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火曜日 リヒト&トールこの世に生まれてきたすべての女性が愛しい。
火曜日 リヒト&トールこの世に生まれてきたすべての女性が愛しい。3
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「みかどちゃん、お水です」
みかどを覗き込む店長が、優しく首を傾げる。記憶の片隅から聞こえる凍てつく声とは裏腹に、その声は優しい。渡されたお水は冷たくて美味しくて、みかどの涙線は簡単に崩壊していった。
「許してあげて下さいね。理人さんも透さんも、十二人兄弟の長男で、女の子が兄弟で欲しかった反動で、あんなに女の子に執着してるんですよ」
それを聞き、やはりあの二人は本当の兄ではないのだと項垂れる。でもあの二人の妹に生まれたら――きっと幸せに違いない。
「カフェそっちのけで忙しそうですもんね」
「そう! 理人さんも透さんも中学卒業後、弟さんたちの為に就職したんですが、理人さんは今のお店の人に援助して貰って、大検取って、専門学校行って就職。透さんも大検取って、夜間働いて、昼は学校。2人とも、一番下の 弟が高校卒業するまで仕送りするみたいですよ」
二人の楽しそうな様子からは、そんなに頑張って苦労してる様子も見えない。だが、――いや、だからか。だから、2人は綺麗なのかもしれない。芸能人みたいに輝いてたのは努力や優しさや頑張りがにじみ出ていたのだろう。
「すみません。ご迷惑かけてしまって」
謝ると、店長は優しく笑って首を振った。
「私、このスカートもエプロンも着れて本当に嬉しい。可愛いです」
エプロンを眺める。お洒落は暗い過去を思い出させるが、二人のお陰でみかどはそのエプロンが大切になった。よく見たら、レースもあしらっているし、リボンもついていて可愛い。
「ふふふ。みかどちゃんが着るから可愛いんですよ。凄く、似合ってます」
みかどの顔が、いや、全身が真っ赤になる。嬉しくて真っ赤になったはずのみかどの目から、大粒の涙が込み上げてきて、だらだらと滝のように落ち出した。
その言葉は、嘘でも良いから聞きたかった言葉だった。可愛くないと自分を卑下し、オシャレなんて似合わないと諦めたみかど。勉強もできない自分は、オシャレなんて必要ないと心を閉ざしていた。だが、今、みかどは泣きながらあの時、父親から欲しかった言葉が何なのか分かった。否定の言葉じゃなくて、ただ認めて欲しかったと。ポロポロと流れる涙は、言葉にできない不器用な心の叫び声。店長が、みかどの涙にしてくれた。
「すみません。すみません。その、嬉しくて……」
そう言うと、少しだけ店長は安心したようだった。
「あー鳴海ん! みかどちゃん泣かせてる!」
「あ、みかどちゃん、駄目。目擦らないでね、腫れるよ」
店長は二人に怒られそうになったのをみかどは懸命に庇う。三人はみかどが泣き止むまで、隣でずっといてくれた。涙が少しずつ重い心を洗い流してくれる。昔を思い出して、ドロドロに傷つく馬鹿なみかども、店長や、リヒト、トールのように優しい心になりたいと思った。
「みかどちゃん、夜は、二人がリゾットとパスタ作ってくれるそうですよ」
そう店長が言うと、みかどは勇気を持って微笑みかえした。
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