上 下
52 / 71
デート記録と婚姻届。

デート記録と婚姻届 八

しおりを挟む
世界が広がっていく。
それに私は柔軟に変わっていけるのだろうか。


「ふふ。デイビットによろしくね、美麗ちゃん」

佐和子さんは笑う。
決めるのは、私だと。

三月に短大を卒業し、四月で21歳になり――放り出された世界で自由に。


したいこと、見つけた。あったのに飲み込んでいたんだ。



ーーー
ーー




家に帰ってゴロゴロ寝がえりばかりで、あまりよく眠れなかった。
寝なければお腹の子供にも悪いのに、私は。

道は一杯あって、もう自分で選んでもいいと今度は、選べる悩みが出来た。
それが、嬉しくわくわくしている半面、一人ではないからちゃんと相談しなきゃいけない。

自分勝手に好きに決められることなんて現実では限られていて難しいんだ。

そう思うと、頭の中がぐちゃぐちゃで自分が何に対して不安や不満があるのかさえ分からなかった。




「大丈夫ですか?」
だから、朝迎えに来たデイビーに不思議そうな顔をされても、へらりと笑うしかなかった。
何に大丈夫かと言われたのかと思ったけど、どうやら後ろにファスナーがあるワンピースを後ろ前に着ていたらしい。

「着せてあげましょうか? 後ろのファスナーは自分では上げられないでしょう」

「あ、はい、あの」

「脱がすのも、――上手いですよ」

「き、きゃー!」

デイビーは朝から彼らしさ全開でした。

私の叫びに美鈴が稽古場から顔を出し、私の服の後ろ前に顔を真っ赤にして脱衣場へ連行されてしまった。

美鈴の服を借りたのだから尚の事。

玄関でデイビーの笑い声を聞きながら、私は着替えて美鈴にファスナーを上げてもらったのでありました。


「悩み事ですか?」

「悩み事の整理がつかないことが悩みです」

デイビーの車に乗り込みながら、深いため息が出てしまった。

「じゃあ、後で観覧車にでも乗りながら聞きましょう」

「本当に乗るんですか!?」

何処に向かうか分からないまま、そう驚くとデイビーは当たり前だと言わんばかりに頷く。

「貴方も乗りたくなります。賭けても良いですよ」

「何を賭けるんですか」

いつもいつも、自信満々に賭けるけど賭けるものは大事なものなのだろうか。
私がデイビーの困るものを賭けに欲しいと言ったらどうするんだろう。

「そうですね。美麗は欲しいものとか無さすぎるし……何が喜ぶかな」

まずはそこからなんだ、とこそばゆい気持ちになりながら着いた先は、某有名ブランドのジュエリー店で車を止めると御店の店員がすぐに出迎えてくれていた。

「お待ちしておりました。ブラフォート様、此方です」


平日だからか、御客は見えなかったのに二階の個室へ案内された。
この前、美鈴の好きな芸能人が此処で結婚指輪を買っていたと騒いでいた所だ。
白を基調にした店内は、高級感が漂っている。綺麗な店員さんがチョコと紅茶を持ってきてくれて、私たちの前に置くと大きなファイルも取り出し開いた。


「ブラフォート様のお祖母様からから譲り受けたこの婚約指輪のデザインの変更と、結婚指輪の購入についての御話でよろしいでしょうか」
「はい。お願いします」
「!」

知らない、私、お祖母さまの婚約指輪なんて知らないよ!
うろたえる私の手を、デイビーは握るとウインクなんてして微笑む。

ビロードの箱を開くと、デイビーと同じ瞳の色のダイヤが輝く指輪が仕舞われていた。

「ロイヤルブルーサファイアって名前の宝石なんですが、この飴玉が乗っかっているような指輪のデザインがどうも私は古臭くて嫌なんです。それに服に引っかかっても危ないですし」

