上 下
20 / 34
水曜日 ドラガンと一杯やってな! 日本語って素敵!

水曜日 ドラガンと一杯やってな! 日本語って素敵! 1

しおりを挟む

「 栄養偏るでしょっ うちで皆で食べるわよー!」
 アルジャーノンへの帰路で千景に遭遇した二人は納豆ご飯、卵かけご飯にすると言うと怒鳴られた。店長は平謝りしつつカフェへ逃げ込み、みかどは着替えて手伝いに向かった。
 道を歩いている音にしては、良く響く下駄の音がする。
「どうしました?」
 階段で立ち止まっていたみかどの後ろに、店長が現れた。咄嗟に首を振る。
「髪の毛下ろすだけで、女の子は印象変わりますね。制服も普段着も、可愛らしいです」
 ニコニコ言うけど、深い意味はなさそう。薄暗くて良かったとみかどはしみじみと思う。免疫のないせいで多分、今、顔が真っ赤だ。
「お兄さんも和服素敵です。今日はどうなさったんですか」
「水曜日は、和風喫茶になるんです。お茶と俳句を嗜むのでこんな格好です。みかどちゃんも団子屋の娘みたいに可愛い着物がありますよ」
「ジーザスクライスト!」
 二人が頬を染めほのぼのと会話している中、下から断末魔のような悲鳴が上がった。二人が慌てて降りて行くと、そこにはミニスカに谷間全開の千景が、二人の為に夕食を作っていた。
 何故かカフェのキッチンで。それに悲鳴を上げているのは金髪の外国人だった。金髪の長い髪を束ね、肩に流し、色っぽく浴衣を着ている外国人さん。碧眼で色白で、ハンサムだ。思わずみかども声を失うほど見惚れたが、    王子は顔を見るみるうちに歪め、真っ青にした。
「儂の働く水曜に、そんな恐ろしいモノを持ちこむなんて! 花魁は見た目も派手で下品だが、それは許しがたい!」
 何度も何度も指を胸の前でクロスさせ祈ると、カフェの奥へ逃げて行った。
「何よ。人を見れば花魁花魁馬鹿にしやがって」
 千景は鼻息を荒くしながら、手に持っているモノを見てにたりと笑う。間違いなく、故意だ。納豆をねばねばと掻き混ぜて、卵とネギが入った器に移して行く。
 水菜とじゃこのサラダ、大根と油揚げのお味噌汁、そしてハンバーグをカウンターに並べてくれていた。
「どうせ今から和歌の歌合せやら本能寺の変ごっこやら、22時過ぎまでこのカフェ開いたままなのよ。こっちも自由にやりましょう」
「でも、今の方も上の階に住んでいるのでしたら挨拶したいのですが」
 和服を着こなす綺麗な王子様だった。火曜日のリヒトとトールといい、このカフェにはイケメンしかいないのかとみかども驚きを隠せない。
「そうねえ。じゃあ私はもう一品作ってあげるから鳴海さんにお願いするわ」
 どうもあの人と千景は相性が悪いようだ。代わりに店長は嬉しそうに引きうける。店長の後ろをついて行く、先ほどの人は茶会を開いていた。赤い布が壁一面にかけられ壁側の本棚完全に隠れる中、下に赤い絨毯を引き、茶会を開きながら俳句らしきものを読んでいる。
「ながきよのとをのねぶりのみなめざめなみのりぶねのおとのよきかな」
 外人がそう読むと、座っている50~70代の奥さま方が拍手喝采している。
「この日本語。この日本語の美しさはもう説明などいらぬだろう。そう反対から読んでも全く同じ! つまりこの文は回文! 今日、銭湯友達のお爺さんに教えてもらって、目眩がするぐらい美しい日本語に酔いしれてしまい……」
 そういうと、どんどんおこちょに日本酒を継いで飲みだした。
「今日はそんな美しい回文を作ろうと思う!」
「匂う鬼」
 誰かが挙手してそう言うと、大喝采が再び起こった。
「美しい日本語だ!」
「けだるき一日、生きるだけ」
「うむ。素敵だ」
「確かに貸した」
「カツラが落下」
「世の中ね顔かお金かなのよ」
「美しくない! 日本特有の美しいものを露わさなけらば!」
「あのう。ドラガンさん、ちょっと宜しいですか?」
 お客が回文をスマホで検索したり頭を傾げながら考えている今だと、店長は外人とみかどを対面させた。
「この子、201号室に入ったからよろしくね。楠木みかどちゃん。可愛いでしょ?」
 心なしか、ドラガンと呼ばれた外国人は色白の肌なのに、頬が桃色になっている。もしかして、お酒に酔っているのだろうかと、みかどは鼻で小さくクンクンする。 やはり若干お酒臭い。
「大和撫子発見! なんばこげなトコさ、居たんだべさ!」
 方言が色々混ざってると思ったら、目が座りだした。やはり 完全に酔っているようだ。
「黒髪に、控えめな物腰!。まさしく日本のことわざの『立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花』じゃ!」
 そして、下駄の音を響かせながらキッチンの千景を見る。
「そんな胸ば強調して、花魁は恐ろしかぁ~。お千のせいで、大和撫子は絶滅したと、諦めとったとばい」
「あっら~? お酒に酔ってるからって本音を出して良いわけじゃないのよぉ? 」
 笑顔の千景が突き出したのは、納豆。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

フリー声劇台本〜モーリスハウスシリーズ〜

摩訶子
キャラ文芸
声劇アプリ「ボイコネ」で公開していた台本の中から、寄宿学校のとある学生寮『モーリスハウス』を舞台にした作品群をこちらにまとめます。 どなたでも自由にご使用OKですが、初めに「シナリオのご使用について」を必ずお読みくださいm(*_ _)m

校外でツーきゃん(校外でツーリングキャンプ)

秋葉 幾三
キャラ文芸
学校生活、放課後とかソロキャン好きの少年と引っ込み思案の少女の出会いから始まる物語とか。 「カクヨム」でも掲載してます。(https://kakuyomu.jp/works/1177354055272742317) 「小説家になろう」サイトでも簡単な挿絵付きで載せてます、(https://ncode.syosetu.com/n9260gs/) hondaバイクが出てきます、ご興味ある方は(https://www.honda.co.jp/motor/?from=navi_footer)へ。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

龍神様の婚約者、幽世のデパ地下で洋菓子店はじめました

卯月みか
キャラ文芸
両親を交通事故で亡くした月ヶ瀬美桜は、叔父と叔母に引き取られ、召使いのようにこき使われていた。ある日、お金を盗んだという濡れ衣を着せられ、従姉妹と言い争いになり、家を飛び出してしまう。 そんな美桜を救ったのは、幽世からやって来た龍神の翡翠だった。異界へ行ける人間は、人ではない者に嫁ぐ者だけだという翡翠に、美桜はついて行く決心をする。 お菓子作りの腕を見込まれた美桜は、翡翠の元で生活をする代わりに、翡翠が営む万屋で、洋菓子店を開くことになるのだが……。

処理中です...