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甘い紅茶。

甘い紅茶。三

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母のそんな言葉も昔は、刃物のように怖かった。
美鈴とだってわだかまりが残ったかもしれない。
そんな日常を変えてくれたのは、彼だ。

桜の花びらのように、ふわふわ舞い落ちるように私の前に現れた彼。

今もこうして私の心を満たせてくれる。

「あの、お、お、お兄さんもぬいぐるみ作るって聞いたんですけど実は私も作ってて」

「え、美鈴も!?」

真っ赤な顔で、デイビーを兄と呼ぶと、人差し指を合わせてもじもじし出す。
美鈴も作ってくれるのは嬉しいし、三体揃うと個性的で可愛いと思う。

「じゃあ、分からない所は三人で教えあいましょうか」

デイビーもとても嬉しそうだった。

「麗子さん、美麗さん、春月堂の幹太さんが御祝いの和菓子を届けて下さいましたよ」
「ってよ、美鈴」
つんつんと着物を引っ張ると、美鈴の顔が拗ねた様子になった。

立花さんは「ああ、桜茶!」と叫ぶと台所へ消えてしまう。
結納の時に飲む桜茶を忘れていたらしく、母も血相を変えて台所へ入っていった。

なので和菓子を取りに、私とデイビーと美鈴が顔を出した。


「本日はおめでとうございます」


深々とお辞儀する幹太さんのその姿に違和感を感じた。
顔を上げて、幹太さんが少し優しい顔つきで私を見たから尚更。

「幹太さん、もうおじさまに認められたんですか?」

美鈴が身を乗り出し、うっとりした顔でそういうので漸く違和感に気付いた。
いつもの紺色の甚平の様な作業衣ではなく、真っ白な作業服。
帽子には、春月屋の家紋、桔梗の紋が描かれている。

「まあ、やっとな。これからは尚更気合いを入れていかなきゃいけない。今回みたいな無茶な注文にも対応できるようにな」

幹太さんは優しい顔つきではあるけれで、自分に厳しい姿勢は相変わらずだ。
真面目な幹太さんらしい発言に嬉しくなりつつも、和菓子の件は申し訳なかった。

「改めましておめでとうございます」
「いえいえ。こんな季節に桜すだれを注文してくる大物には感謝の気持ちでいっぱいです」

そんなに春限定の和菓子をお願いしたのを根に持っているのかちょっと言葉に刺は感じたものの、渡された和菓子は、見た目だけでも溜息がでるくらい美しかった。

和菓子の種類を覚えるために見ていた中で、とても綺麗で食べてみたいと思った和菓子。季節外れだったからおじさんに聞いたら出来ると言ってくれたのに。

幹太さんは、その季節が一番美味しい材料を使うから季節限定なんだと大激怒しておじさんに文句言ってたけど、おじさんは幹太さんより頑固だから譲らず結局作ってくれたんだ。

咲き乱れ舞う桜の華麗な姿を『桜すだれ』になぞり、桜葉入の道明寺羹にてあっさりとしたこし餡を包みこんだ和菓子。
ひな菓子や春の御祝いの席で人気が高い、春月屋の春の名物の一つでもあるのが頷ける、乱れ舞う桜を閉じ込めた美しい和菓子。

「幹太さんなら出来るだろうって麗子さんも太鼓判を押していたのですよ」

デイビーも大きな手のひらに桜すだれを乗せ、近づけたり離したりしてその美しさにうっとり眺めている。
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