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桜の花弁の賭け
桜の花弁の賭け 二
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「ヤマトナデシコ」
不意に、舌足らずな日本語が聞こえてきた。
風と共に桜が舞う中、その優しい声は背中――応接間からした。
その声は、優しく包み込んでいくような心地よさで。
「泣いているのですね。どうされましたか?」
突然、視界が大きな陰で覆われた。着物の袖から片目だけ上げてそちらを見る。
「どうされました?」
次は流暢な日本語だったが、アクセントが独特で、日本人でないのはすぐに分かった。
「どうぞ、私の事など、お気になさらないで下さいませ。お客様ならばすぐに誰か呼びに」
「シー……」
優しい声で、黙るようにうながされ、やっとその人をまじまじと見た。
金髪碧眼、甘い笑顔を貼りつけた、外国人。
清潔そうな白のスーツをパリッと着こなし、太陽にキラキラと光る金髪をオールバックにしている。
おとぎ話のなかから抜け出してきたような、絵にかいた王子様、みたい。
素敵すぎて目が離せない。
その人が私に優しく笑いかける。甘い、という言葉が似合うようなとびっきりの甘い笑顔。
この本家は300年以上前から建てられた、文化遺産に指 定されている古い建物。二メートル近い外国人には天井に頭が着きそうなぐらい狭く窮屈そう。
「なぜ、可愛い小鳥さんは泣いているのかな?」
投げ捨てた扇を拾われそう笑われた。応接間の小窓が開いていた。
多分、母との約束で待たされている間、景観をと開けられたんだと思う。その景観を損なうような、声を上げて泣くことも許されないで、ただただ声を殺して泣く私の姿が見えて声をかけてくれた――優しい人。
だけど、今はその優しさは私を惨めったらしくするものでしかない。何も知らない人にしてみれば、この忌まわしい楔をほどけないのは理解できないはず。優しくされたって、逃げられない。
「貴方は、ここに自分の意志で来られたのですか? 自分で決めて、自分の足で」
「ええ。日本の文化にとても興味がありますので」
扇をひらひらと舞わせながら、その外国人は笑う。
ブランド品の白のスーツにネクタイに時計。その時計は百万はくだらない高級品。スーツだって見るからに生地からして良い物を使っているのが分かる。
父も母も、家の近所にある外国の大使館に招待される事が多かった。招待され、舞いを披露したり、書道の体験をさせたりと交流を任されていた。
だからうちには頻繁に外国人の来訪がある。
この人もそうなんだろうな。
お金持ちの御曹司が自由気ままにできるのを、私はただただ醜い嫉妬で見上げていたのかもしれない。
不意に、舌足らずな日本語が聞こえてきた。
風と共に桜が舞う中、その優しい声は背中――応接間からした。
その声は、優しく包み込んでいくような心地よさで。
「泣いているのですね。どうされましたか?」
突然、視界が大きな陰で覆われた。着物の袖から片目だけ上げてそちらを見る。
「どうされました?」
次は流暢な日本語だったが、アクセントが独特で、日本人でないのはすぐに分かった。
「どうぞ、私の事など、お気になさらないで下さいませ。お客様ならばすぐに誰か呼びに」
「シー……」
優しい声で、黙るようにうながされ、やっとその人をまじまじと見た。
金髪碧眼、甘い笑顔を貼りつけた、外国人。
清潔そうな白のスーツをパリッと着こなし、太陽にキラキラと光る金髪をオールバックにしている。
おとぎ話のなかから抜け出してきたような、絵にかいた王子様、みたい。
素敵すぎて目が離せない。
その人が私に優しく笑いかける。甘い、という言葉が似合うようなとびっきりの甘い笑顔。
この本家は300年以上前から建てられた、文化遺産に指 定されている古い建物。二メートル近い外国人には天井に頭が着きそうなぐらい狭く窮屈そう。
「なぜ、可愛い小鳥さんは泣いているのかな?」
投げ捨てた扇を拾われそう笑われた。応接間の小窓が開いていた。
多分、母との約束で待たされている間、景観をと開けられたんだと思う。その景観を損なうような、声を上げて泣くことも許されないで、ただただ声を殺して泣く私の姿が見えて声をかけてくれた――優しい人。
だけど、今はその優しさは私を惨めったらしくするものでしかない。何も知らない人にしてみれば、この忌まわしい楔をほどけないのは理解できないはず。優しくされたって、逃げられない。
「貴方は、ここに自分の意志で来られたのですか? 自分で決めて、自分の足で」
「ええ。日本の文化にとても興味がありますので」
扇をひらひらと舞わせながら、その外国人は笑う。
ブランド品の白のスーツにネクタイに時計。その時計は百万はくだらない高級品。スーツだって見るからに生地からして良い物を使っているのが分かる。
父も母も、家の近所にある外国の大使館に招待される事が多かった。招待され、舞いを披露したり、書道の体験をさせたりと交流を任されていた。
だからうちには頻繁に外国人の来訪がある。
この人もそうなんだろうな。
お金持ちの御曹司が自由気ままにできるのを、私はただただ醜い嫉妬で見上げていたのかもしれない。
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