやすいし手入れも楽だし」
お洒落をしなくてもいい。自分の目で見える範囲でお洒落は楽しめばいい。
髪は、自分では見えない。だから手が良かった。一番、自分の視線に入ってくる指先が良かった。
誰のためじゃない。指先は自分が自分で楽しめるお洒落だ。
「それは今も変わらない考えなの?」
クスクスと笑うのは、私の子どもっぽい考え方かな。
人生経験豊かな辻さんには私の今の考えはきっと子どもっぽかったんだろう。
「今は……どうでしょうか」
「お洒落は相手に見てもらいたい、可愛い自分でいたい、少しでも綺麗になりたい、終わることのない欲望だよね。俺だって、流行ってるカラーにすぐ染めちゃうし」
辻さんは、今流行りのカラーとか、髪の手入れとか丁寧に教えてくれた。
女性との関係は派手なのかもしれないけど、それでも話上手で会話は苦ではない。
今まで男性だということで逃げてきたけど、普通に恋愛感情抜きの男性恐怖症抜きで話せば良い人なのかもしれない。
逃げていた先日までの私では気づけなかった。
「辻さんって良い人だったんですね」
店の前でしみじみと言うと、階段を上がっていた辻さんが噴出した。
「華怜ちゃんは、親が決めた婚約者がいるぐらいがちょうどいいよ」
「なんでですか」
「俺を良い人って言うのがね。世間慣れしてない」
俺は別にいいんだけどね、と笑いつつ曖昧な答えのまま去って行った。
良い人って言われて照れたわけじゃない。でも嬉しそうだったのに否定した?
やはり男性はわからないことばかりだ。
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