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「時」探し
真 実
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気付いた時には、目の前に番人さんがいて、しっかりしろよって言った。
私は涙でぼやけた視界で、番人さんを見つめた。
長かった前髪は左右に分けられ、そこから覗く顔は西の国の王子。
「俺の『時』を見せてやったんだぞ。しっかりしろ」
穏やかに微笑んでいた。
「何も言わなくていい」
大丈夫だから、と。
「ただ、お前の『時』が『時』の果てに行かないように願っているよ」
目線を下に逸らし、そう言うとゆっくりと闇に包まれて消えて行った。
そうか、私と番人さんを包みこむ闇は、『時』の闇なんだね。
封印されてしまった「オーバードライブ」の、時間。私と番人さんだけが知る時間。
私はスローモーションで、本当にゆっくりゆっくりと闇の中に落ちて行く。
さっきまで番人さんがいた場所に手を伸ばしながら、闇の中へゆっくりと。
番人さんの場所が遠ざかっていく。
薔薇を育てる美しいあの女性。
馬鹿だよね、って笑った優しい十字架の神様。
薔薇の約束を守った優しい男性。
戦争に心痛めて眠る月。
30分間を生きる思い出を描くおじいさん。
直向きに王子の夢を叶える王女様。
薔薇が散るのを哀しく見守るペガサス。
皆、たった一瞬で、奪われた。
人々の平和を奪った、人。
私、は何の為にあの人に会ったんだろう?
思い出すのはとても怖くて、まだ現実を直視できなくて。
あぁ、どうしよう。
そして、気付いたら私は、またあの場所に立っていた。
ザザン…… ザァン……
海が見える。
海の見える岬に佇む墓。
以前と違い白い薔薇が周りに映えている。
白いレースと純白のリボンに白いドレスを風になびかせて、その人はゆっくりと振り返った。
「待ってたわ」
以前より大人びた顔で、優しく真っ直ぐ私を見て、無邪気に笑うその女性。
もう、私は真実の究明を促されているんだ。
逃げられないほどに全速で、真実に近づいている。
泣く暇も与えられない程に。
「良かった。貴方に会いたかったの」
あぁ、私、「ここ」を知ってる。
「絵描きさん」だった番人さんも、知っている。
「……泣いてたの?」
目の前の女性は、優しく私の頬を手の甲でなぞった。
私は震えを必死に押さえながら返答した。
「私も、貴方に会いたかったです」
それは、とても違和感があるけれど。
「そうね、私たち最初に会った時も2回目も『夢』みたいに不安定な場所だったからね」
フフっと笑った。
そして、白いシルクの手袋に包まれた手を、合わせながら、彼女は食い入るように墓を見つめた。
「『時』の番人さんを知っているのよね?」
彼女が緊張しながら私に問いかけた。
私も、微かに頷く。
「今までずっと『時』の番人のそばにいました。番人さんは『西の国の王子様』、でした」
そう言うと、彼女はとても哀しそうに目を瞑った。
「うん。絵描きさんは国を一つ破壊して世界中の敵となった王子様だった」
ゆっくりと目蓋をあけた。
『嘘つき!』
彼女は遠い過去の思い出を見つめながら、
「会った時から別れる寸前まで、彼は私を騙してたの。私は、ショックで彼を酷い言葉で罵ってしまったの」
『また間違ったら貴方が消すの?』
遠い昔の『時』に、刻まれなかった残酷な時間。消したくて消したんじゃないのにねって彼女は大人びた顔で哀しげに笑った。
その笑顔からは、番人さんを本当によく知っているんだなって思う気遣いが感じられた。
「もう20年近くも前の話よ。私はあの時、まだ7歳だったの」
ポトリと音が鳴るような綺麗な涙が、彼女の頬を伝った。
「子どもって無邪気なふりして残酷よね。私はあの時、沢山沢山絵描きさんに、楽しい話から勇気を貰ったのに、
私は、私に心を開いてくれた絵描きさんを罵って拒絶して酷く傷つけてしまったんだわ」
彼女の流した涙は「懺悔」
そう。
不思議なんだけど間違いない。
私はこの女性の思いが手に取るように分かる。
この女性は「私」なんだ。
この「私」は絵描きさんに謝りたかったんだ。
「私ね」
彼女は私に背を向けて、墓を見ながらゆっくりと言った。
「結婚するの。今日、ここで」
今日でこの村から居なくなるの。
「絵描きさんを忘れた日なんてなかったの」
彼と恋に落ち、結婚が決まってからもずっとよ。
「だから、どうしてもまたここで絵描きさんに会いたいの。
この村を離れる前に最後に会って謝りたいの」
そして素敵な物語をありがとうって言いたい。
一つ ひとつ
大切な「夢」に気づかせてくれたから。
だから、私は貴方に会いたいの。
「奇跡を『夢』見てた私の、奇跡が叶ったこの日に」
また、会える事が出来たなら。
私は涙でぼやけた視界で、番人さんを見つめた。
長かった前髪は左右に分けられ、そこから覗く顔は西の国の王子。
「俺の『時』を見せてやったんだぞ。しっかりしろ」
穏やかに微笑んでいた。
「何も言わなくていい」
大丈夫だから、と。
「ただ、お前の『時』が『時』の果てに行かないように願っているよ」
目線を下に逸らし、そう言うとゆっくりと闇に包まれて消えて行った。
そうか、私と番人さんを包みこむ闇は、『時』の闇なんだね。
封印されてしまった「オーバードライブ」の、時間。私と番人さんだけが知る時間。
私はスローモーションで、本当にゆっくりゆっくりと闇の中に落ちて行く。
さっきまで番人さんがいた場所に手を伸ばしながら、闇の中へゆっくりと。
番人さんの場所が遠ざかっていく。
薔薇を育てる美しいあの女性。
馬鹿だよね、って笑った優しい十字架の神様。
薔薇の約束を守った優しい男性。
戦争に心痛めて眠る月。
30分間を生きる思い出を描くおじいさん。
直向きに王子の夢を叶える王女様。
薔薇が散るのを哀しく見守るペガサス。
皆、たった一瞬で、奪われた。
人々の平和を奪った、人。
私、は何の為にあの人に会ったんだろう?
