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岳リン、みかどを追って走る!

岳リン、みかどを追って走る! 2

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「帰っちゃうんですか!?」
「面倒で、携帯置いて来ちゃったし……。今日は縁がなかったんだよ、きっと」
 そう言って、俯いた葉瀬川は、なかなか情緒溢れる切ない顔をしていました。でも、俯いた先に見えるのは、手に握られた週刊少年スキップ。そもそも携帯しなきゃ携帯って言わないのではないだろうか。。
「やっぱり帰ろー。君は?」
「私は待ち合わせしてるので。あの、携帯貸しましょうか? せめて帰る連絡だけでも」
 携帯を差し出すと、葉瀬川は頭をガシガシ掻いた。面倒臭そうに悩んでいるが、悩む事だろうか。掴みどろころない雰囲気に、みかどは緊張してしまっていた。
「……番号、知らない」
 脱力していたら、突然携帯を後ろから取り上げられた。
「……はぁっはぁっ こ、れで逃げれ、ないぞ はぁっ」
 息を切らし、汗だくなこの人物は、さきほど駅で置いて来てしまった『くれんじがくり』。みかどの背中に冷たい汗が走る。
「岳リン、遅刻だから今日は岳リンの奢りねー」
 動じない葉瀬川はゆるりとそう言うが、岳さんは葉瀬川を見ない。
「お、前、さっきは…はぁっはぁっ よく、も」
 流れる汗を拭いながら、前屈みで息を吐きただただみかどを睨む。
「お詫、びに、はぁっちょっと、つき、あえ……」
 そう睨まれ、みかどは手にしていた植物図鑑を持って固まってしまう。
「岳リン、はぁはぁ気持ち悪いー。君、逃げなさいよ」
「ちょっ おじさん!」
 まだ息を切らしていた人は、葉瀬川に怒鳴るとみかどを再度睨む。そして、一歩、一歩、近いてくる。伸ばされた大きな手が、彼女に恐怖を与える。
「きゃああああっ」
 植物図鑑を投げつけると、本日2回目の猛ダッシュでみかどは逃げ出した。
「おお、逃げろー逃げろー。お店の店員さーん、ここにストーカーが居ますよー」
 遅刻された葉瀬川は、実は怒っていたらしく謝りもしない岳リンに空気の読めない意地悪をしてくれた。本日二回目の警察のお世話は向こうも避けたいはずだ。おかげで逃げ出せたが植物図鑑をもう少し見て居たかったとみかどは思っていた。何とかホームセンターに着くとすぐに女子トイレへ隠れる。トイレには、センター内の案内図も貼られており、もしもの為に逃げ場所も確保する。(何故あの人は執拗に怖い顔で私を追いかけるのだろうか)敵意を向けられている様で恐怖しか感じていないみかどには理由が分からない。
「あー、ママ。このハートのサボテン可愛い!!」
 外トイレから出ると、直ぐに園芸コーナーが見えた。小さな鉢植えに、可愛いサボテンが植えられ、並べられている。
「そーねぇ。サボテンって確かお水あげなくて良いのよねぇ」
 親子連れが、サボテンを選んでいると店員さんもにこやかに話しかけていた。
「2、3週間に一度、ティスプーン一杯のお水で大丈夫ですよ。それにサボテンは水を貰えない方が、子孫を残そうと早く花を咲かせるんですー」
「あらー、じゃあ1つ選びましょうか」
 なかなか残酷な話ではある。花を咲かせる為に、生命維持ギリギリしか水をあげないなんて。だがみかどはちがう。アルジャーノンの大輪を夢見て、あげすぎず、少なすぎず調節することを今の話を聞いて誓う。金鯱アルジャーノンは、60センチ以上になる場合もある故に、みかどは10号ぐらいの鉢植えに植え替えたいと植木鉢のコーナーへ向かう。携帯で鉢植えの値段をメモろうと鞄を漁るが、動きを止める。先ほどの岳リンという探偵に取られてしまっていたのだ。身内にしか教えてなかっものだし、買い替えよう。そう思いっきり顔を揚げて決意した時だった。
「探し物、これ?」
 目の前に出された携帯は、紛れもなくみかどのガラパゴス携帯。手作りのビーズのアルジャーノンつきだった。
受け取ろうとするが、上に空かされる。見上げると同時に腕をしっかり掴まれた。
「喋るな。やーっと捕まえた」
 口元を押さえられて、喋れないみかどは恐怖で固まった。先ほど出会った時よりも10歳はやつれ疲れ切った岳リンは、みかどを睨みつける。
「お前に話がある。単刀直入に言うと、鳴海の隣から出ていけっ」
 恐怖でじわりと目頭が熱くなりボケやた時だった。
「いいか、お前の――」
「姉ちゃん! 乗れっ」
「え!? きゃぁぁぁ!」
 いきなり現れた皇汰に、みかどは買い物カートに乗せられた。キキキキィィと小刻みよくタイヤがしなり、方向転換する。慌ててスカートを抑えると、そのカートで、岳リンに体当たりし倒し、尚且つ轢いて出口に向かった。
「そのまま、駐車場から家に戻って!」
「皇、きゃあああああ!!!」
 皇汰はみかどが乗ったカートを、勢いよく入り口から駐車場に飛ばした。みかどが体制を取り直し振り返った時には、新しいカートを持って岳リンとにらみ合っているにが見えた。(みかどの声にならない叫びは二人人届かない。
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