41 / 63
五、乱入者。
五、乱入者。⑦
しおりを挟む「意地でもないし、見栄でもないし、人の意見に左右されているわけじゃないの。価値観なんて、人それぞれだし。……うん。美鈴ちゃんのお陰でなんか少し、突っ掛かってたものが剥がれ落ちてきた」
晴哉の話を持ち出せば、美鈴ちゃんが黙ってしまうと分かっていたから言いたくなかったけれど、この話は晴哉が一番関わって来るから避けられない名前だった。
「幹太は、貴方が家の跡取りだからとか、年齢とか好みとかで冷たくしたんじゃないよ。私だけを思うからってのも違うと思う」
「でも、貴方が好きだなんて一目瞭然だもの。気を持たせないではっきり関係に名前を持たせたらいいんじゃないですか」
「確かに、結局はそうなるんだよね」
逃げてきた。
聞かないフリをしてきた。
言わないで黙って守って行こうとしている馬鹿も居た。
狂ってしまったのは、お互いに視線を外していたからだ。
太陽を見上げて、美しい桔梗を咲かせてくれてことに感謝する月。
絶え間なく温かい温もりに包まれて、夜は目を閉じて眠って月を見ない花。
どちらも、太陽を失ってから機能せずにただひっそりと生きていたのを、漸くやっと自分の意思でお互いを、お互いの光で認識始めたばかりだ。
「お待たせ、桔梗ちゃん」
睨みつけられていた私の前に、バイクで現れたのは巴ちゃんだった。
幹太とはまだ距離がある。ちょうど納品用のトラックが止まる場所に、私と幹太を引き裂くように現れた巴ちゃんに思わず笑ってしまう。
「ちょっと待って。スムージー零しちゃったの」
「あらやだ。私、何も持ってないわよ」
「私があるから大丈夫」
カバンからティッシュを取り出してそのまま座りこむ。
ティッシュのゴミを容器の中に入れたが、問題は美鈴ちゃんを納得させることと、この大型バイクに死んでも乗りたくないことと、――すぐそこに幹太が居ること。
「逃げるんですか? 幹太さんから。今もそこで桔梗さんを待っていてくれているのに」
確かに逃げることは卑怯だけど、今は会っても平行線のままな気がした。
0
お気に入りに追加
42
あなたにおすすめの小説
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
王子殿下の慕う人
夕香里
恋愛
エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。
しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──?
「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」
好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。
※小説家になろうでも投稿してます
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
愛しき夫は、男装の姫君と恋仲らしい。
星空 金平糖
恋愛
シエラは、政略結婚で夫婦となった公爵──グレイのことを深く愛していた。
グレイは優しく、とても親しみやすい人柄でその甘いルックスから、結婚してからも数多の女性達と浮名を流していた。
それでもシエラは、グレイが囁いてくれる「私が愛しているのは、あなただけだよ」その言葉を信じ、彼と夫婦であれることに幸福を感じていた。
しかし。ある日。
シエラは、グレイが美貌の少年と親密な様子で、王宮の庭を散策している場面を目撃してしまう。当初はどこかの令息に王宮案内をしているだけだと考えていたシエラだったが、実はその少年が王女─ディアナであると判明する。
聞くところによるとディアナとグレイは昔から想い会っていた。
ディアナはグレイが結婚してからも、健気に男装までしてグレイに会いに来ては逢瀬を重ねているという。
──……私は、ただの邪魔者だったの?
衝撃を受けるシエラは「これ以上、グレイとはいられない」と絶望する……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる