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三、雷、雨、不器用に降り積もる。
三、雷、雨、不器用に降り積もる。⑥
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彼、貴方、あの人。
距離を置こうと逃げ回っていたのは私。
何度門前払いをしても私の仕事先に現れ、私の親と共謀して私を陥れた人。
お笑い番組が好きで、笑い上戸でソファを転がり落ちる陽気な面もある。
切れ長の目は冷たく感じるクールな人なのに、目元にある黒子が嫌に色っぽい。
私が合コンに行くのを、「俺は心が狭いので」ときちんと嫌だと意思表示をしてくれる人。
私が貴方のために必死で伸ばした髪を、あっさりと切った張本人なのに。
こうやって雷で震える私のために、肩を濡らして急いで帰宅してくれた優しい人。
色んな感情が頭の中をぐるぐる駆け回って、何が正解か分からない。
分からないから試させて。分からないから教えてほしい。
「――華怜」
呼び方が甘く吐息を混じらせて変わると、ソファを軋ませながら座りなおす。
私の目を見て、気持ちを推し量り、気持ちを読み取ろうとしてくる。
「試して」
私は、ただ知りたいだけ。
男性恐怖症と、自分で自分を偽って男性を遠ざけていた私が、どうしてあなたに触れられたのか。
逃げ場がないからと嫌々結婚すると決めたはずなのに、どうして貴方の意外な一面に気づく度に心が動揺しているのか。
教えて。
試して。
一矢は少し傷ついたように微笑んだ後、指先で私の唇をなぞり、落とすように唇を合わせた。
気づかなかったが、いつの間にか緊張して唇は乾いていた。
少女漫画さえ読まなかった私は、かさかさの唇に彼が何度も角度を変えて重ねてくるのをどうしたらいいのか自分の行動がわからない。
心臓は自分のものではないほど大きく高鳴って、両手は拳を作っていてあまりにも不格好だった。
そのうちに、小さく伸びた彼の舌が唇を舐め驚いて薄く開いた唇の中に舌が侵入してきた。
「――んっ」
これが鼻で息をしなければいけない状況。
いや、普段から鼻で息をしているのだけど、角度を変えるごとに深くなる口づけに、甘さとか感触とか何も思う間もなく、流されていく。
「ふ、ぁっ」
変な声が漏れた、と内心恥ずかしいのに、ずるずると彼の体重でソファの上、覆いかぶされていく。
慣れてる、なあ。この人、いったい、今まで何人の人とこんなことをしてきたんだろう。
私があなたに髪を切られてから、この人は何人の人をこうやって恋人として喜ばしてきたんだろう。
彼の手が後ろ頭を撫でて、耳を触りながら頬を撫でた瞬間。
口づけは熱いのに、動く舌は艶めかしいのに、体温が冷えていった。
ソファをずるずる落ちていく手を捕まえられたので、反対の手で彼を押した。
「聞いてない!」
「ん?」
「そんなに慣れてるなんて聞いてない!」
質問もしていなかったし、別に言うわけもないけど。
パニックになってそう言ってしまった。
口の中にまだ一矢くんの舌の感触が残っていて、どうしたらいいのかわからない。
触れた場所からぶわっと熱は生まれるのに、気持ちは冷えていくのはどうして。
「これでも恐る恐る触ったんだけど」
「恐る恐る触る人が舌なんていれないです」
「反応が可愛い」
全く謝るそぶりも見せず、悪びれもせずに言ってのけると、上体を起こしソファの隅に座った。
「でもキスの反応は嫌そうじゃなかったな」
クールで無口で、優しく笑う彼はどこに行った。
今、私の横で座っている一矢くんは、悪戯っ子みたい。
「――経験豊富なんですね。こんな反応だけで分かるなんて」
距離を置こうと逃げ回っていたのは私。
何度門前払いをしても私の仕事先に現れ、私の親と共謀して私を陥れた人。
お笑い番組が好きで、笑い上戸でソファを転がり落ちる陽気な面もある。
切れ長の目は冷たく感じるクールな人なのに、目元にある黒子が嫌に色っぽい。
私が合コンに行くのを、「俺は心が狭いので」ときちんと嫌だと意思表示をしてくれる人。
私が貴方のために必死で伸ばした髪を、あっさりと切った張本人なのに。
こうやって雷で震える私のために、肩を濡らして急いで帰宅してくれた優しい人。
色んな感情が頭の中をぐるぐる駆け回って、何が正解か分からない。
分からないから試させて。分からないから教えてほしい。
「――華怜」
呼び方が甘く吐息を混じらせて変わると、ソファを軋ませながら座りなおす。
私の目を見て、気持ちを推し量り、気持ちを読み取ろうとしてくる。
「試して」
私は、ただ知りたいだけ。
男性恐怖症と、自分で自分を偽って男性を遠ざけていた私が、どうしてあなたに触れられたのか。
逃げ場がないからと嫌々結婚すると決めたはずなのに、どうして貴方の意外な一面に気づく度に心が動揺しているのか。
教えて。
試して。
一矢は少し傷ついたように微笑んだ後、指先で私の唇をなぞり、落とすように唇を合わせた。
気づかなかったが、いつの間にか緊張して唇は乾いていた。
少女漫画さえ読まなかった私は、かさかさの唇に彼が何度も角度を変えて重ねてくるのをどうしたらいいのか自分の行動がわからない。
心臓は自分のものではないほど大きく高鳴って、両手は拳を作っていてあまりにも不格好だった。
そのうちに、小さく伸びた彼の舌が唇を舐め驚いて薄く開いた唇の中に舌が侵入してきた。
「――んっ」
これが鼻で息をしなければいけない状況。
いや、普段から鼻で息をしているのだけど、角度を変えるごとに深くなる口づけに、甘さとか感触とか何も思う間もなく、流されていく。
「ふ、ぁっ」
変な声が漏れた、と内心恥ずかしいのに、ずるずると彼の体重でソファの上、覆いかぶされていく。
慣れてる、なあ。この人、いったい、今まで何人の人とこんなことをしてきたんだろう。
私があなたに髪を切られてから、この人は何人の人をこうやって恋人として喜ばしてきたんだろう。
彼の手が後ろ頭を撫でて、耳を触りながら頬を撫でた瞬間。
口づけは熱いのに、動く舌は艶めかしいのに、体温が冷えていった。
ソファをずるずる落ちていく手を捕まえられたので、反対の手で彼を押した。
「聞いてない!」
「ん?」
「そんなに慣れてるなんて聞いてない!」
質問もしていなかったし、別に言うわけもないけど。
パニックになってそう言ってしまった。
口の中にまだ一矢くんの舌の感触が残っていて、どうしたらいいのかわからない。
触れた場所からぶわっと熱は生まれるのに、気持ちは冷えていくのはどうして。
「これでも恐る恐る触ったんだけど」
「恐る恐る触る人が舌なんていれないです」
「反応が可愛い」
全く謝るそぶりも見せず、悪びれもせずに言ってのけると、上体を起こしソファの隅に座った。
「でもキスの反応は嫌そうじゃなかったな」
クールで無口で、優しく笑う彼はどこに行った。
今、私の横で座っている一矢くんは、悪戯っ子みたい。
「――経験豊富なんですね。こんな反応だけで分かるなんて」
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