思い出すのはとても怖くて、まだ現実を直視できなくて。
あぁ、どうしよう。
そして、気付いたら私は、またあの場所に立っていた。
ザザン…… ザァン……
海が見える。
海の見える岬に佇む墓。
以前と違い白い薔薇が周りに映えている。
白いレースと純白のリボンに白いドレスを風になびかせて、その人はゆっくりと振り返った。
「待ってたわ」
以前より大人びた顔で、優しく真っ直ぐ私を見て、無邪気に笑うその女性。
もう、私は真実の究明を促されているんだ。
逃げられないほどに全速で、真実に近づいている。
泣く暇も与えられない程に。
「良かった。貴方に会いたかったの」
あぁ、私、「ここ」を知ってる。
「絵描きさん」だった番人さんも、知っている。
「……泣いてたの?」
目の前の女性は、優しく私の頬を手の甲でなぞった。
私は震えを必死に押さえながら返答した。
「私も、貴方に会いたかったです」
それは、とても違和感があるけれど。
「そうね、私たち最初に会った時も2回目も『夢』みたいに不安定な場所だったからね」
フフっと笑った。
そして、白いシルクの手袋に包まれた手を、合わせながら、彼女は食い入るように墓を見つめた。
「『時』の番人さんを知っているのよね?」
彼女が緊張しながら私に問いかけた。
私も、微かに頷く。
「今までずっと『時』の番人のそばにいました。番人さんは『西の国の王子様』、でした」
そう言うと、彼女はとても哀しそうに目を瞑った。
「うん。絵描きさんは国を一つ破壊して世界中の敵となった王子様だった」
ゆっくりと目蓋をあけた。
『嘘つき!』
彼女は遠い過去の思い出を見つめながら、
「会った時から別れる寸前まで、彼は私を騙してたの。私は、ショックで彼を酷い言葉で罵ってしまったの」
『また間違ったら貴方が消すの?』
遠い昔の『時』に、刻まれなかった残酷な時間。消したくて消したんじゃないのにねって彼女は大人びた顔で哀しげに笑った。
その笑顔からは、番人さんを本当によく知っているんだなって思う気遣いが感じられた。
「もう20年近くも前の話よ。私はあの時、まだ7歳だったの」
ポトリと音が鳴るような綺麗な涙が、彼女の頬を伝った。
「子どもって無邪気なふりして残酷よね。私はあの時、沢山沢山絵描きさんに、楽しい話から勇気を貰ったのに、
私は、私に心を開いてくれた絵描きさんを罵って拒絶して酷く傷つけてしまったんだわ」
彼女の流した涙は「懺悔」
そう。
不思議なんだけど間違いない。
私はこの女性の思いが手に取るように分かる。
この女性は「私」なんだ。
この「私」は絵描きさんに謝りたかったんだ。
「私ね」
彼女は私に背を向けて、墓を見ながらゆっくりと言った。
「結婚するの。今日、ここで」
今日でこの村から居なくなるの。
「絵描きさんを忘れた日なんてなかったの」
彼と恋に落ち、結婚が決まってからもずっとよ。
「だから、どうしてもまたここで絵描きさんに会いたいの。
この村を離れる前に最後に会って謝りたいの」
そして素敵な物語をありがとうって言いたい。
一つ ひとつ
大切な「夢」に気づかせてくれたから。
だから、私は貴方に会いたいの。
「奇跡を『夢』見てた私の、奇跡が叶ったこの日に」
また、会える事が出来たなら。
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