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それからそれから。

それからそれから。一

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吐く息が、白く染まる。
結納が終わり、何か月も色々な書類を提出したり、日本の役所に提出するなら和訳、イギリス大使館に提出するなら英訳したり、――面倒くさい作業も終わり無事に私は『美麗・ブラフォード』の名前になった。半年以上かかって大変だった思い出しかない。

まさか結婚の準備の書類だけでもこんなに大変なんて。

なので本当に結婚したのかと思う。まだ実感がわかない。

「今日は小春日和で良かったね」

1月に入ってすぐ雪が延々と降り、寒い日が続いていた。
春月堂の和菓子を用いて、イギリス大使館で日本文化との交流イベントが行われる今日、雪が止み、久しぶりの晴れ渡った空が見える。


仕事中は食べ物を扱うから外しているけれど、あの日買いに行った指輪も完成している。


桔梗さんとマスクをした私は、幹太さんたちの御手伝いもせず、ぼうっと店番をしている。

「本当に晴れて良かったです。デイビーったら、昨日、ずっと照る照る坊主作ってたんですよ」

「あはは。可愛い可愛い」

晴くんが半年になると同時に、保育園へ預け仕事に復帰した桔梗さんは、私の愚痴を豪快に笑い飛ばしてくれた。


桔梗さんが半年で仕事に戻って来たのは、私の妊娠のせいかと謝ったら全然違うからと叱られてしまったのがつい最近で。


この春月堂も、幹太さんの提案で新しい企画でバタバタと忙しい中での大使館での御茶会の和菓子30箱の注文。
朝から幹太さんは色んな場所で指示出しをしているから、きっと彼は瞬間移動が使えるんだと思う。
いつの間にか違う場所に居る。

「おい、美麗」

例の瞬間移動の彼が、私たちの後ろから暖簾を掻きわけてやってくる。

確か、さっき店の入り口から出て行ったはずなのに。

「どうしました?」

もうすぐ八カ月の大きなお腹で振り返ると幹太さんは親指でくいっと後ろを示した。


「悪阻で餡の匂いが駄目なんだろ。店じゃなくて大使館に運ぶ手伝いの方と交代しろ」

私のマスクを見ながら心配げにそう言われたら、少し迷う。

「そうだよ。此処は私だけで良いから行っといで」

桔梗さんまでそんな事を言ってくれるのは嬉しいけど、仕事中のデイビーに会うのは未だにまだ少し照れてしまう。


「悪阻なのに無理して来るお前が悪い。帰らされたくないならさっさと車に乗れ」

「安全運転しなさいよ。美麗に何かあったら、デイビットさんが怖いわよ」

「当たり前だろ。早くしろ」

「はーい。桔梗さん、お願いします」

個人差があるとは言うものの、最近になって酷い悪阻が始まり仕事も休まなきゃいけない日が何日も続いてしまい今月で産休に入ることになってはいる。
けど、今日は忙しいの分かっていたからちょっとだけ無理してきていた。

忙しいはずなのにそんな私の事もしっかり見てくれている幹太さんには頭が下がりっぱなしだ。


「すいません」
「忙しい時に仕事を増やすな」

きつい言葉なのだけど、それが幹太さんの優しさなのだとこの一年近くで学んで分かっている。
だから素直に謝る。こうして周りに支えられて私は此処まで来れた。



「……お前だって早く産休に入りたかったろうに、店がごたついてて迷惑かける」

車にエンジンをかけて駐車場から出ると同時に幹太さんが切り出してきたソレは、半年前から頑張って来ている幹太さんらしい言葉で。
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