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一、過去系両想い
一、過去系両想い⑥
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先輩のネイリストの美香さんは、両手で数万かけたネイルを手入れしながら、コンビニのサンドイッチを休憩室のテーブルに並べた。
私のお弁当を見て、驚いている。
「美香さんは家事、どうしてるんですか?」
「私は実家だもん。何もしないよ。毎月、ネイルでお金やばいしね。華怜は実家遠いの?」
「えっとまあ」
卵焼きを食べつつ、曖昧に笑う。
親は昔から私に甘く、何かあればヒステリックな行動をしがちだ。
なので私の情報が入らないぐらいの距離をとらなければいけない。
「華怜も結婚願望ないなら実家で貯金すればいいのに。楽よ」
「一人の方が落ち着くんです」
「へえ。まあ誰にも文句言われないのは楽か」
美香さんはうんうん頷いた後、長い爪で丁寧にサンドイッチの包装をとっていく。
口調はズバズバ言うのできつく見られがちだけど、否定しないしお客の悪口も言わないので美香さんは話しやすかった。
「でもさあ、華怜って雷駄目で――」
チリンチリンと入り口のドアが鳴った。
この時間は休憩中なので鍵をかけているはずが、どうやら看板もそのままでドアは開いていたらしい。
それでも看板には休憩中の時間が見えるはずなのに。
「午後一番のお客さまってだれだっけ。あ、私のお客か」
予約リストを確認して、美香さんが立ち上がった。
そしてお店の方へ戻っていく。私は二つ目の卵焼きを頬張って、携帯で一週間の天気予報を確認していた。
残念ながら今日は午後から雨らしい。雷マークが見えるのは週末だった。
「華怜」
「はい」
ひょいっと休憩室の入り口から美香さんが顔を出す。
頭の上で結んでいたポニーテールが大きく揺れた。
「なんか、あんた目当てのお客だったから追い返しといた」
「えええ? なんでですか」
美香さんは言いにくそうだったけど、休憩室に入って窓を指さした。
「男だったの。ほら、あの人」
「え……」
「華怜って、上のヘアサロンのイケメンの辻さんの食事の誘いも頑なに逃げ回ってたじゃん。あの人もイケメンだったけど、なんか駄目かなって」
窓から見ると、店の前の信号で立ち止まっているスーツ姿の人がいた。
店に背を向けているので顔は分からないが、隣に立っているOLより頭二つ高い。
足の長さも規格外。紺のストライプのスーツはオーダーなのか体のラインを綺麗に浮かばせていて着こなしていた。
「辻さんなんて目じゃないぐらいイケメンだったよ。知り合い?」
「いえ。男性の知り合いは居ません……けど」
『一矢くんがお店に来なかった?』
美里の言葉が脳裏を駆け巡った。
あの人なのだろうか。背中を見ても面影も思い出も何も見つけられなかった。
「あ、帰れって言った時に、レジに名刺置いていったわ。忘れてた」
「……なんとか一矢、だったらゴミ箱に捨ててください」
「そう?」
再び店の方へ戻ると、美香さんはすぐに戻ってきた。
「南城 一矢だった。医療機器メーカーの社長だって。私より年下っぽかったのに」
「捨ててくれましたか?」
美香さんはため息をついた後、頷いた。
「そうか。あんたは恋愛から逃げてる子だったわね」
それ以上はその話はせずに、再びサンドイッチに手をつけた。
私たちが食べ終わるころには、雨が再びアスファルトに叩きつけだしていた。
私のお弁当を見て、驚いている。
「美香さんは家事、どうしてるんですか?」
「私は実家だもん。何もしないよ。毎月、ネイルでお金やばいしね。華怜は実家遠いの?」
「えっとまあ」
卵焼きを食べつつ、曖昧に笑う。
親は昔から私に甘く、何かあればヒステリックな行動をしがちだ。
なので私の情報が入らないぐらいの距離をとらなければいけない。
「華怜も結婚願望ないなら実家で貯金すればいいのに。楽よ」
「一人の方が落ち着くんです」
「へえ。まあ誰にも文句言われないのは楽か」
美香さんはうんうん頷いた後、長い爪で丁寧にサンドイッチの包装をとっていく。
口調はズバズバ言うのできつく見られがちだけど、否定しないしお客の悪口も言わないので美香さんは話しやすかった。
「でもさあ、華怜って雷駄目で――」
チリンチリンと入り口のドアが鳴った。
この時間は休憩中なので鍵をかけているはずが、どうやら看板もそのままでドアは開いていたらしい。
それでも看板には休憩中の時間が見えるはずなのに。
「午後一番のお客さまってだれだっけ。あ、私のお客か」
予約リストを確認して、美香さんが立ち上がった。
そしてお店の方へ戻っていく。私は二つ目の卵焼きを頬張って、携帯で一週間の天気予報を確認していた。
残念ながら今日は午後から雨らしい。雷マークが見えるのは週末だった。
「華怜」
「はい」
ひょいっと休憩室の入り口から美香さんが顔を出す。
頭の上で結んでいたポニーテールが大きく揺れた。
「なんか、あんた目当てのお客だったから追い返しといた」
「えええ? なんでですか」
美香さんは言いにくそうだったけど、休憩室に入って窓を指さした。
「男だったの。ほら、あの人」
「え……」
「華怜って、上のヘアサロンのイケメンの辻さんの食事の誘いも頑なに逃げ回ってたじゃん。あの人もイケメンだったけど、なんか駄目かなって」
窓から見ると、店の前の信号で立ち止まっているスーツ姿の人がいた。
店に背を向けているので顔は分からないが、隣に立っているOLより頭二つ高い。
足の長さも規格外。紺のストライプのスーツはオーダーなのか体のラインを綺麗に浮かばせていて着こなしていた。
「辻さんなんて目じゃないぐらいイケメンだったよ。知り合い?」
「いえ。男性の知り合いは居ません……けど」
『一矢くんがお店に来なかった?』
美里の言葉が脳裏を駆け巡った。
あの人なのだろうか。背中を見ても面影も思い出も何も見つけられなかった。
「あ、帰れって言った時に、レジに名刺置いていったわ。忘れてた」
「……なんとか一矢、だったらゴミ箱に捨ててください」
「そう?」
再び店の方へ戻ると、美香さんはすぐに戻ってきた。
「南城 一矢だった。医療機器メーカーの社長だって。私より年下っぽかったのに」
「捨ててくれましたか?」
美香さんはため息をついた後、頷いた。
「そうか。あんたは恋愛から逃げてる子だったわね」
それ以上はその話はせずに、再びサンドイッチに手をつけた。
私たちが食べ終わるころには、雨が再びアスファルトに叩きつけだしていた。
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