「えええ!? でもお祖母さまの大切なものなんじゃ」

「私が貰ったから私のものです」


「えええええ」


私が慌てている間に、どんどん話は進んでいき驚いてる暇なんてない。

色んなデザインを見せられ、私もいつの間にか興奮しながら選んじゃったけれども。
結局決まったデザインだと、宝石を削らなきゃいけないらしい。

削った宝石でイヤリングも作れるからと、パンフレットも貰ってしまった。


結婚指輪は、桜の花びらが舞っているような彫刻のデザインが何枚か既に出来ていて、桜に形どられたピンクダイヤを内側に埋めたいとのこと。


そのデザインを見た時、可愛くて息が詰まるかと思った。

でも一番うれしかったのは、デイビーが桜が舞う、あの初めての賭けの日を大事にしていることが嬉しかった。

だから、私からは指輪の内側にデイビーと同じ瞳の宝石も入れて欲しいと提案しただけ。

はっきり言って、分からないことばかりだからこんな風に説明してくれて意見を聞いたのちに何個かデザインを出してくれたりほぼ決めてくれていたのは嬉しかった。


「後は、結婚する日にちを内側に刻めば出来上がりですね」

「な、なんか恐ろしい金額だったのですが大丈夫ですか?」

満足げなデイビーの艶々した顔とは反対に私は見たこともない金額が並んでいて、未だにちょっと呆然としている。


「一生に一回なんですから、気にしないでください」

さ、行きましょうとデイビーは私の手を掴むとウキウキと歩いて行く。

ど、どうか、これ以上高額な場所には行きませんように!

私の願いを神様は叶えてくれたのか次に向かった場所は――手芸屋さんだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。 因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。 そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。 彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。 晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。 それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。 幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。 二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。 カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。 こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

冷徹御曹司と極上の一夜に溺れたら愛を孕みました

せいとも
恋愛
旧題:運命の一夜と愛の結晶〜裏切られた絶望がもたらす奇跡〜 神楽坂グループ傘下『田崎ホールディングス』の創業50周年パーティーが開催された。 舞台で挨拶するのは、専務の田崎悠太だ。 専務の秘書で彼女の月島さくらは、会場で挨拶を聞いていた。 そこで、今の瞬間まで彼氏だと思っていた悠太の口から、別の女性との婚約が発表された。 さくらは、訳が分からずショックを受け会場を後にする。 その様子を見ていたのが、神楽坂グループの御曹司で、社長の怜だった。 海外出張から一時帰国して、パーティーに出席していたのだ。 会場から出たさくらを追いかけ、忘れさせてやると一夜の関係をもつ。 一生をさくらと共にしようと考えていた怜と、怜とは一夜の関係だと割り切り前に進むさくらとの、長い長いすれ違いが始まる。 再会の日は……。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

極上の一夜で懐妊したらエリートパイロットの溺愛新婚生活がはじまりました

白妙スイ@書籍&電子書籍発刊!
恋愛
早瀬 果歩はごく普通のOL。 あるとき、元カレに酷く振られて、1人でハワイへ傷心旅行をすることに。 そこで逢見 翔というパイロットと知り合った。 翔は果歩に素敵な時間をくれて、やがて2人は一夜を過ごす。 しかし翌朝、翔は果歩の前から消えてしまって……。 ********** ●早瀬 果歩(はやせ かほ) 25歳、OL 元カレに酷く振られた傷心旅行先のハワイで、翔と運命的に出会う。 ●逢見 翔(おうみ しょう) 28歳、パイロット 世界を飛び回るエリートパイロット。 ハワイへのフライト後、果歩と出会い、一夜を過ごすがその後、消えてしまう。 翌朝いなくなってしまったことには、なにか理由があるようで……? ●航(わたる) 1歳半 果歩と翔の息子。飛行機が好き。 ※表記年齢は初登場です ********** webコンテンツ大賞【恋愛小説大賞】にエントリー中です! 完結しました!

社長の奴隷

星野しずく
恋愛
セクシー系の商品を販売するネットショップを経営する若手イケメン社長、茂手木寛成のもとで、大のイケメン好き藤巻美緒は仕事と称して、毎日エッチな人体実験をされていた。そんな二人だけの空間にある日、こちらもイケメン大学生である信楽誠之助がアルバイトとして入社する。ただでさえ異常な空間だった社内は、信楽が入ったことでさらに混乱を極めていくことに・・・。(途中、ごくごく軽いBL要素が入ります。念のため)

帰らなければ良かった

jun
恋愛
ファルコン騎士団のシシリー・フォードが帰宅すると、婚約者で同じファルコン騎士団の副隊長のブライアン・ハワードが、ベッドで寝ていた…女と裸で。 傷付いたシシリーと傷付けたブライアン… 何故ブライアンは溺愛していたシシリーを裏切ったのか。 *性被害、レイプなどの言葉が出てきます。 気になる方はお避け下さい。 ・8/1 長編に変更しました。 ・8/16 本編完結しました。

処理中です...