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一、過去系両想い

一、過去系両想い⑨

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 コロコロと転がるユニコーンは、苦情の顔を私に向ける。

 が、全く無反応の彼をよく観察すると、寝息を立てていることに気づいた。

「信じられない」

考えると言いながら、実は眠っていたことに気づくのは予約のお客が帰った後だった。

「あのう、お店、終わったんで帰っていただけますか?」

 もう一度、強い口調で声をかけると、一瞬ガクっと大きく首を揺らして彼が顔を上げた。

「あ――、すまない。最近、眠る時間がなくて」

 じゃあ私に構わないで、さっさと帰って寝ればいいのに。

「今、お店に貴方と二人きりなので、一度店を出てくれませんか?」

「なんで?」

 眠そうに前髪を掻き上げて、立ちあがろうとした彼に、私は良い慣れた言葉を投げかけた

「怖いからです。――貴方なら分かるんじゃないですか?」

 眠そうだった目は、急に大きく見開いた。

 そして私をゆっくりと見る。

「私、貴方がこれ以上近づいたら、失神か発狂するかもしれませんよ」

「……失神か。したね、あの時」

立ち上がって少し考えてから、彼は私の目をじっと見て、首を傾げた。

「さっき言ったけど、俺と結婚してほしい」
「……まだ言いますか。信じられない」

 危害をくわえてきそうなそぶりはないし、落ち着いた声のトーンに、怖いという感情はない。

でも、結婚してほしいという言葉には、抵抗があった。

「10年以上ぶりですよね。なんで突然会いに来て、結婚なんですか? 過去の贖罪? 男性恐怖症になった私に責任を感じてるの?」

「……分からない」

転がっていたユニコーンのぬいぐるみを持つと、近くのテーブルの上に置いた。

数分前、自分の顔に投げられたものとも知らずに、真ん中に座らせている。

「君が女子校に行ってから、誰も連絡が取れなくなったって聞いていた。あそこ戒律が厳しいし、美里さんがまだ連絡が取れていたとは知らなかった」

 確かに私の通う女子校は、駅まで園バスの送迎、携帯電話の所持は禁止、見つかった場合は退学、高校からは女子寮、華美な服装、化粧禁止と色々細かい校則があった。

 でも単に私が誰とも連絡を取りたい気分ではなかった。誰とも会いたくなかっただけ。

「美里は、連絡が取れなくなった私のために日曜のミサに参加して、手紙をくれたの」
「……君が男性恐怖症で、未だに同級生と会わないと聞いて、胸が苦しくなって、――君の綺麗な髪が涙のように散らばるあの記憶で胸が押しつぶされそうになった」

 ぬいぐるみを見つめていた彼が、再び私を捉えた

「同情なのかわからない。過去の贖罪なのかも俺には判断できない。ただ一目会って、この気持ちを昇華したかった。でも会ったら」

 困ったように眉を下げ、苦笑する。

「会ったら、綺麗な君を見て自然と言葉が出ちゃった。ああ、俺、結婚したいなって」

「……帰ってください」

「なんでそんな言葉を言っちゃったかなって考えてたら、眠っちゃった」

――ごめん。

 簡単に謝られ、どうしていいのか分からなくなった。

 悪びれもせず、自分でも原因も分かっていない気持ちを私に押し付けてきただけだ。

「つまり、外見で判断したんですね」

「まあ一目ぼれって外見だろうね。ヤンキーが子犬を拾ってる場面は、外見って言うかギャップだろうけど」

 なぜか彼は自分で言って、ククッと小さく笑った。今、どこに笑う要素があったのか分からない。
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